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公園1




「待ってよお姉ちゃん!」

「もう、ほら早くっ」


しっかりと手を繋いだ二人は何か言い合いながら楽しそうに駆けていく。

サリアナはそんな二人んぼんやりとした様子で見送っていた。


「ロンブル嬢?」


隣に立つグレイブに声をかけられても直ぐには気づかず、どうしたのかと心配そうにする彼の視線がずっとサリアナを見下ろしていた。

今日は手紙の約束通り、王都の上流階級の貴族がよく使う公園に来ていた。


「……いえ、仲の良い姉弟だと思って」


思わず見入ってしまいました、と笑うとグレイブが同じように彼の姉弟に顔を向けた。

今も手を繋ぎ走っている二人はとても仲良さげに見える。

サリアナに視線を戻したグレイブはサリアナが少し寂しそうな瞳をしていのに気づき首を傾げたくなった。

話を聞く限りではサリアナもあの姉弟に負けない仲の良さだと聞いている。

喧嘩でもしたのか、そんなことを考えていたらサリアナが顔を上げてグレイブを見上げた。


「ソルドバーレイ様は、どうして家を出たのですか?」


突然の質問にグレイブは瞬きを二回ほどしてから目線が上に上がる。


「どうして、ですか」


グレイブの頭の中で色々考えと思い出が甦り眉間に皺が寄った。

なんと説明すれば良いか悩んでからサリアナへ目線を戻すと真剣な表情で見上げたいるサリアナと視線が合う。

身を固くし、グレイブの答えを待つ姿が今にも崩れてしまいそうな危うさを感じさせる。


「……もうすぐ、兄が結婚するので家を出ました。独り身の男が家にいるのは良くありませんから」

「お兄様が結婚、ですか……それは喜ばしいことですわ。御祝いの品は何にすれば良いかしら」


さっきまでの危うさを消して笑うサリアナにグレイブはバスケットを持つサリアナの手を取り近くにあるベンチに誘導した。

二人で隣り合って座りグレイブはサリアナから目を離さず話を続ける。


「と、言うのは建前です」

「え?」

「実はあまり家に居たくなかったと言えば、あなたは驚きますか?」


グレイブの言葉に隠れてしまった危うさが舞い戻りサリアナはまた、身を固くする。

なぜ?どうして?そんな疑問が彼女から溢れていた。


「苦手なんですよ」

「苦手?なにがですか?」

「兄の婚約者が」


思ってもいなかった返答なのだろうサリアナの瞳が見開かれる。

グレイブは苦笑してなんでもない軽い口調で昔を思い出しながら話す。


「兄の婚約者は私が物心つく前から決まっていてよく我が家に遊びに来てました。兄は当然ながら婚約者ですから相手をしていたんですが、途中から面倒がって私に押し付けて逃げ出すようになったんです」

「まぁ」

「幼い私は純粋に兄の頼みを聞き入れてしまいあの女の下僕にさせられて……今思えば何故断らないと後悔していますけどね」


ふっと陰を作って笑うグレイブはどこか遠い目をして哀愁が漂っていた。

なにがあったのだと聞きにくい空気があってサリアナは迷ったあげく、そっとグレイブの腕に手を添えた。

その仕草にグレイブは少しだけ嬉しそうに瞳を和ませる。


「その日から私の地獄の日々が始まったと言ってもいい、兄の婚約者は兄を好いていたので兄に近づく女性がいれば即座に喧嘩を売りにいったり癇癪を起こしたり、それはもう酷い有り様で……この女が自分の姉になるのかと幼いながらに絶望したのを覚えてます」


グレイブが兄の婚約者が起こす全ての被害を受けている間、兄はのびのびと過ごしていたこともあり当時のグレイブ少年の心は大いに荒れた。

本当なら、グレイブ少年の位置に兄がいるはずだったと考えれば当然のことだろう。


「成長するにつれ兄の婚約者は多少大人しくなったんですがどうも一緒にいるのは苦手で、つまりは……逃げたんです」


これ以上の巻き込まれるのはごめんだと騎士団の寮へ急いで入った。

この事情を知ってるのはコーリエぐらいで、兄は何故家を出るのだと拗ねてごねたくらいだ。


「そう、だったんですか……」


労る気持ちが滲んだサリアナの声にグレイブは添えらた手に自分の手を重ねて向き合う。


「このような話ですが少しはあなたの役に立ちましたか?」

「……ソルドバーレイ様」


グレイブの言葉を聞き驚いた表情を見せるサリアナは目をさ迷わせてから何度か口を開けては閉じを繰返しから先程の姉弟たちがいた方に顔を向けた。


「私、……私は弟たちが大切なんです。ずっと守っていこう、私がちゃんと二人をって、そう思っていたんだすけど……」


レイルの言葉を思いだしサリアナは口を閉ざした。

手の中にあったものが零れてしまったみたいな感覚に無意識にグレイブの腕を強く握ってしまう。


「私は、いつかは要らなくなる存在なのだと気づいたんです」


いつかは二人も成長してサリアナの手から離れていってしまう、その事に気づいたサリアナはどうしようもなく怖かった。

自分の足元がぐらつくような不安に苛まれるたび、何とか目を反らしてみたがやっぱりその不安はいつもサリアナを襲ってきた。


(このお見合いだって……)


マリアを守るため、母の願いを叶えるため、そんな義務感から始まったものだ。

そこに意味がなくなることがあれば、サリアナはきっとわからなくなってしまう。

幼い迷子みたく、グレイブとどう向き合うべきか悩むだろう。

この手を、離さなくてはいけない日が来るかもしれない。

そう考えるだけでも不安は大きくなった。


「あなたが要らなくなるなんて、どうしてそう思ったんですか」


低い、重みのある声の咎める口調にサリアナはゆっくりと顔を隣へと動かした。

怒っているのか、眉が少し上がり瞳が鋭くなったグレイブからピリッとした雰囲気が放たれていた。




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