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お見合い相手




あれから五年、サリアナは十五になり縁談の話しが舞い込むようになっていた。

その中で父が会ってみないかと絵姿を渡されたのは一週間前、断ることも理由も思い浮かばず頷いた。

お見合いの場にやって来たのは侯爵家の次男、グレイブ・ソルドバーレイと言う青年だった。

渡された資料を読んだが、評判は悪くなかったと思う。

侯爵家の子息と言う立場を捨て一から騎士として身を立てるほどの実力を持ち、二十二と言う若い年齢なのにそれなりの地位も確立していて部下にも慕われている。

たしか実の兄とも仲が良いと書かれていた。

お見合いの為にとドレスを新調し侍女たちの手で美しく着飾ったサリアナはグレイブ・ソルドバーレイと対面した。

テーブルとイスが二脚、保護者となる互いの親は席を外す形でのお見合い。

完璧な二人きりと言う訳ではなかったが、サリアナは父とレイルを覗いた男性と二人になる空間は初めてのことだった。

先に来ていたのか椅子に座っていたグレイブ・ソルドバーレイが立ち上がり迎え入れる仕草をする。

短くそろえられた黒い髪に鋭さを見せる赤みを帯びた瞳が印象的だった。

エスコートされ椅子に座るとグレイブ・ソルドバーレイはジッとサリアナを見つめるだけで何も喋らない。

無言が三十分続き、さすがに周りの者が困惑した様子になり、互いの目付け役である侍女と従者が視線で何言いあっているのがわかる。

サリアナは何も言わずこちらを見つめるグレイブの視線を真っ向から受けてたちそのまま一言も喋らずにお見合いは終わるかと思っていたら漸く彼の口が動いた。


「ロンブル公爵の令嬢は二人と聞いていたが、あなたはどちらか」


唐突な質問の内容に部屋の中に居たすべての人間が息を呑む。

この時の心情を表すなら、何言ってんだコイツ。だろうか。

現にこちらの、サリアナのお供としてきた侍女の顔が急に険しくなり恐ろしいものになっている。

いや、侍女だけでなく向こうの従者も頭を抱えたいような表情をしていた。


「……姉、になりますが」


グレイブ・ソルドバーレイは異母妹をご指名だったのか、異母妹はまだ十三だ。

そこまで考えてサリアナの瞳に険呑な色が滲み出る。


「なんだ、妹君じゃなかったのか。申し訳ない、軍に属しているとそういったことには疎くあなたがどちらかわからなかった」


額面通り受け取れば良いのか、多少悩みはしたが見え透いた嘘に鼻で笑いたくなる。

縁談を申し込んできたのはそちらで、絵姿も渡されている筈だ。結婚相手に選ぶくらいなのだからお見合い相手の情報だって集めている筈だ。

現にサリアナは事前に父から相手の資料を渡されている。

ざわりと、嫌な感情が心を撫でる。


「そうですか」


返事が素っ気ないものになったがグレイブは気づいていないのか、気にしていないのか特に態度は変わったようには見えない、壁際に居る従者の方がダメージを受けているように見受けられた。


「妹とは、可愛いモノなのでしょうね」


なにが言いたいんだこの男。

侍女の顔は既に般若の如く険しさを纏い、彼の従者はお腹を抱えだす。その顔には冷や汗が見えた。

異母妹は十三、まだ十三だとわかっているのか。

湧き上がるざわざわっとした感情が顔を出しそうだ。


「私は家族も男ばかりで軍でも男に囲まれているものですから、女性の扱いに慣れておらず不快な思いをさせないかと……妹君だったらどう接するかばかり考えてしまって」


すぅっと心に冷たいものが流れていく。

既にサリアナの表情は怪訝なモノから無表情へと変わっていた。


「ロンブル嬢、実は……」

「異母妹に近づいた瞬間切り落とします」


「え?」っと部屋の中の者が驚きで思わず声を上げた。

サリアナはにっこりとそれはもう愛らしい笑みをグレイブに向けて言った。


「異母妹に近づけば、あなたのものを切り落とします」


言葉は多少変わったが意味は同じ、サリアナの口から出たとは認めにくい言葉に誰もが息を呑んだ。


「あの子は私の異母妹です。……十三の異母妹に近づくと言うなら、容赦は致しません。私の全力を持って切り落とさせて頂きます」


ふんわりとした愛らしい微笑みなのに内容が物騒過ぎる。

それを聞いていた従者は顔色を青くさせて怯えているし侍女は拳を作ってお手伝いしますと呟いていた。

言われた当のグレイブは目を瞠り、黙り込んでサリアナを凝視している。

話しは終わった、そう判断したサリアナは立ち上がるとドレスの裾を摘まんでも持ち上げた。


「では、もうお会いすることもないでしょう」


寸分の狂いもなく美しいとされる動作で別れの挨拶をし振り向くことなく部屋を出る。

後をついて部屋を出た侍女は扉が閉まった瞬間憤りを顕にし、それを見たサリアナは自分の中にある嫌な感情が少しだけ和らいだ気がした。


屋敷に戻るとレイルが玄関ホールで待ち構えていた。

その後ろには執事見習いのポールが付き添っていたらしく、その手には薄手の毛布とカップの置かれた銀盆があり長時間そこに居たことが窺えた。


「お帰りなさいませ姉様。お見合いの方はどうでした?」

「どう、と言われても……」


なんと答えていいのか、悩む姉の様子にレイルは眉を寄せた。

言葉を探しているサリアナの後ろで侍女がもう我慢できないと喋り出す。


「あの方、よりにもよって異母妹君の話ししかしなかったのです!しかもその話しをする前は三十分も無言で、失礼にも程がありますわ!」

「三十分の無言、ですか」

「なんだそれは、姉様さぞお心を痛めたことでしょう。そんなふざけた相手断って当たり前です!」


侍女の怒りにつられるようにレイルたちの表情も険しくなっていく。

それを見たサリアナは微笑してレイルの頭を撫でた。


「レイル、私は別に傷ついていないわ。ただ、異母妹が酷い目に合うかも知れないと思ってクギは指してきただけよ。だってあの方、私のことを知らないようでしたもの」

「なっ!?」


あの言葉が事実だったにせよ知らなかったとは、酷い話ではある。

第一印象が良かっただけに残念に思う気持ちもあった、普通ならば、何が何でも婚約し結婚まで持っていきたい程の優良物件だろう、だがサリアナは宣言通りもう二度とグレイブに会うつもりはない。

それよりも異母妹に気を付けるように注意を促す方が大切だ。

もし、彼のようなロリ、へんた、……男に狙われでもしたら彼女の身が危ない。それに何か起こればロンブル公爵家の名まで奇異の目で見られてしまう。

憤る三人を玄関ホールに置いて行き、サリアナは異母妹がいる部屋へ向かった。




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