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やがてゆきのは、床にこぼすようにほろりと言葉を発した。
「……私は強くなったでしょうか」
サンフラワーは答えた。「数値的には、とても。いえ、十分に───昨日みずきさんにお会いしたとき、あなたが強くなろうとしていることを伝えたら、ずいぶん喜んでいましたよ」
ゆきのは一瞬顔をほころばせたがやはり顔は伏せたままで、すぐに硬い表情に戻った。
「強くなるために、私なりに努力したのは確かです。このままではみなに迷惑をかけるし、何より自分が弱いままでいるのがいやだったから───ただそこで私は、ひとつの予感に基づいて、具体的な目標を置いてしまいました。
その目標を超えたのかどうか……、いえ、超えられるのかどうか、それがわからないんです」
「確かめるいい機会だとは思いませんか」
「比較さえ怖くて。……いつか来るとわかっていたのに、いざやってくるとこんなにも怖いなんて。───勝ち負けじゃないんです。それなら負けたってかまわない。でも……」
ゆきのは、ばっと顔を上げて言った。
「ヒマさん。シトリンを救う方法はないんでしょうか。クリスタルの下位精神体である現実から、彼女を切り離す方法はありませんか」
「ありません」サンフラワーは即答した。その問いにだけは、怒りにも近い厳しい声だった。「我々には、考えるだけでもまったく馬鹿らしい話ですが、あなたのために少し仮定で話をします。
たとえその方法があったとしても、彼女が犯罪者集団のひとりであることに変わりはありません。法の網から逃れたりあなたとの友情に免じて赦されたり、なんて奇跡は起きません。起きたとしても、僕が阻止します。僕らには法の方が重要です」
「ですよね」ゆきのはまたうなだれた。「ごめんなさい、無理を言って」
しばらくふたりは黙っていた。ゆきのはまだ言いたいことがあるのを押し込めるようにしていた。押し込めた言葉がやがて涙に変わり、ぽとり、ぽとり、と床に落ちていく。
「心中お察しします。でも、もう手遅れです」
「それじゃあ、私は、私たちは」堪えても涙を止められなかった。嗚咽混じりに、ゆきのは言葉をこぼした。「出会ったときから手遅れだったんですか。これは、避けられない運命だったと」
「運命なんて言葉、使わないでください」サンフラワーの言葉もどこか苦しげだった。けれど、冷静さと冷徹さを保ったまま、彼は言った。「運命って言葉は、自分が決めたこと決めなきゃならないことを、さっさと過去に押し込めて忘れてしまいたいときに使うものですよ。運命で片づけちゃいけないことがいくつもあるでしょう───たとえば、あなたが病弱な体で生まれてきたこと、とか」
ゆきのが、涙にまみれた目を、大きく見開いた。
「避けられない、ならば───せめて、声が、届くうちに……」
膝に置いた小さな拳を、ぐっと握りしめた。
「お父さん、お母さん───主任さん……私、私は、」
ゆきのは、顔を上げて両手で涙を拭うと、くっと嗚咽を飲み込み、鼻をすすり上げた。ようやくサンフラワーと目を合わせ、そして尋ねた。
「サンフラワーさん。私は、どうしたらいいのですか?」
「あなたが人間としてその言葉を発しているのなら、『自分で考えろ』と突き放すだけです。でも、あなたはローズフォースです。我々の命令に従って動く、単なる兵器です。兵器なのですから、戦いなさい。あなたが使用者たる我々を満足させる働きをするならば、その過程であなたが何を得、どう感じ、どう変わっていくのか、そんなのは僕の知ったことではありません」
「とてもよくわかりました。それから、ありがとうございました」話していると勝手に流れ出す涙をまたひとつ拭って、ゆきのは立ち上がった。「みずきさんの作り出す武器に、私のこの気持ちも組み込めればいいのに」
「それは強そうだ」苦笑しつつ、サンフラワーも立ち上がった。「でも、あなたがそういうふうに想う人だと、みずきさんはちゃんと知っていると思いますよ。───そろそろ修復も終わる頃です。さぁ、行きましょうか」




