7-19
そして、あたしとクリスタルとの決戦が始まる。
地球と月の間を飛ぶ金ぴかのシャーレの上。ヴァインを身にまとい、あたしはクリスタルを睨みつけた。
狙いはただひとつ。ローズサイコパスでヤツの体を貫くこと。そのときあたしたちの精神がつながり、あたしの体は動くがヤツは麻痺する。……はずだ。そのために、ヤツのワープを誘い、自滅への鍵を見つけ出すこと。
握る手に汗が滴る、そんな感覚さえ生まれてくる。ぎゅっと握り直して、あたしはその白い輝きをクリスタルに突きつけた。
「こいつは精神体を倒すことのできる武器だ。サンフラワーが作り上げた。……どうだ? 怖いか?」
「怖くないといえば嘘になるが」クリスタルは答えた。「それを扱う者が怖くない。おまえの攻撃などこの俺には当たらんよ」
「やってみなきゃわからんさ」何度かそれを手の中で回転させた後、腰を沈めて身構えた。
時間はかけられない。ゆっくり昇っているように見えるけれども、地上の邸宅が豆粒に見えるほどの高度まで達したからそう見えるだけで、本当はむしろ加速している。雲ひとつない空を抜けて、ぐんぐん宇宙へと近づいている。
タイムリミットは、この円盤が地球の大気圏外に出るまで。それがいつかは、あたしにはわからない。大気圏というのは、どこからどこまでと決まっているものではないのだと、理科の資料か何かで読んだことがある。しかし精神体には、あたしたちの知らない明確な基準があるだろう。その一線を越えた瞬間、すべては終わる。
……クリスタルの姿は、月の光と下からの反射光を受け、触れることも憚られるほど神々しく輝いていた。
あいつは強い。戦ったときも戦わなかったときも向かい合うたびに、じりじりとした威圧感を、自分より優れた者と相対したとき生じる焦燥を浴びせかけてくる。今だって、そうなんだ。あいつには勝てないって心の底で感じている。力量の差というよりも、「戦ってはいけない相手なのだ」という畏怖。
でも、耐えろ。一撃。一撃だけでいいんだ。一撃でもローズサイコパスを命中させれば、あたしの勝ちになる。できる、必ずやってやる。
ローズサイコパスをもう一度ぎゅっと両手で握りしめ、「行くぞ!」足下の金貨を蹴散らして、あたしはクリスタルに向かって猛然とダッシュした。奴の目前で高く跳ね上がると、サイコパスを大きく振りかぶり、脳天めがけて思い切り振り下ろす。
「ふん」
クリスタルは鼻で笑っただけでワープして消えた。サイコパスは空を切り、シャーレに叩きつけられて財宝を飛び散らせただけだった。
───どこに消えた?
一瞬立ち尽くしてしまった。前方にはいない、と気づいたとき、あたしは反射的に高くジャンプしていた。そのとたん、あたしのいた場所を、白色の光条が飛び抜ける。クリスタルは背後にいたのだ。そしてファイヤークリスタルを放ってきた。
空中で体を反転させながら、いったんローズサイコパスを肩飾りの中に戻し、代わりにローズアームズを取り出してふたつに分割した。クリスタルの次弾のチャージはもう終わっており、砲口をあたしに向けてくる。今まさに発射されんというタイミングで、あたしはアームズをブーメランの形状に変えて立て続けにヤツに投げつけた。「これでも食らえ!」
「ムッ?!」ファイヤークリスタルは発射されたが、ローズブーメランの動きに一瞬眩惑されたか、狙いがそれてあらぬ方向へ飛んでいく。あたしはそれを横目に見つつ、すぐにローズブリッツを呼び出した。
ローズブリッツは狙いをつけるまで時間のかかる技だ。クリスタルもそれはわかっているらしく、ふんと鼻で笑って三発目のチャージを始める。同時に、あたしの投げつけたブーメランを、軽く身を揺らしただけで避けた。
だがブーメランは反転して戻ってくる。彼はまったく動じずに戻りの攻撃も避けたが、回避行動の間に三発目のチャージと照準合わせをわずかに遅らせることができた。その間にローズブリッツの発射態勢が整う!
「行っけぇローズブリッツ!」
降り注ぐ稲妻の雨。ブリッツは準備さえできてしまえば後は速い。これならワープも間に合うまい、チャンスと見て、あたしはその後を追うようにして突っ込んだ。
だがクリスタルは、動じもせずさっと手を前に差し出した。すると、そこに青いガラス板のような巨大な壁が現れた。背丈の二~三倍くらい、ローズイージスよりいくらか広い巨大な光の盾。
「ウォーター・クリスタル」
稲妻の雨はその中に吸い込まれて消えた。ブリッツをすべて受け止めると、役目を終えたかのように盾は消えていった。残ったのは、たっぷりチャージされてから発射された三発目のファイヤークリスタルに向かって、無防備に突っ込んでいくあたし。
全神経を集中して避けたが、わずかに脚をかすめた。……かすっただけだというのに、ゴーグルの中の防性粒子のゲージが勢いよく減じていく。
その苦痛に耐えながら、どうにか間を取り、体勢を立て直した。
「ちっくしょ……」
「まぁ、君はじゅうぶんに戦っているよ。だが、ブルーローズに管理されている以上、君は自分自身がブルーローズより弱いことは理解しているだろう? そして俺がブルーローズより強いことを君は知っているはずだ。わかるだろう? 三段論法さ」
「るっせぇ! そんなん、武器の強さだけだろうが!」
……うろたえるな。
あたしは、一撃当てるだけでいいんだ。それで勝てるんだ。強いか弱いかじゃない。




