2-6 その日は突然まいりました!!
あの日から悪夢を見る。
金髪トリオが棒グラフになって領地の資料として提出される夢。
金髪トリオが食堂くららに来て、一斉に親子丼を頼む夢。
うわ~
毎晩うなされてます。
寝不足です。
「お嬢様、起きてください。今日は働きに行く日ですよ。
それに、なんで最近あの少年の時の衣装を持っていくんですか?
お嬢様は痩せてきれいになったんですよ。」
メグが、朝から元気に声をかけてくる。
そう。
私はあの日から万が一に備えることにした。
何か困ったときに対処できるように別人になれる準備。
一番なりやすいのはもちろん太った私だけど、
それだと身バレしてしまう場合がある。
私の味方のメグとお兄様以外知られていないのがあの時の少年。
だから、その時の道具や衣装を持ち歩くことにしたのだ。
そうして、大事な荷物を持って、ケビンと食堂くららに向かった。
いつも通りお客さんに食べ物を運んだり、お皿を洗ったりしていると、
急に背筋にぞわりとした悪寒が走った。
何かーーー来る!
私は厨房に下がり、入り口をそっと眺める。
「ミリー。さぼっちゃだめだよ~。」
ケビンが緊張感のない声でからかってくる。
「ちょっと静かにして!なんか私の危険センサーが反応しているんだから・・」
私が入り口から視線を外さずに言うと、
「なんか分かんないっすけど、困ったときは俺が盾になりますから。」
なんとも男前のことを言ってくれる。
この前は、いたずらしてごめんね。
心の中でしっかり謝る。
そんなことをしていたら、なんと、なんと・・・
来てしまったのだ。
かつらをかぶっているけど分かる。
服を変えているけど分かる。
隠しきれない高貴なオーラ。
王太子殿下だ!!!!!!
なんで来た?
平日じゃなかったのか????
知らなかったが。
知るわけもないが。
予定は急に変わり、この日しか予定が合わなかったことを・・・
誰かの陰謀か?
注文を聞きに行ってくれたのは、もちろんケビン。
給料を上げてもらえるように話そう。
王太子殿下は、入ってきた途端、
私の顔を見て一瞬立ち止まり、目を見開いた。
(ん?まあいいや。)
私は、そっとその場を後にする。
ちょっと顔は見られちゃったけど、大丈夫だろう。
私は、急いで衣装を着替えた。
指先が冷える。
あの少年メイクに変える。
震える指で、何度もやり直しながら・・
それでも何とか完成させた。
そして、そっと厨房にある裏口から出た瞬間。
「君は・・・・・」
そう言って、必死で私の腕をつかんで放さない背の高い男。
ーーーーーアレクシス様。
「ひっ。」
声にならない驚きが漏れた。
放してほしいけど、 そうはいかない。
「ずっと、ずっと探していたんだよ。
私の知り合いにも声をかけて呼ぶからこの近くに停めている馬車に行こう。
おい、誰かロイドを急いで馬車のところに来るように伝えてくれ。」
そう言って、ロイド様を迎えに行かせたアレクシス様は、私を離さずに馬車に乗せた。
ごくり。
緊張で口をきつく結ぶ。
「まずは、お礼を言わせてくれ。
あの時は、友人の命を救ってくれてありがとう。
私一人では、何もできなかった。」
そう言って、アレクシス様は頭を下げた。
王弟殿下がである。
それがどれだけ異常なことか。
「いえ。頭を上げてください。
いつのことをおっしゃっていますか?
失礼ですが、人違いではないでしょうか?」
私は、どうにかしてこの場を切り抜けようと必死になる。
「いや。間違いない!
・・・やはり、あれは君だったのか。
あの時は失礼だが君はもっと太っていた。
でも、私には分かる。
君のその声。
私の友人が溺れたのを助けた時、君も必死だったのだろう。
そんな時に出した君本来の声。
あの時の声を、忘れるはずがない。」
「!」
そうか。
2年前に初めて市井に行って、溺れた人を助けた時のことか。
あの時、アレクシス様がいたのか?
なんて運命のいたずらだろうか。
その上、切羽詰まったときにとっさに出た声か。
しくじったな~
「なにがあった?」
その時、馬車に慌てて入ってきたのは、もちろんロイド様。
「君の命を救ってくれた本人を見つけたんだ。彼だよ。」
ん~~~~~~
私が救ったのがロイド様だったとはーーーー
それを聞いたロイド様は、驚きから目を丸くした後
私の手を両手で握ってきた。
「ありがとう。本当にありがとう。
私の命を救ってくれたのは君だったんだね。
僕は一生君に感謝を尽くしていく。」
「いえいえ。もうそのお言葉だけで・・・」
いくら手を放そうとしてもきつく握りしめられすぎて女の私には振りほどけない。
ロイド様はもう、尊敬のまなざしで瞳がキラキラと輝いている。
「あの。私そろそろ用事が・・・」
もう逃げたい。
「ちょっと待ってくれ。そう言えば、君、食堂くららの裏口から出てきたよね。
今日は用事があって、食堂の周りをよく見ていたんだけど、
君が食堂に入った姿は見ていない。
命の恩人に申し訳ないけど、どういうことか説明してくれないか。」
アレクシス様は、冷静になったのか鋭い指摘をしてくる。
は~~~~~~~~~~
万事休すか・・・
ん?
待てよ。
まだ、負けたわけではない。
私は、自分の少年姿の変装を解いた。
そして、自分がここで働いているミリーだと正直に話す。
二人は驚いて目を丸くして、口を開けたまま動かない。
ーーーー
「なんで変装なんかしたんだい。」
しばらくして、アレクシス様がもっともなことを聞いてくる。
「私、高貴な方とお会いするのは緊張するので、気づかれずに逃げるためです。」
私は、ちょっと苦しい言い訳をする。
「私は、どんな君でもずっと君のことを守っていくよ。」
ロイド様は、私リスペクトの精神を曲げない。
ちょっと迷惑。
その時。
「ミリー。あれどこにーーーー」
必死に私を探すケビンの声。
返事をしようとした次の瞬間。
「ミリエンヌお嬢様。大丈夫ですか?」
ーーーーー時間が、止まった。
なんと、焦っていたケビンは、私の貴族としての名前を呼んでしまった。
お願い。
気づかないで~
束の間静かになる空間。
息のできない緊張の時間。
「アレク様、そろそろ戻られませんと・・・」
外から、そんな声が聞こえてきた。
「わかった。今行く。」
私は、何も言われぬまま、馬車を降りる許可をもらった。
ケビンには、急にいなくなったことを叱られた。
おかみさんにも、疲れたので今日はもう帰してもらえることになった。
とぼとぼとケビンと帰る私。
獲物を見つけたようにーー
私を見つめるアレクシス様の視線に気づかずに・・・




