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Pandora Ark Online.  作者: ミッキー・ハウス
守るための刃編
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第48話

「弁償なんて馬鹿なこと言ってんじゃねえぞ!」


怒りを滲ませた声に、動ける者すべての視線が集まる。ベルゼだ。

新人たちは事の厄介さを察してか、散々喚いても助けようとしなかったが、どうやら自力で縄を切って抜け出したらしい。


「こいつらは賊だ。さっさと殲滅して帰るぞ、新人共!」


「ちょっと、ベルゼさん。横暴すぎますよ」


「そうだ。ここは“元奴隷の隠れ里”だ。さっきソータの鑑定では『村人』って出てるんだ。アンタの言う賊じゃねえってことだ」


「おかしいと思ったんだよな。こんな閑静な村が賊の巣ってのは」


「ええっ! なんで俺が突撃する前に言ってくれなかったんだよ!?」


仲間の言葉に慌てる黒甲冑のロイヤード。

しかし周囲の反応は冷ややかだ。


「言う前にロイが勝手に突撃したんだろ」と射手の青年。

「そうだよ、兄さんが思い込みでスキル発動したのが悪い」と魔法使いの少年。


「ロイの問題行動は後で反省会だ。とにかく、弁償で事を収めたい」と聖騎士の男がペーターに再度話しかける。


好き勝手に話す新人たちを睨みつけながら、ベルゼは言い放った。

「なら俺様としても、弁償という形で痛み分けだ」


痛み分け?その言葉に場がざわつく。


「貴族である俺様への暴行をなかったことにしろ。相応の賠償を支払うなら、考えてやらんでもないがなぁ」


「アンタ馬鹿か。アンタの勘違いでこっちまで迷惑してんだよ」


「さっきから……おい、新人が俺様を舐めるなよ。俺様が誰か知らないわけじゃないだろ?」


「知らないけど?」


ロイヤードと魔法使いの少年はポカンとした顔。

呆れたベルゼは手で口を覆い、「これだから新人は……」と呟く。だが、口元が意味ありげに吊り上がった。


小さく「出番だ」と呟くと、ベルゼから黒い靄が立ち上り、それが人の形を成して降り立つ。


白目で焦点が合わない不気味な顔。

赤黒い血管が浮き出た上半身裸の身体。

ボロボロのズボンに伸びきった爪、手には禍々しい大鎌を携える。


それは上位クラスの強力な魔人だった。


「はぁっ!? 反則だろそれ!!」


ベルゼが使ったのは魔人召喚の魔石。

他者の生命を捧げることで魔人を呼び出せる古い禁断のアイテムだ。

五年前のアップデートで消去されたはずだが、高レベルのプレイヤーを倒せば強力な魔人を従えることができる。

だが、ベルゼがそんな高レベルに見えないことは明白で、ロイヤードの叫びも無理はない。


「殺れ!」とベルゼが短く命じると、魔人は狂喜しながら咆哮し、獲物へ襲いかかった。


「まずい! ウェンツ、聖騎士まで育てたなら対応できるか!?」


「無理だよ、ソータ。俺一人じゃこのレベルの魔人はさばけない」


「仕方ねぇ。俺がヘイトを稼ぎつつ逃げ回る。隙をついてロイが大技で攻撃。ソータは味方の補助と回復。ウェンツはスキル発動で全員に聖属性の攻撃・防御を付与、盾役に専念。できれば攻撃にも回ってくれ!」


「上位魔人だぞ。射手は防御力低いから無理だ、エレン!」


新人たちはパニックに陥る。

ベルゼは大剣を手に、「まさかこれを使うことになるとはな」と独り言を零し、ゆっくりと起き上がった。


ウェンツと呼ばれた聖騎士が話していたペーターへ目を向ける。

その視線はペーターの胸元にある黒塗りの短刀で止まった。


「おい、餓鬼。お前が握ってるのはなんだ? へぇ、黒塗りの刀か。意外と上等な物を持ってるな、平民のくせによぉ。――――それ、俺様に寄こせ」


「……いやだ」


「なんだと? 俺様も疲れてるのかもしれねぇな。嫌だと聞こえたが?」


「嫌だって言ったんだ!」


ベルゼの鋭い眼光に体が竦みそうになるが、ペーターは必死に短刀を隠し守る。

それが気に入らないのか、大剣を担ぎ威圧しながらペーターに迫るベルゼ。

ペーターからすれば、まるで壁が迫ってくるようだ。


体が縮こまり固まった瞬間、ニヤリと笑うベルゼは担いでいた大剣を地面に振り下ろし、深く抉る。


「こーんな剣で斬られたら、お前の体がどうなるか想像つくだろう? 俺様の言うこと聞けばいいことあると思うがなぁ」


「こ、これは師匠からもらった大切な物なんだ! お前みたいな奴に渡すわけがない!」


震えながらも返すペーターに、ベルゼは表情を失い、目を細めて呟いた。


「そうか」


そう言うと、大剣を担ぎなおす。

ベルゼの赤竜の鎧は最強と謳われ、上位竜の素材からできた武器ですら傷つけられない。

祖父から受け継いだといっていたその新人は、大人しく渡さずに顎を砕かれ、左足を潰され、指を一本一本折られた末に降参し差し出した。

痛みを知れば誰もがひれ伏し、命乞いをする。


「じゃあ、死ね」


それが定められた未来だと知りつつ、ベルゼが大剣を振り下ろす。

ペーターは逃げられず、ただ鉄の塊が迫るのを見つめていた──。

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