99 これぞ変わり者
「客だぞ」
エトヴィンは、久しぶりに会った友人とそのオマケを船内に入れ、奥へと言った。良く通る声が消えて少し待つと、仲間たちがどたどたバタバタと、騒がしく集まってくる。
騒がしい霊。なるほど、これがポルターガイストか。一人頭の中で呟いた。
「誰だ? エトヴィン、知り合い?」
もっとも背の低い、さらに童顔の仲間がこっちを見上げながら訪ねる。
「お前等も知ってるだろう?」
がっちりとした大柄の仲間が、腕を組んでうぅんと唸る。頭にバンダナを巻いた仲間や、若白髪の多い仲間も頭を捻っている。
「あっ、純! 純だろ! 死神の!」
金色の巻き毛を持つ仲間が、大きい方の客を指して叫んだ。指された彼は馬鹿にしたかのようにパチパチと手を叩く。
「正解。でも惜しいな。ジャイズンなんだ、今は。事情については、説明が面倒だから聞くな」
「ナマ言いやがって! この!」
肉付きの良い、髭を生やした仲間が笑いながらジャイズンの首に腕をかけた。もっとも、すぐにすり抜けられてしまったのだが。
「こっちは? 可愛い顔してんじゃん」
「タラッド。弟だ」
『弟!』
目を丸くして叫んだ仲間たちが、タラッドの方へと群がって行った。下手をすれば押し潰されてしまうだろう。
「助けなくていいのかい」
「せっかく身代りになってくれてるんだ。弟の好意を無駄にしたくない」
「嘘吐け」
エトヴィンは鼻で笑うと、腰のポーチから刻みタバコを取り出して弄んでいた煙管の火皿に詰める。マッチで火を点けると煙を吸い、吐き出した。
「吸うかい?」
「生憎、煙管を持ってない」
「前来た時は持ってただろう?」
「取り上げられた。煙草嫌いな奴が居て、しかもコイツと相部屋で『未成年が何吸ってるんだ!』だとさ」
拗ねたような口調で、ジャイズンは幽霊団子の方を見る。タラッドはもはや指の先すら見えない。
「お前等、多少は客に対する礼儀ってモンを覚えな」
「だとよー」
エトヴィンの言葉に帰って来た返事はそれだけで、しかもまるで改善しようとはしない。タラットは無事なのだろうか。
……無事だろうな。何しろジャイズンの弟なんだから。
「ジン!」
甲高い叫び声と共に、仲間の何人かが『ブッ飛ば』された。何人かは天井に、何人かは壁に、残りの何人かは床をすり抜け、どこかへ行った。
「流石。期待を裏切らない」
エトヴィンが満足して煙を吐き出している内に、屈強な大の男をブッ飛ばした本人がジャイズンの方へと足音を鳴らして歩いて来た。
「アイツ等、何言ってたんだ!?」
「そこか?」
死んで初めて知ったと同時に理解できるようにもなった言語を彼は、彼等は使った。
「なんか早口だし、今まで聞いてた奴とイントネーション全然違ったし」
「荒くれ共だからな。そこは仕方がない。イントネーションの方は訛りだ。そこもどうしようもねぇな。……あぁ、でもそこに、標準語喋れる奴が居るぞ」
そう言いながら、彼はこちらを指す。エトヴィンは肩をすくめて、言ってやった。
「確かに標準語も喋れるが、この言葉を使った方が早いだろ?」
ジャイズンとタラッドが会話で使っていた言語を使うと、タラッドの表情がパッと明るくなった。意外と素直なようだ。しかし、ジャイズンは「駄目だ」と首を振る。
「出来るだけ言語は多く使えるようにしておきたいんだ」
「そう。なら僕は母国語で話そう。でも奴等は」
「そっちは魂ことばでないと流石に無理だ」
遮るように、苦笑を浮かべたジャイズンが言う。
「だそうだ、聞こえてるな?」
壁から、床から、天井から首だけをすり抜けさせた仲間たちに声をかけた。
――何故、首だけ。
生首がずらりと並んでいるかのような景色を見て、エトヴィンは煙を吸い込んだ。




