86 おーなーかーすーいーたー!
「ヒアー! お帰りっ!」
「わ~、ひーちゃんただいま~!」
と、ヒアと光。
「んだよ、また来たのかよ」
「家らしい家はここしかねぇんだよ」
と、俺と岳。
「もう乗っ取られんぞ」
「誰も乗っ取んないよ」
と、シルと純くん。
タラッド‐タドだ。
相変わらず、仲良いのはヒアと光だけだな。
「あれ? ジャイズンくんは?」
「ジンはお仕事~。大分サボってたらしいからね~」
結構楽しそうに行ってたから、意外と辛いモンでもねぇのかな、仕事って。
「ところで、今日って何日だ?」
「十四日」
の、夜か。ふぅん、確かに時間がズレてる。
「宿題、大量に出てるぜ。ノートも全然取ってねぇだろ? 結構どんどん進むぜ、数学」
「わざわざ教えてくれるとか、お前意外といい奴だな」
「……ぜんっぜん落ち込んでくれねー」
落ち込んでほしかったのか?
「落ち込むな。こいつ等はそう言うモンだ」
モンってなんだ。俺等は物か。
「ヒアのは、ウチが見せてあげるからね!」
「わ~い、ありがと~」
「俺は見せないからな」
俺はまだ何も言ってねぇよ。
「大池くんとか玲也くんとか叶子ちゃんとか宮奈ちゃんにでも見せてもらう。頼むつもりなかったから、気にすんな」
……あの四人ってちゃんとノート取ってんのか? 玲也くんくらいしかちゃんとしてなさそうだな……。もしもの時は捺希や俊でいいか。
「お腹空いたなー」
ボソッと光が言った。
「そう言えば、ミリアンとラディルって、まだ帰ってないの?」
「帰ってない」
「凛ちゃんは?」
「仕事」
「今何時?」
「時計見ろ」
シル、純くん、と言い合いが続いて、シルは時計を見上げた。
八時半。
なんで凛ちゃん帰ってないんだ。
「……何か作るよ。そういや、忍はどこ行ったの?」
「寝た」
「早ぁ!?」
「帰るなり倒れ込むように」
疲れたんだな。高校ってそんなキツいのか?
「趣味と部活と趣味で忙しいんだってさ」
前言撤回。自分で自分の首絞めてんじゃねぇか。
「お疲れ様です。コンビニで栗買って来てあげようかな」
「なんで栗だ?」
別に好物でも何でもなかったよな。
「あたしが食べたいから」
『自己中ーっ』
「自己中上等!」
「そんなモンが上等でたまるか。むしろ逆だ」
「……純くん、冗談くらい理解しよ?」
「お前が言うと冗談に聞こえん」
あぁ、確かに。俺も純くんと同じ意見。
「なんだよー。ご飯作んないよ? 純くん作れんの?」
「作った事すらない」
「何威張ってんの?」
「威張って無い」
「分かった、分かった。言い直す。何開き直ってんの?」
「……ジャイズンのせいだ」
「他人のせいにしたー」
「おーなーかーすーいーたー!」
光の声って耳に響く。高いし、でかいし。
「あー、うん。じゃあお兄ちゃんに、『シヴィルにちゃんと謝んなさい』って言ってごらん」
「お兄ちゃん! シヴィルちゃんにちゃんと謝りなさい!」
「乗せられるな!」
「お腹空いたのっ!」
兄弟喧嘩が始まった。十六歳と十歳、実に六歳違いの、学年的には五つ違いの兄妹の喧嘩。
純くんも何気に大人気ねぇな。
「ほらほら、妹がお腹を空かせてるよ? 兄としてここですべきことは?」
「調子に乗るなっ!」
「捨てようよ、プライド位」
「位とはなんだ!」
「プライドの一つや二つ」
「どう数えるんだ!」
え、突っ込むトコそこか?
「純く~ん、捨てようよ~。純くんのプライド捨てたところでこっちには何の悪い影響ないんだから~」
「他人事みたいに……」
あ、言うの途中で止めた。まぁな、どうせ『他人事でしょ~?』って返ってくるのがオチだからな。
「なんだよ、兄ちゃんのプライドは高ぇんだぞ! 年下に言われた程度で捨ててくれるわけがねぇだろ! もっとよく考えろ!」
「岳、それは俺の味方をしているのか、向こうの味方をしているのかどっちだ?」
「多分兄ちゃん」
多分かよ。いくらでもこっちに寝返る可能性はあるわけだ。
「こう見ると、純くんも結構哀れだねー」
「なんせ、純くんを乗っ取ったのはジンだからな。大分、なぁ」
「喧しい!」
威厳はあるんだ。何か、威厳っぽいモノはあるんだ。
でも王と取り巻きじゃねぇんだから、数が多い方が強い。今なんてほぼ1:5だからな。
「るさい」
「忍。起こしたか?」
「分かってるなら騒がないで」
それだけ言って、忍ちゃんはまた二階に戻って行った。
「……よし、ひそひそ声で続きしよう。
いや、そもそも純くんが謝ってくれたらもう万事解決なんだよ」
そしてまた振出しに戻る、と。




