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騎士団訪問2

初めてのグレイブ視点




最初は断るつもりだった。

漸く騎士として認められはじめ部下を持つ立場まで来たと喜んでいた矢先の事だ。

任務で王都を離れていたグレイブは従者であるコーリエの言葉に動かしていた手を止めた。


「いま、なんだって?」


王都から数十キロ離れた村で問題となっていた盗賊を討伐し終えて帰って来たのは夜中と言って良い時間。

そのま独身寮に帰って寝るわけにもいかず執務室に戻るとグレイブの帰りをまっていたコーリエが手にしていた手紙を開いて内容を伝えてきた。

外套を脱ぎ騎士服を脱ごうと上着のボタンを外していたグレイブはその内容に顔を盛大に顰める。


「ですから、ロンブル公爵家との縁談の話しが上がっているので今日の昼に指定の場所に行って会うようにとの事です」

「俺は今帰ってきたばかりだぞ」

「たぶん、大旦那様はソレが狙いだったんでしょう」

「狙いって……」


妻が妊娠中でいつ生まれるかわからない状態の隊員が早く帰りたいと嘆くので寝ずに馬を走らせてきたこともあり寝不足で思考がうまく働かない。

グレイブは止めていた手を動かしながら父の顔を思い浮かべる。

任務に出る前日に王都を出る旨を伝えに行った時は普段と変わらない様子だった。

兄にも会ったが別におかしな言動は見受けられなかった。

頭を悩ませていると水を用意し執務机に置くコーリエが仕方がないと言った態で話す。


「グレイブ様、先日のお見合いはどうなさったか覚えてます?」

「先日?……ああ、断りの手紙を送ったな」

「そうですね、会うこともせずに送りましたね。ではその前のお見合いは?」

「その前は、……任務が入って行けなかったから代わりに断りの手紙を送った」

「そうですねぇ。無理やり任務入れてくれちゃったから休みが潰されて不満の声が上がってきましたよね。じゃあ、その前の前のお見合いは?」

「……体調を壊して断りの手紙を――」

「そうそう。仮病まで使って断ったんですよねぇ。で、今回は?」


そこまで言われてグレイブは押し黙った。

なんとなくだがコーリエの言いたいことがわかって来たからだ。


「……前日ですね。任務終わりですね。体調も崩していませんよね。で、どうします?」


手紙をヒラヒラと仰ぎ上着を脱ぐ姿勢で固まったグレイブに問いかけてくるコーリエの顔は意地悪くニヤニヤと笑っている。


「相手はアンタの家より各上ですし、今回は諦めて行って下さいね。それにいつまでも独り身ってわけにもいかないでしょう?俺だって侯爵からチクチク嫌味言われ続けるの嫌ですから」

「おい、最後の本音だろ」


コーリエは手紙を執務机に置いてグレイブが脱いだ外套をハンガーにかけ、新しい服を棚から出して着替えやす用に設置していく。

それを見ながら急き立てられるようにグレイブは新しい服に着替えた。


「断るにしても会うだけはして下さいね!あと、ロンブル家のご令嬢は二人いるそうなんですけど手紙には名前書いてなくてどっちが来るかわからないんでそれとなく探って下さい」

「は?探るって、何を?」

「名前ですよ姉か妹どっちか聞かないと話し進まないでしょう」

「……ああ。まぁ」


言われてから気づき頷いたは良いがグレイブは気が重くなっていくのがわかる。

コーリエの言う通り相手は公爵家、各上のしかも王族の親族にあたる家との縁談だ。

今までのように手紙で断りをいれるなんて許されるわけがない。

重くなる頭と一緒に気持ちまで重くなっていき疲れ切ったため息が吐き出された。






「中身はサンドイッチなのですけど、これなら初心者でも簡単に出来ると我が家の料理長のグースが言うものですから」


バスケットの中から具材を挟んだパンを一切れ取り出し渡してくる少女にグレイブはドキッとする胸を無視して受け取った。

お見合いの場として指定された紅茶の店にやって来た小柄な少女の最初の印象は大人しく控えめな人だと思った。

何を話して良いかわからず黙り込んでいると壁際に控えるコーリエから冷たい視線が向けられ漸く喋った内容は今思い出しても酷いものだったと自覚している。

彼女を怒らせ剰えあのような発言までさせてしまった自分の不甲斐無さに初めて反省した。


(しかし、あんなことを言われて胸が高鳴るとか……俺は変態か)


決して口にしないであろう清廉さを醸し出す少女の口から出た過激な言葉と冷たい目に不覚にも胸が鳴り、その後にさっきまでの事が嘘みたいない微笑を向ける少女の姿にまた胸が鳴り、可愛いとさえ思ってしまったあの日。

グレイブは少女、サリアナに恋に落ちていた。

しかし、次に会いたくとも怒らせて二度と合わないとまで言われてしまった後ではどうしようもなく。

謝罪の手紙を書いてどうにか許してもらい、そこからもう一度だけチャンスを貰えないか願う文章を考えていた。


(それが彼女の方から次を申し出てくれて……)


その時の喜びをどう表現していいか、手紙を手に静かに喜ぶグレイブを見たコーリエが気味悪そうにしていたのだけは覚えている。

此処で失敗は許されない。

彼女の年齢で喜ぶものを考え、悩みに悩んだ末に父方の従姉妹になにを貰ったら嬉しいか聞いた。

サリアナより年齢は一つ下の従姉妹は可愛いものが好きな少女で間を置かずに大きなヌイグルミだと答えた。

たしかに大きなクマを抱きしめる彼女はとても可愛いだろう。

止めようとするコーリエを無視してグレイブは大きなヌイグルミを買いに店を訪れ注文している時に思い出した。


(確か、妹と弟がいるんだったか……)


兄弟を大切にしていることは最初のあの時の様子で知っっている。


(将を射んと欲すれば先ず馬を射よ)


父がよく口にしていた諺を思い出し、大きなヌイグルミと共に小さなヌイグルミも注文した。


「お味はでうですか?」

「……美味いです」


心配そうに見上げるサリアナを安心させる為に口いっぱいにサンドイッチをほう張りながら返す。

グレイブの言葉を聞きホッとした表情になるサリアナはコーリエの用意したカップに手を伸ばし人心地着いた様子だ。


「私、はじめて料理をしたのですけど……とっても楽しくって、料理が出来た時の気持ちが高揚しすぎてそのままここまで来てしまったんです」


連絡も無しに来てしまって申し訳ありませんと謝る彼女のは少し照れが混じった表情も愛らしい、サリアナはその表情を誤魔化すようにカップで隠そうとする。

その動作すらグレイブには可愛く映ってしまいついつい食べるのも忘れて見入ってしまう。


「でも、普段見れないソルドバーレイ様を見れたので少しだけ得をしました」

「それは、なんともお見苦しいものを……」

「いいんです。だって、いずれは……その、」


言いよどむサリアナにグレイブはピシっと身を固くした。

その先の続きが気になり、期待してしまう。

黙り込む二人の様子を生暖かく見守るコーリエと微笑ましそうに眺めるミラの視線に気づかず。

二人は静かに互いの視線を逸らして恥ずかしそうに黙々とサンドイッチの消費に集中した。

今度は正式に騎士団に申請し見学しに来ると話すサリアナにグレイブは絶対にその日は外の仕事は入れないと決めた。

コーリエが送ってもらうと言うサリアナの言葉を無視しグレイブが門まで見送りに出ると今日の当番である警備兵の二人が驚愕した様子で凝視していたがそれすら気にならずグレイブはサリアナの乗った馬車が見えなくなるまでその場に居続けた。


(今度は何送ろう……うさぎか?)


お見合い相手に送るには聊か間違った方向の贈り物を想像する彼に隣にいたコーリエは一人その思考を正確に読みとってしまい微妙な顔をしていたが、それに気づくことなくグレイブはうさぎか猫かと悩んでいた。





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