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第1章 夜市に紛れた言葉
夜の黒燈路地は、昼間の顔とはまるで別人だった。灯籠の淡い光が石畳を縁取り、屋台の煙が空気を甘く濁らせる。人々の笑い声や呼び声が迷路のように絡まり合う中、ひときわ異質な屋台があった。
「願い屋台……?」
楓はつぶやきながら、屋台の前に立つ。そこには、古い木箱に無数の紙片が積まれ、文字や絵が無造作に描かれていた。店主の姿はなく、ただ小さな札に「選べなかった願い」と書かれている。
一年前、楓は同じ言葉を選ばなかった――だから今、目の前でそれが売られていることが妙に胸に刺さった。
「この屋台、何を売っているんですか?」
声をかけても応答はない。ただ、背後で何かが動いた気配。振り向くと、黒いフードをかぶった少年が立っていた。無口そうな瞳がこちらをじっと見つめる。
「……店主を探してるんだろう?」
その一言で、楓の探偵としての直感が瞬時に動き出した。屋台の異変、消えた店主、そしてこの夜市の不思議な力――全てがひとつに繋がる予感がした。
紙片を手に取る。そこには、淡く輝く文字で「忘れたくない花火」と書かれていた。楓は思わず息を呑む。
「……これ、私が一年前に選ばなかった言葉だ」
少女は握った紙片を見つめながら、静かに決意した。
夜市の謎を、私が解く――と。




