第22話
こうした野良での活動では、活動拠点や所属ギルドを名乗っておく必要がある。
面倒でも名乗ってから通常業務に移ろうとした――のだが、
男たちは武器を地面に投げ捨て、いきなり土下座を始めた。
ちなみに橘花が装備チェンジしたあたりで武器を下ろし、【ミブロ】の名を聞くや否や、彼らは一斉に平伏し始めた。
橘花としては、「え、なにこれ?」と困惑するしかなかった。
「ミ……【ミブロ】と仰いましたか?」
「そうだ。【ミブロ】を知っているなら、隔離部屋のGMに一番隊の橘花と伝えればわかるだろう」
オッサンがいきなり敬語になったのには、言いたいことがあったがぐっと堪えた。
今は、さっきの軽口とノリで乗り切るしかない。
「先ほど、少女を逃がすわけにはいかないと言っていたな。ならば、そのお前たちの事情を聞こう。あの少女を追い詰め、何をしようとしていたのか」
「それは……あっ!」
オッサンが答えようと顔を上げると、振り向いた先には、先ほどの少女の姿がすでになかった。
せっかくのイベントの手がかりが逃げてしまったようで、橘花は思わずがっくりと肩を落とす。
「これじゃイベント、進まないかも……」
だが、ここは我慢だ。
「ふん、お前たちがあの少女を襲っていたのは間違いないな?」
「はい、しかし売る気も殺す気もありませんでした。ワシらが育てていた畑から貴重な薬草を持っていかれたため、追いかけたのです」
「(あれ、そうするとあの少女が盗人になるのか?)だが、盗賊まがいの発言からして、こうした行為は一度や二度ではないのではないか?」
向き直った橘花の問いに、男たちは黙り込んだ。
拉致や監禁、人身売買など、余罪がありそうな雰囲気が漂う。
「答えられぬか」
「ワシの命だけでこいつらは見逃してくれませんか。ワシが言い出したことに従っただけなのだ」
周囲の男たちがざわつく。
だが、代表のオッサンを斬れば全員がかかってくるだろう雰囲気に、橘花は一呼吸置く。
考えてみれば、薬草盗難の話からしてこちらを助けるべきなのかもしれない。
もしかしてルートは二つあり、ここに構いすぎて盗賊を助けるルートを確立してしまったのかも。
……そろそろ刀を握る手がつらくなってきた。力がないわけではなく、ずっと同じポーズに飽きてきただけだ。
そんなことを考えつつ刀を向けたままいると、後方の若い少年が立ち上がり、叫んだ。
「あいつ、根こそぎ持っていきやがったんだ。川は遠く、水は引けないし、今年は雨も少なくて……作物も大切だけど、薬草はもっと大切で、村にいる病気の母ちゃんと妹に飲ませる薬がなくなっちまったんだ!」
男たちは少年を押さえて再び平伏する。
橘花は深いため息をつき、刀を鞘に納める。
「なるほど、こういうイベントか」
分類としては、過疎化した村の復興イベントだ。
PCらしき発言で一瞬ビビったが、やはりNPCだろう、と安心した。
武器を収めたことで、男たちは再びざわつく。
代表のオッサンも目を丸くして橘花を見上げてきた。
「数人で少女を追い回すのは良しとしないが、事情があり、病人が犠牲になるのを知っていて処罰するほど私は冷酷ではない」
そう言い放ち、男たちが来た方向へと歩き出す。
その間に、橘花は朱色の羽織袴に装備チェンジしながら言った。
「どちらへ?」
振り返って、まだ平伏しているオッサンを見た橘花は、イベントなのにそんな質問をされることに不思議さを覚えた。
「決まっているだろ、お前たちの村へだ」




