第18話目
「ただいまー、巡回終わりました。あれ、皆さん茶の間に集まってたんですか?」
「ただいまー! なになに、ログから拾えたの一部だけど、そんな面白い話してたのー?」
四番隊長のシバと五番隊長のsakueruがちょうど戻ってきた。
シバのアバターは真っ赤な鬼人族の男性。くすんだ金髪に漆黒の角、肌は赤く、あるイベントで顔だけは肌色の人族風に変えている。虎の毛皮を肩に掛け、腰に巻いた灰色の着物は右肩が露わで、無数の切り傷と黒いペイント模様が野性味を醸し出している。
だが本人は丁寧な言葉遣いを貫いているのがギャップだ。
sakueruはミブロでは数少ない女性の鬼人族アバター。丸みを帯びた額の角に、腰まで届く緑がかった黒髪。瞳は茶色で、肌は美白寄りの色白。装備は赤い千鳥柄の上着に紺の袴風、明治の女学生風の服装だ。腰に刀がなければ、お嬢様と間違われそうな気品がある。
「お疲れー、シバにsakueru。実は白と橘花の――」
「面白くない! 面白いのはトラの薄い本の話だから!」
「違いますって、姉貴の言葉に惑わされないでください! 俺の薄い本なんて需要ないですから!」
流しておけばいいものを「薄い本」にされてしまい、羞恥のあまり叫ぶトラストラム。ここでまさかの虎の尾を踏んでしまう。
「需要はあるんですよ、トラストラムさん。年に二度の夏冬祭典で、あなたの本の売上がトップなのはご存じですか? 私の名前のアバターネームでもある咲哉×エルラインなんて、マイナー中のマイナー。Webで知り合った人も十人足らずですのに!
異世界転移で落ちてきた男子と幽閉されていた亡国のツンデレ金髪王子の話ですわ! 自国の勇者召喚に来なかったのに敵国の召喚では来たという逆恨みもありましたが、互いに正体を知らずに咲哉に助けられた時のエルラインは絶対に恋に落ちてますの!
咲哉の正体を知ってからは、憎む気持ちと愛する気持ちの相反する思いにエルラインが苦悩したんだろうと想像できますわ!
その後、山間部の小屋で嵐をやり過ごすため一晩二人きりで過ごし、背中を向けて寝たふりしながら、隠し持ったナイフを懊悩しつつ鞘から抜き差しするシーンなんて……もうっ、押し倒される受けでも許しちゃうわよエルライン!」
「sakueruさん、好きなのは痛いほどわかりますけど、ここでほかの作品の話は控えてください」
「あ、マノタカさん、ごめんなさい。トラストラムさん、あとでみっちりお話しますから覚悟してね♡」
普段はお嬢様然としているが、口から出る単語はどうにも腐女子寄り。
ナイフの鞘抜き差しシーンを語る時の目が、アバターなのに血走って見えたのは気のせいだろうか。
助けを求めるトラストラムの目が周囲を泳ぐも、sakueruのお話し宣言を止める者はいない。
シバもけんもほろろだ。リアルも男性な彼はマノタカと合同で本を出せるほどの腐男子であり、空気を読んでスルーする派だ。
そこへ、ちょこちょこと猫獣人の子供のアバターが歩いてきた。
茶色い毛並み、金髪の髪、綺麗な青い瞳の女の子だ。
「お、イサミ、ありがとう」
真っすぐマノタカのところへ来て何か差し出す仕草をした。
イサミはマノタカがイベントで手に入れたサポートユニットで、橘花の持つリュートと同種。人格設定が可能で、イサミは『ツンデレ』、リュートは『従順』が選択されている。
「おーい、ちょっと聞いてくれ。GMからメールが来たんだが」
マノタカの一言で、ふざけていた空気は一変し真面目な話へ。
過去の取り締まり実績を買われ、GMが設立予定の治安維持ギルドへの参加を再度打診された。
だが全員即答でNO。理由は、夏と冬の祭典に参加できなくなるからだ。
加えて、バグなど問題行為の持ち込みに再度注意するよう求められ、緊急連絡用のコール機能が実装されたことが伝えられた。
「とりあえず解散。これからは各自好きに治安維持活動してくれー」
マノタカの声で解散し、メンバーはそれぞれの仕事へ散っていった。
しらす御飯は「寝る」と言い残してログアウト。みみみ★みーみみ、茶豆、東雲は見回りへ。
シバと白はレベル上げに向かい、トラストラムはsakueruに連れられていった。
橘花がアイテム漁りに出ようとしたところ、マノタカに呼び止められた。
「橘花、不具合がないかしっかり調べろよ。お前だけがあの意味不明なブツに触れてるんだからな」
「了解です、局長」
「しらす御飯が痛覚とか感度を調べてくれてたみたいだけど、それ以外は調べようがない。自衛しろよ」
「あれ、そんなことも含まれてたんですか?」
「おそらくな」
「……しらす御飯さんの趣味じゃないですよね?」
「…………」
「沈黙しないでください、怖いです」
長年連れ添うマノタカですら断言できず、恐怖が広がる。
しらす御飯を怒らせないようにするのが、ギルドの合言葉になる日は近いかもしれない。




