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ローズフォース  作者: DA☆
Procedure 3 カナリー バード
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3-13

 そうして、月明けから、めぐみとゆきのは学校に、さおりは会社に行くことになった。


 部屋には、中古ではあったが、ランドセルと、学生鞄が届けられた。サンフラワーが準備して持ってきたものだった。小学六年生のランドセルがど新品だったらちょっと悲しいが、新入生となるゆきのの鞄が中古というのはどんなもんだろう。しかし、ゆきのは初めての革鞄の感触にご満悦だった。今の彼女は、学校に関することだったら何でもかんでも悦びの対象なのだった。


 めぐみの行く小学校は公立で、歩いて五分くらいのところにある。ゆきのの高校は私立共学で、これも徒歩圏内だった。あたしの場合、自宅から学校まで一〇キロ以上距離があって、チャリ通学の名目でこっそりバイク通学をしていたが、それに比べると驚くほどの近さだ。


 サンフラワーは住民票を勝手に作ったのと同様、彼女らの入学書類なんかも勝手に作り上げてしまったわけだ。すると彼が学校を選ぶ基準は、ローズフォースとしての運用第一、すなわち学校とローズフォースが両立するように通学が容易なところを選んだのである。幸い、ゆきのはあたしたち四人の中では圧倒的な学力を誇る。高校に入る前から微積分ができるという驚異、灘開成クラスの進学校でない限り、普通科だったらどんな高校でもついていけなくなる心配はなかった。


 学校に行くために必要な細々は、サンフラワーに頼めば何日か後には彼が取りそろえてくれた。鉛筆消しゴム、三角定規、ソプラノリコーダー、小学生には特に小学生専用の面倒なものがいろいろあって、しばらくの間はめぐみが四人の中でいちばんの物持ちだった。


 さおりにスーツやバッグも準備された。彼女の強硬な主張により、バッグのブランドはヴィトンとなった。「ベツにブランド志向っていうわけじゃないけどー、ひとつは持ってないとさー、カッコつかないじゃんっ」それをブランド志向っていうんじゃないのか。まー、あたしだってグローブだけ海外メーカーのハイグレードなのにして満悦したりしてたけどさ。


 このときのサンフラワーの答えが奮っている。「───本物を買う予算はありません」「あ、ゼンゼン平気。パチモン上等」さおりもさおりである。


 他の持ち物も増えてきた。ビデオデッキは常備され、それを納めたローボードの上には外線電話が取り付けられた(むろんあたしたちにはかけられない電話番号もある。取り付けられた夜に、めぐみが電話の前でじっと立ち尽くしていたのが切なかった。自分の家の番号を押そうとして、ロウシールドの制限をくらったのである)。携帯電話も近いうちにサンフラワーが準備してくれるそうである。それは、ローズフォースとしての連絡用も兼ねる特別製で、つまり、サンフラワーからのヒミツ指令が飛んでくるかもしれないってことだ。


 そして最後に届いたもの。


 マンションの玄関脇に植わっている桜が薄紅の花をつけ始めたある日、ぴんぽん、と玄関のチャイムが鳴った。尋ねてくる知人のあるわけがない住まいである、何事かと思えば、宅配便だった。


 包みを受け取り、水沢印のはんこをついたのは、めぐみだった。


 「開けちゃっていい?」


 めぐみはまだ贈り物が届くとその中身に関わらずどきどきできる体質らしく、箱をちゃぶ台の上に置くと、包装紙を留めているセロテープに指を這わせた。


 もっとも、宅配便自体、この部屋にとって初めてのできごとだ。あたしだって、中身はなんだろうとどきどきものだった。差出人を見ると、そこには知らない会社の名前があって、内容物は「衣料」となっており、相応に軽かった。そして宛先は―――水沢様方高岡ゆきの様となっていた。


 そのときゆきのはエプロンをつけて夕食の準備中だった。タマネギを切る小気味良い音が、とんとんとん……と伝わってきていた。


 「ゆきのお姉ちゃんに宅配便だよ」めぐみがリビングから呼びかけた。


 「私に? 誰から?」


 「よくわかんないけど、衣料って書いてある。来ないとあたしが開けちゃうよー」


 「衣料……」包丁の音が止まった。きりをつけてから来るだろうと思って、あたしとめぐみはまたその箱に一瞬目を戻した。……一瞬だけだったと思う。はっと気配を感じて顔を上げるとゆきのはもうそこに立っていた。ワンステップかツーステップですっ飛んできたのだ。


 「お姉ちゃん、包丁! 包丁!」刃物を握ったまま立ち尽くす姿は、強盗か山婆か。しかし目があたしたちを見ていなかった。食い入るように、箱だけを見ていた。鬼気迫る無表情、とでもいえばいいのか、邪魔すると取って食われそうだったものだから、あたしたちは思わず後ずさった。


 それで空いたスペースに、ゆきのはすとんと腰を下ろした。包丁を傍らに置き、エプロンで手を拭いながらも、視線は届いた包みから決して離れなかった。


 表情を変えることなく箱に触れた。セロテープをはがそうとしたがうまく爪がかからない。もどかしくなったのか、彼女は包装紙を引き裂いた。いつもなら、チョコレートの銀紙だってしわひとつつけずに開ける几帳面なのに。


 中身は、艶のある、化粧箱。ゆきのはごくりとひとつ唾を飲み込んでから、蓋をそっと開けた。


 ―――ゆきのは肩を震わせて激しく泣き崩れた。


 それは、高校の制服だったのだ。


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