グリースの大失態2
グリースは今、国王であるアルベール・ザーイド・グリマルディの執務室の前に立っている。
扉の両端には緊張した面持ちの守衛が立っている。
国王に呼び出されたため、さすがのグリースも身なりを整えて来ていた。
呼び出しの理由は恐らく昨日の仕事の件だろう。
終わっていないまま提出した上、内容も雑だったため多少の注意がされるだろうとは思っていた。
しかし、国王直々に呼び出されるとは思っていなかった。
(こんなことで私の地位を失ってたまるか)
グリースは今の立場が気に入っていた。
仕事は部下に押し付けて自身は遊び放題できるこの地位が。
しかも宮廷魔道具師という高い地位。その気になれば国の政治に口を出すことだってできる。
フーッと息をつき、覚悟を決めてノックをし、執務室に入る。
「失礼します、国王様。このグリース・ヴァルツを呼んでくださったこと、まことにありがたく存じます。」
「ようやく来たかグリースよ。さて、なぜこの私が貴様をここに呼んだか分かるか?」
「それはもしかすると仕事の件でしょうか…?」
グリースは恐る恐るといった風に答える。それに対し国王は、
「それ以外にあるわけがなかろう!あの仕事は隣国に輸出する魔道具の作成だったのだぞ?それを終わらせず、しかも内容も雑。隣国の国王から直筆で手紙まで送られてきたのだぞ!」
予想以上の剣幕で怒鳴られ、怯むグリース。
「も、申し訳ございません国王様。私どもも精一杯努力したのですが…」
「貴様らは精一杯努力してもその程度の結果しか出せないのか?貴様らのせいで契約違反として賠償金の話まで挙がっとるぞ!これで外交関係にヒビでも入ったら一体どうやって責任を取るのだ!」
「か、返す言葉もございません。」
「たしか貴様には別の仕事も頼んでいたな。それすらもできないとは言わせんぞ!」
「今度こそこのグリース、全身全霊をかけて完遂してみせます。」
「必ずだな?できなかったらお前はクビで爵位も剥奪だぞ」
グリースの爵位は侯爵とかなり上だ。
今まで侯爵としての地位も利用してここまでのしあがってきた。
その地位のおかげで今まで散々好き放題できたのだ。
それを失うなどグリースは考えたくもない。
それでもこの状況ではYESと答える以外の選択肢はないも同然だった。
「はい、必ず完遂いたします国王様。ご安心ください」
「ふん、そうか。それならば今回の件はこれ以上は言わん。だが次はないぞ」
「はい。この度のご厚情、まことにありがたく存じます」
そしてグリースは失礼しますと言い部屋を出る。
そして左右に立っている守衛を睨み付け舌打ちをし、猛ダッシュで家に帰った。
グリースは家に着くなり酒を浴びるように飲んだ。
グリースははらわたが煮えくり返る思いだった。
なぜ自分だけがこんなにも怒られねばならないのか。
なぜ自分だけがこんな思いをしなければならないのか。
しかも次の仕事でミスをしたらクビにされる上、爵位まで剥奪される。
グリースは焦っていた。
しかし冷静に考えて気づく。別にそこまで焦る必要はないと。
そもそも普段は仕事でミスなどしないし、どの仕事も期限内に良いクオリティで仕上げてきた。
だから今回このようになったのはたまたまだとグリースは思ったのだ。いや、思ってしまったのだ。
グリースは知らない。例の仕事をこなせる人間がもういないことを。
唯一その仕事ができる人間はグリースが既に解雇してしまった。
その仕事の期限は一週間。明日から部下には全員にこの仕事をやらせようとグリースは考える。
その仕事をこなせる部下がもう居ないとは知らずに…。




