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「どうなさったんですか⁉ 怪我が! ああこんなに⁉ どうなさったんですか⁉」
夕暮れ時、自動ドアである止まり木の中に入ると、ざわめきとともに受付嬢ことミリーが飛ぶように走ってきた。泣きそうな顔して。手には使用途中だとみられるペンを持っていたことから、本当にペンを置く時間すら惜しんでそのまま来てくれたのだということがわかった。
「大蛇が、がおーっ、て」
「大蛇!?」
フードを被っていても見える咲也子の顔に無数にできていた細かい傷や、一応絞ったのだが赤い水でピンク色に染まっているケープについた泥に再度叫びをあげた。ほかに傷はないかと探るようにぺたぺたケープを脱がして咲也子の体を触る。咲也子のフードの下の顔には一瞬息を呑んだもののまるで気にならないかのように。ケープの下の黒いワンピースまでぐっしょりと赤黒く濡れていた。絞ったため、それで止まり木の床が濡れることはなかったのだが、ブーツまでは乾かせずぺたぺたと音を立てていた。
咲也子がこんな格好になってしまった原因と思えるものを言うと。
ミリーは変わらない泣きそうな顔で、その柔らかい胸に咲也子を抱きしめた。どこか甘い香りがして、一瞬もう会えない母を連想させた。
何回もぎゅっぎゅっと抱きしめられて、そのたびに『怖かったよね』『痛いよね』と泣きそうな声で言われて、先ほど必死で耐えた叫びが口から飛び出してしまいそうで、咲也子はぎゅっと唇をかんで結んだ。
やがて抱きしめつつの怪我確認が終了すると、ひんを回復センターに預けた後は手当てのために救護室にひっぱり込まれた。白い天井に白い壁、白いカーテンに区切られたそこはベッドだった。促されるまま丸椅子に腰かける。つんと鼻を抜くような消毒液の匂いがした。
(おれ、入っていいのかな……)
そこはよっぽどの重傷者しか入れないと決められていると言っていたのに、自分程度の傷で使用中の札をかけるのはいかがなものかと思ったが。
「さあて」
さっきまでの心配そうな雰囲気から一転、にっこりと笑う顔にはどこか迫力があった。
「何があったか、詳しく話してくださいますね?」
消毒液をしみこませた綿球片手に迫ってきたミリーに、このためだったのかと悟った。思わずのけぞってしまって、ぎいと丸椅子が鳴いた。
逆光と相まって凄みを感じさせ、若干泣きそうになったのは秘密にしておきたい。




