11
消毒の後にギルドからの支給品だというポーションを使ってくれたが、ギルドに登録していないのにいいのかと尋ねたところ、とてもいい笑顔で頷かれた。
ミリー曰く「子どもが怪我をしているのに使うなというクズはギルドにはいません」とのことだった。
「冒険者が、観光客を害するなんて……というか隠し通路……」
とりあえず何があったかを洗いざらい吐かされぐったりする咲也子の前で、ミリーは左手で眉間をもんでいた。頭の痛い事案らしい。大変だ。自分のことだけど。
せめて、冒険者同士のいさかいならギルドは介入できるんですけど……と咲也子がどこのギルドにも属していないことを嘆いていた。
結局、冒険者でもない者が隠し通路の報告もせず、咲也子にはその気がなかったとしても探索することの無謀さについてこってり1時間は怒られた。ただ咲也子自身には探索をする意図はなく、あくまで結果そうなってしまっただけだということだけはきちんと伝えておいた。
この1時間というのも、咲也子の治療やひんの回復の合間にという意味での1時間であって、治療終了と同時に終わったが。
救護室を出た後にもう1度抱きしめられた。
「あんまり、危ないことしちゃだめですよ」
「ん。あの、ね」
「はい? どこか痛みますか?」
「んーん。おれね、冒険者になろうと思ってる、の」
「危ないことしたらいけないと言ったばかりでしょう!?」
「でも……」
「だめです。無理です。冒険者登録には冒険者からの推薦が必要なんです! 幼い子を冒険者に推薦するような人はいません!」
叫ぶように、小さい子どもを諭すように言い聞かせる姿は、しかし必死だった。
廊下の蛍光灯に照らされながら立ちながら行われているやり取りに、最初は何事かと集まっていたやじ馬たちも話が進むごとに同意するように頷いていた。
「冒険者なんて、そこら辺の汚いマッチョがやってればいいんですよ!」
「嬢さんそんな風に思ってたのか!?」
思わず本音が漏れてしまったミリーに野次が飛ぶ。ドジこそ多いもののいつもほんわかした笑顔で接してくれているミリーの本音を知って冒険者たちは驚愕していた。
中にはミリーに何かしらの夢を抱いていたのか乙女走りで廊下を走り職員にラリアットをかまされていた冒険者もいたのだが、咲也子には身長的な意味で見えなかった。
1日に何回も怒られてしまい、怒らせてしまいしょんぼりとする咲也子にやじ馬として集まってきた大きな剣をその背に背負った巨体の冒険者も
「お嬢ちゃん、やめときな。冒険者なんて危ねえことしかないからよ。あー……そうだな。せめて成人してからにしな。まだ10にもなっちゃいないんだろ?」
咲也子の泥で汚れてしまっている髪を躊躇せずになでる。ちなみに、この世界の成人は15歳だ。こんな小さな子どもがやる仕事ではないと言いたいのだろう。見た目は大きく見積もっても6歳。15になるころには考えも変わっているだろうと思ってのことだった。実際に前線に出て戦う冒険者はいつ死んでもわからないような危険な仕事で。
強面をくしゃりとゆがめて苦笑するその顔は少なくとも咲也子を馬鹿にする意図は一切見られなかった。それはわかっている。だからこそ、咲也子はうつむいて顔をあげられなかった。
服の裾を握る。下げた視線には赤い水でピンク色に染まってしまったタイツが見えた。
「……も、ん」
「あ? どうしたお嬢ちゃん?」
「まだ、痛いところがあるんですか? 大丈夫?」
「成人してるも、ん」
ぷうっとほっぺを膨らませて、怒ってますよのアピールをしながら咲也子は言った。
水をうったように場が静まり帰ったあと、驚きの声が止まり木に響き渡った。ミリーも大剣を背負った冒険者も後に、冗談と思ったのか大笑いしはじめ、咲也子は面白い冗談は言っちゃいけませんよとなぜかたしなめられた。面白い冗談ならいいんじゃないのかと思ったが、それは言わないでおいた。
廊下で大笑いしている珍妙な集団に、警備隊まで出てくるような騒ぎになってしまったが、結局誰も咲也子が成人していることを信じてはくれなかった。




