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愛の代償  作者: 若狭巴


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12/19

冤罪

「何があった」


皇帝は美しい娘の変わり果てた姿をみても、表情を変えることなく興味なさげに尋ねた。


騎士と侍女には傍にいろと命じたはずだ。


彼らは無傷で皇女だけが怪我をしているのを見るに、犯人は皇太子だとすぐに皇帝は気づいた。


だが、そのことを追求しなかった。


美しい自分の娘が今度はどんな面白いことをするのか楽しみだったからだ。


十歳の誕生日のときに欲しがったマルベリーが冤罪で罰せられているとわかっていながら、真実を語ろうともせず、助けるそぶりもしない。


自分の娘だが、何を考えてそんなことをしているのかがわからなかった。


故に、その目的が知りたくもあった。


皇帝は絶対的権力を持つ強者な故、気まぐれでエリカのやることが自分に害をなさず得をすることなら、と、その行為を黙認することにしたのだ。


「何者かが私の部屋に侵入してきたのです」


涙を浮かべ、震えている声で必死に話す姿はエリカでなければ信じていた。


「なに!?いったい誰が、そんなふざけた真似をしたと言うのだ!」


皇帝は侵入者などいないとわかっていながら、茶番に乗っかることにした。


「それより、護衛と侍女たちは何をやっていたのだ!全員、捕まえて牢屋に入れろ!」


皇帝は娘を思いやるいい父親を演じた。


控えていた皇帝専属の騎士たちはエリカの護衛をしていたものと侍女たちを無理矢理連行し、牢屋へと入れた。


牢屋に入れられるまでの間、彼らは自分たちは無実だと叫んだが、誰も耳を傾けなかった。


騎士たちもわかっていた。


だが、そんなこと関係ない。


皇族が白と言えば白。黒と言えば黒になるのだ。


運が悪かった、と諦めるしかない。




それから一週間後、第二皇女であるエリカを襲った侵入者は結局見つかることはなく、職務怠慢だとして第二皇女が怪我をした責任を取る形で、捕まっていた者たちは静かに処刑され、森の中に捨てられた。


皇族を見捨てた罪として、墓を建てることは許されず、獣の餌にされたのだ。


この知らせを受けたシレネは「俺は悪くない」と布団にくるまって現実から逃げた。




「あーあ。悪く思わないでね」


エリカは新しい侍女が淹れた紅茶を飲みながら、窓から見える荷馬車を見た。


難題も荷馬車があり、白い布で荷物は隠されているが、エリカには布の舌が何かわかっていた。


死体だ。


死体が積まれた荷馬車をエリカは冷たい目で見下ろした。


「私は自分がやられたことをそのまま返しただけよ。あなたたちが嘘をついたように、私も嘘をついただけ。同じ嘘よ。もちろん。許してくれるわよね」


正門が開き、誰にも知られることなく彼らは森へと向かった。


気分よく紅茶を飲んでいると、扉を叩かく音が聞こえた。


「どうぞ」


誰か確認しなかった。


エリカは本当に気分がよかったので、嫌いな相手でも話ぐらいはしてやろうと入室の許可をした。


「失礼します」


エリカはその声を聞いた瞬間、気分が悪くなった。


ゆっくりと後ろを振り返ると、マルベリーがいた。


いつもと変わらない。


拷問されていたのだから、体中は悲鳴を上げるくらい痛いはずだ。


顔は傷一つついておらず綺麗なままなので、拷問されていたと知らなければ、怪我をしていることに気づくことはできないだろう。


「なぜ、ここにいるの?」


エリカは不機嫌なのを隠すことなく鋭い口調で問う。


「護衛に戻るように命じられましたので」


マルベリーはいつもと変わらない無表情な顔で淡々と言う。


それが、エリカには酷く腹立たしかった。


「護衛?あなたが?」


「はい。殿下を守ることができず申し訳ありませんでした。今後、このようなことがないように致します」


「あなた、拷問されていたのでしょう。それなのに私を守ることができると?」


「はい。必ずこの命に代えてもお守りします」


エリカはその言葉を聞いた瞬間、カッと頭に血が上った。


許せなかった。


勝手に死を選ぶその軽薄さに、エリカは今ここで自分の手で殺してやろうかとさえ思った。


「必要ないわ」


エリカは怒りを抑えて、冷静さを取り戻すため、深く息を吐いた。


「服を脱ぎなさい」


マルベリーは恥じらうこともなく、言われた通り服を脱いだ。


彼の真っ白な肌に酷い痣や傷が無数にある。


エリカはマルベリーに近づき、彼の利き腕である右手にある傷にそっと触れた。


マルベリーは触れられた瞬間、体が硬直したがすぐに解いた。


「こんな傷だらけで私を守り切れるの?」


「はい。必ずお守りします」


さっきと変わらない答えに、エリカはマルベリーの肌に爪を突き立てた。


血が出るくらい強く。


だが、それでもマルベリーの表情は変わることはなかった。


昔から、この男は我慢強い。それに頑固だ。


一度決めたら絶対に曲げることのない性格だったとエリカは思い出した。


「服を着て出て行って」


「ですが……!」


マルベリーはその命令には聞けないと言おうとしたが、それより先にエリカはこう続けた。


「私は美しいものが好きなの。傷物はきらいなの。私の傍にいたいと思うのなら、それをどうにかしなさい」


「……かしこまりました」


マルベリーは悩んだ末、服を着て部屋から出た。


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