第2章 11話 自らの一歩が、世界を変える
私は街の外での練習が終わりいつものようにズバーンと雷撃魔法を撃ち放ったあと、今日は冒険者ギルドへ戻ってみた。
冒険者ギルドに入ると、みんなの視線が痛い。
なんだか、ここの中では有名人というかなんだか妙な人扱いされているらしい。
そんな私が普段と違う時間に来たので、なんだなんだとなっている。
なんというか、距離ができてしまっていて、どうしたものかと思うが、結局は行動しないことには始まらないのかもしれない。
前回の街では、パーブルさんを中心にいろんな人から声がかかったが、今回は、自分から。
ふと、目線があった一人の軽戦士の女性に近づいて尋ねてみた。
身構えられてしまうのに、心が痛む。うー、胃がキリキリと……
「その、聞きたいことがあるんですけど、いいですか?」
「どうしたの?」
「私、サーラっていいます。そのゼルさんっていうんだと思うんですけど、いつも一緒に依頼をこなしている獣人の冒険者について、話を聞きたくて?」
「一緒にいるあなたの方が詳しいんじゃないの?」
「強さとか問答無用さならわかりますけど、ぜんぜんお話しない人なので」
「そうなの。ま、わたしはナディアっていうの、よろしく」
「はい、よろしくお願いしますナディアさん」
「それじゃ座りなさいよ」
「はい」
「まず、ここ数年、街に居座っている冒険者ランク5の冒険者ね。ゼルと言えば『天空の風』というパーティーの一員で、その構成員も凄腕ぞろいという話で、冒険者なら、わりと有名なパーティーじゃないかしら」
「少し聞いたことがあります。魔族退治を専門にする冒険者パーティーですよね」
「そう。ただ、最近は、そのパーティーの魔法使いが人間で、なかなかのお年なのよ。で、どうやら仲間を探しているって話があるの」
「そうなんですか」
そして、隣で飲んでる男も話に参加してきた。
「それでな、どうやらゼルは、良い魔法使いの新人を見つけて、あわよくばと思っているみたいなんだが。それが、誰も彼に着いていける奴はいなくてな。だいたい途中でへばって逃走するか、街を逃げ出すかみたいになってる」
「だから、魔法使いの新人はここでは少ないのよね」
「にしても、サーラちゃんはよくついていけてるよな」
「そうですね。我武者羅についていってる感じです」
「逃げ出そうと思わなかったの?」
「あははは、いろいろ訳ありで、逃げるのに疲れちゃってるんです」
「腰を落ち着けたかったのね」
「そうですね。ですから、そうであるなら、もっと他の冒険者さんとも接点を持っておいた方がいいかなと思って」
「おう、そういう人脈は大事だな」
「はい、それに以前いた街では、いい仲間と楽しくやれてもいたので、またそういう仲間ができたらなと」
「お、そうそう、おれはレッツだ。どうだ、だったら、今日、晩御飯、ここの数人で一緒にどうだ」
「ぜひ、お願いします」
「よし、ま、まだ晩までは早いし、サーラについても教えてくれよ」
「前の街とぼかしてもいいですか。逃亡生活中なので」
「ああ、構わないわ」
そうして、ナディアさんとレッツさんに話を聞いてもらいつつ、二人についてもいくつか分かった。
ナディアさんとレッツさんは、『大空の槍』というパーティーの一員だそうで、ナディアさんは人間の軽戦士、レッツさんはドワーフの戦士である。
他にもメンバーはいるが、少し省略する。
そのご、レッツさんが好みの酒が出るという居酒屋に向かった。
せっかくだからと、なんでか大空の槍以外のメンバーも数人ついてきての大所帯になった。
なんだか不思議な気分である。そんなに私はすごいわけでもないというのに。
「サーラちゃん歓迎を祝して、乾杯!」
「「「乾杯!」」」
などと、宴が始まってしまう。
まぁ、いいか。
「それで、ゼルについていく秘訣って何なんだ?」
「分かりません、あきらめず、とにかく全力でやるしかないんじゃないでしょうか。たぶん、ギリギリを見極めてわざとやってますよ」
「ひぇ、そりゃ皆逃げ出すわけだ。限界ギリギリを毎日なんて、たまったもんじゃない」
「そうよ。余裕って大事よ」
「はい、まぁ、それも午前中だけみたいなので、そこが乗り越えられたら、あとは何とかなるのかもしれません」
「今度さ、雷撃、見せてくれない!」
などなど、宴会は盛り上がる。
まだ打ち解けてはいないものの、まずは一歩ずつだと思う。
声をかけてよかった。
いや、たとえ失敗だったとしても、きっと、成功するまで声をかけなければ、きっと誰ともつながりは持てないのだろう。
悩むくらいなら即やってみる、それは語らずとも、ゼルさんから教えられたことでもある。
「ところでサーラちゃんって歳いくつ?」
「十五です。あと半年くらいで十六ですね」
「おぉ、若いねぇ」
「鼻の下伸びてるぜ!」
「うっせぇ」
「サーラは好きな人とかいなかったのかい?」
「どうでしょう、気になる人はいますけど、よくわかりませんし、きっともう会うことはないと思います」
「どうして? 死んだとかじゃなければ、会いに行けばいいじゃない。放浪者なの?」
「私の身代わりになってくれた人なんです。戻るわけにもいきませんし、望まれません。むしろ、自由にやれって言われそうです」
「そうね、世界は広いもの。男も案外たくさんいるから、ここの連中とも少しずつ親睦を深めてみてもいいのかもねぇ」
「はい」
「そうそう、仲良くしようぜ!」
「はい」
ふと思う。アスマのことを私は好きだったのだろうか。よくわからない。
けれど、大切な人であることは違いない。
天使の翼がうまく羽ばたくことを祈って。
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久しぶりに俺は冒険者として冒険者ギルドにおもむいた。
といっても、この街ノレントでは初である。
数日、家を空けることも許可してもらっている。
初めて見る街並みと、冒険者ギルドのなかはまた、前の街とは趣が違う。
領主のある大都市というだけあって、冒険者ギルドも大きい。
パーブルとジョニー、それに加えて治癒魔法が得意なマチルダというエルフの女性での構成で、張り紙を見ているところである。
マチルダは、ユークララス家の治癒術の使い手で、もともと冒険者でもある。
マチルダはエルフということもあり媒体魔法の治癒だけでなく、詠唱魔法での治癒、そのほか幅広く魔法が使える。
精霊の協力が得られるということで、対応力が広いとのこと。
とはいえ、最初は無難に行こうということになった。
この街近くでもナッドウルフが出没しているらしい。
なんとも懐かしい話であるが、それに決めて、俺たちは冒険に向かう。
俺はセナとして、装いは、以前のセナの恰好である。
「セナちゃんと言えばこうだよな、似合ってるぜ」
「ありがとうございます」
「ふーん、なんだか、本当にちゃんと魔法使いって感じだから、なんだか意外ね」
「そうですか?」
「うん、だって、おままごとなのかなって思ってたから」
そのマチルダの指摘はもっともだろう。貴族のお嬢様のわがまま、そんな風に思っていたに違いないし、まだきっと、それは払しょくされていないだろう。
パーティーメンバーとしては、鼻が利く獣人ジョニーがいるのはやっぱり心強い気がする。
これを、やみくもに、足跡を頑張って探してとなるとまた大変だと思うのだ。
さて、久しぶりの、といいつつ、よくよく考えれば俺はそもそもセナとして冒険者をやったことなんてない。
はたして、上手くできるだろうか。
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ゼルさんとの依頼が終わった受付で、彼に確認をとってみた。
「その、他の冒険者さんたちとも一緒に依頼を受けえて、見識やコネクションを広めてみたいので、ご一緒できない日があってもいいですか?」
すると、口元をニヤリとさせ、牙をゼルは見せる。
「いいぜ! 自分で考えたのか?」
「はい」
「なら、なおさらいいことだ。いろんなもんを見てくるといい」
翌日――
森の中で木に擬態した、樹木モンスター、トレンダンにザシュザシュンと風の斬撃を繰り出していく。
大空の槍のパーティーに加えてもらって、レッツさんの大槌での一撃がはいり、ナディアさんも、他の数体が近づいてこないように誘導している。
レッツさんの一撃後のスキをつくトレンダンの枝っぽい腕の一撃を私は、防御円で防ぎつつ、魔法使いの兎獣人ウェッチコットさんが、巨大な氷の刃で追撃する。
さらに奥には、弓使いの小人族の女性メリーが弓で目を的確に狙って行動を阻害する。
こういう時、火を使いたくなるが、森では危ない。雷撃も火につながるらしいしうえ、トレンダンは雷撃に耐性があるとのこと。
レッツさんの大振りがさらに決まって一体目。
「おっしゃー!」
「次こっちお願い!」
ナディアさんは、俊敏さを生かしつつ、足止めしてくれているので凄く戦いやすい。
次のトレンダンも、私は防御円を中心に、それぞれの役割をこなしていくことでまた一体、葬ることができ、残りの一体もすぐに終わった。
その後、私とナディアさんとで、ざっくり解体して持ち運べるようにする。
トレンダンは全部とはいかない。流石に大きいので、主要な木の枝を中心に持って帰るしかない。
これがゼルさんだと、ナイフで一刀両断して一部持って帰っちゃったりするのである。
「いやぁ、サーラちゃんがいると、はかどるね。防御も攻撃も並行してってすごいね」
「私はあまり見れてなかったけど、すごく早かったわね」
「後ろから見てるとすごかったよ」
「ありがとうございます。今回は役割分担もありましたし、動きながら戦う必要がなかったのでずいぶん楽でしたよ」
「動きながら?」
「はい、敵の攻撃をよけたり回り込んだり」
「魔法使いが?」
「そうです」
「ひえぇ、なんだか、それはそれでまた次回見せてもらいたいかも」
「頑張ってみます」
「あ、そうそう、余力あるなら空に雷撃、一発で買いの見せてよ!」
「わかりました」
いつも練習しているように魔力を収束させる。もう以前のような違和感はない。
でも、練習していないとふと、収束の感覚はまた変わってくるのだ。
ほんの少しの時間で限界までたまって、ドーンと杖から極大な雷撃ビームを撃ち放った。
「おぉぉ」
「あははは……」
「これはすごいのぅ」
周囲の鳥たちが驚いて一斉に羽ばたいていった。
「ありがとうございます」
「いやいや、はは、まだランク2なのか?」
「はい」
「こりゃ、末恐ろしいわい」
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バリスタードは、高確率で次にニジアン病が発症するとされる村に赴き潜伏していた。
魔族が関わっているという予測があり、表向きは、村はいつも通りを装わせつつ、新しく入ってくる人、人の出入りに注意する。
村の食堂で、流れの冒険者として、それとなく村を見守る。
発生の順番から感染症ではなく作為的なもので一本戦で描かれることが示唆されていた。
そして、人を媒介にした感染ではなく、毒薬に近い可能性である。
今、毒の専門家も来てもらってはいる。
感染病に似た雰囲気があることから、川や井戸水、空中で散布するもの、食事などへの混入が考えられるとのこと。
そんな類推にも驚愕したが、それを成したのがセルディア様という点もさらに驚かされることだった。
さて、それはそうとして、魔族に対して切り札を準備してきた。
魔族が触れると黒く濁る水晶である。
念のため呼びも含めて三つ。
特殊な魔道具でユークララス家に伝わる秘宝とも言えるものだ。それを今回持ち出している。
魔族を看破できるものは様々な国や貴族でも引く手あまたの逸品である。知られてしまえば、こっちによこせ、どうのこうのと面倒になる。そういう代物だ。
あらかじめ、村人全員が魔族でないかどうかは確認済みである。
つまり、あとは外から来たものか、まぎれて村人に成り代わったものがいれば、ということだ。
ほどなくして、商人の男が一人歩いてやってきた。
とぼとぼとやってきた男は、村人に声をかけて物を販売し始めた。
私は、ふらりと近づく。
「鑑定してほしいものがあるのだが、目利きはできるか?」
「はい、お任せください」
男に、水晶を渡すと、黒く濁った。
とっさに水晶を取り返して、目にもとまらぬ速さで抜刀からの斬撃で男を真っ二つにする。
血が飛び散るも、その色は紫色だ。匂いも、血ではなく腐った肉のような異臭がする。
切断された男の上半身が変異し、魔族のそれに代わった。
「けけっ、何故わかった」
私は問答無用で切り伏せた。
悪魔の言葉に耳を貸す必要はない。
魔族を見下ろしながら声を上げる。
「荷物を検めろ。こ奴から購入した商品も含めてだ。毒物を探せ!」
周囲から、潜んでいた仲間が駆けつける。
本当に魔族が来たことに手ごたえと驚きがあった。
だが、ありえないことではない。セルディア様が、あの力を使っているのであれば、あるいは……
いや、今回は経路からの予想とのことだった。考えすぎだろうか。
もし何かあれば、私が考えるでもなく、接触がある……か。
魔族にとっては運がなかったとも言える。
そう、看破する魔道具がここにはあったのだから。
もしそうでなければ、全て、切り伏せるしかなかったかもしれない。
セルディア様や、あのお方の力であれば、また、対応の仕方はかわるだろうが。
本当に、魔族というのは厄介極まりない相手である。
ほどなくして、ユークララス領でのニジアン病の拡大は止まったことが確認された。




