第43話
鬱蒼と茂る森の中。
空は雲ひとつなく晴れ渡り青空が広がっているが、木々の葉は濃く茂り、光もあまり差し込まない。足元は薄暗く、木の根に躓きやすい。
そろそろ昼時になるというのに、まだ薄暗い森を五人の男たちが歩いていた。
そのうち四人は、元々パーティーを組んでいる仲間だ。
漆黒の全身黒甲冑の男と、白銀のように輝く聖騎士の甲冑を身に着けた男性、二人が前衛。
魔法使いの専門職が好むマジックローブを纏った少年と、折り畳み式の巨大ボウガンを携えた射手の青年、二人が後衛だ。
彼らは冒険者ギルドのアルミル支部に登録したばかりで、E級ランク昇格を目指している。
薬草探しに飽きて次の依頼を迷っていたところ、四人の先頭を歩く、真紅の甲冑に身を包んだ大男――A級ランクのベルゼ・ナトリューに声をかけられた。
彼によると、森に賊が出没しているという。住処の捜索も兼ねた討伐だ。
誘いを受けたが、まだF級を脱していない四人を誘うのはおかしいと思った。
それでも、黒甲冑の男が「やろうぜ! 受けるよそれ!」と安易に答え、全員が溜息をついた。
依頼は一度受諾するとキャンセルに違約金が発生する。
しかもこれはギルド直轄の特殊な依頼で、違約金が跳ね上がる。
四人の所持金は到底払える額ではなく、やらざるを得なかった。
被害者からの懇願もあり、断る理由はなかった。
黒甲冑の男は「大丈夫、達成すれば問題ないって!」と自信満々だ。
しかし、二週間探し回っても見つからないため、場所が違うのではと四人は思い始めていた。
不満も募る。
夜の見張り役は全員で交代するのが常識だが、ベルゼは交代を拒み威圧し、依頼を受けたのは自分の声かけのおかげだと威張る。食事の準備もすべて命じてくる。
貴族出身とは聞いていたが、冒険者としてのマナーはなっていない。
安請け合いした黒甲冑の男も苛立ち、軽い衝突が増えた。
それ以上に気になるのは、夜中にベルゼが近くにいることに四人が気づいていることだ。
寝る位置が異様に近かったり、用足しに森へ入るとついてきていたこともあった。
「なんかおかしいよな。俺らの装備狙いか?」
「でも四人でしょ? A級でも実力差がなきゃ無理じゃない?」
「あの程度でA級なら、俺たちもすぐランクアップできるぜ。レッサーウルフの群れに上位種が混じってた時も、後方で回避してただけだ」
「実力を見せたから手を出さないのかもしれんが、PKされるのは嫌だな」
四人が話し合う中、ベルゼが声を上げた。
「こんなところに村だぁ?」
開けた場所に石造りの家々が見える。
黒甲冑の男が「いよいよか?」と息巻くが、聖騎士の男が肩を掴み静止した。
「見たところ、普通の村です」
穏便に済ませたいため、ベルゼに敬語で声をかける。
情報では賊はみすぼらしい剣士だが、辿り着いたのは長閑な村だった。
村の入り口には見張り役の青年がおり、剣は手入れされていない鈍り気味のものだ。獣除けがせいぜいだろう。
村では大人が畑を耕し、子供が遊んでいる。誰がどう見ても平和な村だ。
「いいんだよ、ここで当たりだ」
ベルゼの言葉に全員が凍りつく。
いつの間にか大剣を抜き、舌なめずりしながら戦闘態勢を取っている。
「お前ら初心者だから知らないだろうが、賊ってのは普段は大人しい振りしてる。襲う時だけ牙をむくんだよ。それに、この周辺はマーキアド領だ。無断で住み、税も払わぬのは無法者だ。わかるか?」
ベルゼは四人の動揺を楽しみ、剣を肩に担ぎ村の入り口へ向かう。
止められず全員立ち尽くしていると、黒甲冑の男が静かに剣を抜いた。
「脱税ってことだろ。なら問題ないんじゃね? それが法律だろ?」
「超過分を徴収すればいい話じゃないか? 今回の依頼は賊討伐だろ?」
「あれが賊だってベルゼが言ってる。俺は洞穴のアジトを襲撃すると思ってた」
「ぼくも……なんか気が引けるな」
長閑な村に、誰が襲撃を思い描くだろうか。
「ねぇ、やっぱりベルゼさん止めよう。話し合いで済ませられないかな?」
「こんな胸糞悪いクエストやるなんて」
「一度ギルドに問い合わせに戻ろうよ」
「あー、それは無理っぽいわ」
黒甲冑の男の言葉に三人が顔を上げると、彼は村の入り口を顎で示した。
その視線を追うと、――ベルゼが見張りの青年を笑いながら斬り殺していたのだった。




