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息遣い『僕と彼女の四季巡り』  作者: 珀武真由
19/34

 薔薇─僕と先輩の価値観?

おはようございます。

いつもありがとうございます。今回もおつき合いの程よろしくお願いします。


「お前、今日暇?」


 朝早く、受話器越しに高校時代の先輩からのお誘い。


「ええ、暇ですが、珍しい? どうされたんです」


 数時間後、インターホンが鳴り、ドアを開けた。


「おうぅ、すまんないきなり」

「ほんとですよ、で。」

「まぁ、飲め」


 部屋に招き入れた先輩の手には、ビールが入った袋が掲げられていた。


(飲まないと話せないことなのか?)


 先輩はリビングを隅々見渡し、ソファに落ち着くと訊ねた。

 

「今日彼女は」

「いません。今日は実家にいます」

「おっ、喧嘩? 「私、実家に帰らせていただきます」的な」

「しません、たまたまです! 先輩はどうなんですか?」

「あ、俺? 俺はほら」


 袋をがさがさ漁る先輩は缶ビールを出し、僕の口に捻当てた。


「喧嘩したんですね」

「タハァ~」


 子どものように頷く先輩は頬を弛め、目尻を下げ、苦笑していた。


「どうしよう。怒らせるつもりはなく」

「何したんですか」


 と、訊き返したが実のところ予想はつく。この人は高校からの先輩で今は折しも会社は同じ。


 会社はすごい偶然だった。

 そして噂も。高校の時と変わらずに、だった。


「はぁ、先輩。いくら顔が良いからって女遊びはいけません」


 そう、この人は女で話題がつきない、高校時代から。

 ジャニーズ系、もしくは韓流スターの優男を思わす顔のデキが良い先輩なのだ。

 高校の時はファンクラブもあり、ルックス、パフォーマンス、全てがほんとにいい男だ。


 あと偉ぶらない。


 休み時間も、一人でいたのを視たことがない。常に人集りの中心の先輩。

 男にも人気が高く、幅多い人脈を持つ人が珍しく僕を頼ってきた。


(ふぅ)


 この人の相談事は決まって女性関係。

 なぜ相談を受けるかって?

 僕も高校時代、告白され男としては有名だったらしい。(当時は気が付かなかった……)ある時、僕は女子に告られ断った。その現場を見た先輩はほざいた。


「お前、モテるのに何で女、侍らせないの?」


 高校の時に吐き捨てられたひと言が切っ掛けで、今に至る。

 当時は理解が出来ず、


 訳の分からんことを言う人だ。


 そう思い、相手にもしなかった。

 今にして当時に言われた「侍らす」という言葉の意味が解るが……、僕は今も昔もしたくはない。


 モテたところでどうとでもなく、二股三股で付き合って全てに気が回るわけでなく。

 所詮は水に油。火に油。

 万事、納まりよく終わる筈がない。所詮男と女。

 ─、相容れないのだから……。


 若気の至りといえば済む噺なのか、女遊びは程々にだ。

 でもこの先輩はそれは巧く、器用に、立ち回っていた。


 本命彼女が出来るまで。


「先輩、僕年下です」

「良いじゃん、お前の女捌きには心底惚れてるんだ」

「変な惚れ方しないでください、僕はあなたほど女子との交流はないです。それに彼女一筋です」


 ビールを飲み干した先輩のために新しい缶の栓を開け、渡すと同時に威張ってやった。


「なあ? すごいよなぁ、もう六年以上は成るよなぁ?」

「ですかね、たぶん。で先輩、今回は一人ですよね?」


 先輩に浮気人数の確認をした。


「一人だけどね。ストーカーされて困ってる。でね~」

「大丈夫なんですかそれ?」

「大丈夫。ただ」

「ただ?」

「焦って彼女にプロポーズをしたらタイミング? やり方? どれが悪かったのかなぁ─。怒られて、分からん」


 ……全てです。たぶん……。


 まだ午前中だというのに先輩はほぼ出来上がっていた。


「先輩、つまみ用意しますよ。チーズタッカで良いですね」

「おお、食べる。サツマイモはこういう調理でないと食わんな」

「……女子たち好きですよ?」

「うーん、お前と違って芋というか、甘々パッサは基本食わんのよ」

「へぇ、女性とデートが多いから慣れてるかと」

「イヤミ?」


 僕は薄ら笑いを先輩に送り、場を離れた。約三十分経った辺りで先輩の前に、フライパンに乗せたチーズまみれの料理を運んだ。

 ジュー、ジクジクとチーズは焦げ溶け、玉ねぎ、甘藷(サツマイモ)、鶏肉が程よく湯気を上げていた。鉄熱を帯びた白い色と茶色、鮮やかなオレンジが板の上で絡み合う。


「お前ほんとすげ─。料理出来る奴は良いね、それだけでポイント高い」

「先輩、作んないの?」

「出来るよ、目玉焼き」

「ああ、変わらずですね」


 残念そうに返事をしてると先輩は食べながら文句を云うが、糸引くチーズの方が気になって耳に入らなかった。

 大丈夫、大した文句は呟いてないから。


「で?」

「ストーカーは何とか成るが……彼女の方が」

「珍しいですね。先輩が怒られるなんて」


 僕はニヤけた。


「あのさ、女って薔薇で告らるのは」

「アウトですね」


 飲んでいた先輩の手が止まった。


「皆が皆嫌って訳ではないですよ? でも先輩の彼女さん、花より団子ですよね」

「ああ、そうだよ」

「で、節約家でしょ」

「おう」

「薔薇一本いくら? しかも貴方のことだからどうせ多けりゃいいと」

「五十本」

「やり過ぎましたね。僕、先輩の彼女の誕プレ、何上げたか覚えてます?」

「いや。覚えてない」

「ティフ○ールのフライパンです。買い換え時の話してたから」


 先輩は顎を撫で、一つ唸ると目を閉じ考えていた。


「あと、貯金するって言ってましたよね」

「ああ、そうだった」

「薔薇、二万以上したでしょう?」

「うん。した。あと指輪も買った」

「指輪は良いです、でも……」


 先輩は新しいビールを取り、栓を開け、ゴキュゴキュ、豪快に喉を鳴らせている。


「今回は仕方ない。買ってしまったんだし、薔薇五十本の花言葉も『永遠』『このまま互いが変わりませんように』とかですし」


 僕が花言葉を告げると先輩は顔を、キョトンとしていた。


「あ、そうか花言葉をプロポーズに利用すれば良かったんだ」

「まぁ、普通に渡すよりはまだ伝わりますね。近々結婚予定で?」

「……考えてはいる」


 黙々と酒を煽る先輩との宴会は続きお昼にピザを取り、冷蔵庫のワインを出した。

 珍しく、頬を赤らめる先輩がいた。


「先輩、茹で蛸です。大丈夫ですか?」

「お前が強いんだろ、うーん」


 瓶を抱え、先輩は隣でゴロゴロしている。


「先輩、薔薇渡したあとすぐ調理すれば?」

「えっ?」

「だって花束が嫌がられる理由は貰った時はうれしいが後処理に困るからですよ?」


 起き上がった先輩は目を擦り、まじまじと僕の眼を覗き込みその後、自身の眼を輝かせていた。


「少し手間ですが、花びら天日干しして紅茶やクッキーに」

「へぇ、さすがポイント(たけ)ぇわ」

「……違います」


 ワインの栓を持ち、僕は小気味にポンッと鳴らし、自分のグラスにポコポコ注いだ。


「僕も渡したんですよ」

「おお。なんだ、遣ったのか喜ばれた?」

「翌日、ザルの上で花が……天日されてました」


 僕と先輩は眼を合わせ固まった。


 グラスから手を離した僕の手を先輩はそっと取り、握手してきた。

 無言で頷く先輩からは可哀想にと、云われてるようで……。


「薔薇も美味しいですよ? ケーキ、クッキーに紅茶……」


 僕の声だけが部屋に響く。不思議に思う僕は、訝しみ隣を見た。

 酒瓶を抱き枕に先輩は寝ていた。くすりと笑い、僕は先輩にブランケットを掛け、一人で飲み始めた。

 玄関の扉の音が微かにした。


「ただいま、アレ?」

「シィ」


 帰って来た彼女はリビングの先輩を見るなり、小さく吹き笑う。


「何? 呑んでた?」

「うん。でそれは何持ってるの?」


 彼女の手荷物が気になる僕は彼女の背後に付き、抱き寄せ訊ねた。


「ああ、薔薇茶のパウンドケーキ。お母さんと作ったって聞いてる?」

「聞いてる……」


 僕は彼女の背中にぴったりと密着し、彼女の耳元で囁き、キスを交わした。


「ちょっと人前」

「先輩はああなると半日は寝るから大丈夫」

「あなたが気にしなくても私ッ」


 文句言う彼女の口を塞ぐ、僕がいた。


「もう!」

「これでも我慢……、ほんとは今すぐ犯したい」

「酔って?」

「る。僕の理性正すために飛び切り熱い珈琲とそれ、ごちそうして?」

「いいですよ、フフ。おもしろ」


 満面に綻ぶ彼女は僕の唇に軽くキスしたあと、用意をし出した。


(意地悪いなぁ。僕、理性飛びそうって言ってる端からそんな可愛いキス……)


 僕と彼女のあいだで咲く

 ──薔薇。


 は、お菓子にされました……。

 そのこともあって僕は、彼女に渡す花はなるべく一輪にしようと、心掛けた。


 数時間後──。


 先輩は眼を擦り、呑気に欠伸をし僕を探していた。

 ここのリビングはキッチンと繋がっている構造なので僕はキッチンから、先輩の様子を探る。


「あ、起きました?」


 起きた先輩に一声、掛けた彼女がお茶を出していた。


「相変わらず綺麗だね、一晩どう?」

「またまた。そんなことを軽く言うから~。変なのが付くんですよ?」

「そうですよ、先輩反省してます?」


 僕は彼女の横にスッと坐ると同時に先輩に、ケーキを乗せた皿を差し出した。


「うん!? これ」

「一口だけでも」


 先輩はこわごわとケーキにフォークを刺し、口に入れた。

 ナルナルと納得する先輩と彼女の三人で会話を弾ませたあと、先輩を玄関へ送る。

 靴を履く先輩が僕に、小声でぼやいた。


「お前って見た目以上に助平か?」

「~~~、見てたの先輩」

「すまん。覗いてた、いいもん見せられた。そんで寝た、なんか勉強させられたわ」


 勉強って……僕を茶化してますね? 先輩。


 僕の肩に先輩は軽く手を掛け、「またな」と言って去っていく。

 先輩の事後報告は上手く仲直りも出来、結婚話も進んでいるとのことだった。

 

 「仲良きことは美しきかな」


 先輩との今晩の約束確認のため番号を押している最中、そんな言葉が脳裡に浮かんでいた。




 

 お疲れ様です。ご拝読ありがとうございます。

早く出来上がったので、忘れない内に。

あと本文中に出てくるチーズタッカルビは簡単な料理で、つまみには良いですね。ワインもビールにも合う。

簡単です。チェダーチーズかスライスチーズで映えが変わります。各々で楽しんで見てください。

ではまたです。

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