79 狙いの手紙
『これは狙いの手紙です。
この手紙を九分以内に他の二十人に回さなければ、あなたは狙われます。
私の友達は、この手紙を回さなかったために狙われました。首にはまだその跡が残っています……』
……うわぁー。
初めて見た。マジであんのか、っつか居んのか、こんなの回す奴。
絶滅危惧種じゃね? 言いすぎか。
でも何で『狙い』なんだ。普通『呪い』だろ。狙われてどうするんだ。何に狙われるんだ。でもって、制限時間短っ!
「で、どしたんだよ。これ」
「ポストにあった」
「…………手紙だもんな。心当たりとかねぇのか?」
「無い」
「で、なんで俺に持ってきたんだ?」
「居たから」
……誰でもよかったんだな。
タラッド‐タドだ。
漫画を読んでた時、学校から帰って来た忍ちゃんが呪い、もとい狙いの手紙を持ってきた。
「……まさか怖いってわけじゃあるまいし」
「あり得ない」
バッサリ言うよな……。忍ちゃんは無口なんじゃなくて、必要最小限しか喋んねぇんだ。
あれ? すなわち無口じゃね? 聞かなかった、読まなかった事にしといてくれ。
「忍。帰ってたのか」
「ただいま」
純くん。シルから聞いてんぞ。ずーっと勉強してるって。すげぇよな、マジ尊敬する。でも絶対に真似はしない。
「何だ、それは?」
「他人の手紙の内容を聞くってのは不躾じゃねぇんですか―」
あ、顔ゆがめた。『あの兄にしてこの弟……』ね、聞こえてるぞ?
「それは私の」
忍ちゃんに手紙取り上げられた。ちぇ。
純くんもガッツリ睨んでくる。ジンに比べりゃなんてことねぇな。
「純兄さんも見て」
「何だ?」
純くんが手紙を開いて、顔をしかめる。
……純くんって、いっつも顔しかめてるような気がするな。眉間にしわ付くぞー。高校生なのに。年齢的には。
絶対言うぜ。『バカバカしい』って。
「バカバカしい」
それ見ろ。
『言うと思った』
忍ちゃんと俺とでハモった。そりゃな、ハモりもするわ。
思った通りの言葉、一字一句違わず言ったんだから。
「どしたの? 何が言うと思った?」
「『バカバカしい』っていう純くんの感想」
「何がバカバカしいの~?」
ヒアと光の末っ子コンビ。いっつも一緒に居るなこいつ等。
二人がリビングに入って来た後に、岳も入って来た。
「よぉ。お帰り、岳」
無言でぷいとそっぽ向くだけ。いつまで拗ねてんだ。半月以上? すげぇな。凄すぎるな。
「この手紙」
純くんの手から手紙を取った忍ちゃんが、ヒア、光、岳に狙いの手紙を見せた。
三人の口からは『あぁ~』と納得の声。純くんがますます顔をしかめた。
「あー、何かあたしが置いてけぼりになってるー」
シルまで来た。
「何がバカバカしくて何が納得? 狙いの手紙? 呪いじゃなくて」
「分かってんじゃねぇかよ」
「耳はいいのさ」
耳を指してシルが言う。
……目は悪いけどな。
「見してよ」
シルも手紙の内容に目を通した。
「どすんの? レターセット必要? 有り余ってるよ、貰い物が」
貰い物って、ビンゴゲームとかのか? シルが小学生の頃からあんじゃねぇか。
「二十くらいならあると思うよ?」
「いらん。無駄な事に使うな」
「また無駄って言う。まぁこれは無駄って認めるけどさ」
純くんの睨みはどこ吹く風、代わりにシルが振ってる手紙が風に揺れてるように見えるな。
「にしても、どこの誰が送って来たんだか。なんか懐かしいよ。
見たのはこれが初めてなんだけどさ、これが流行った時、郵便局は大分儲かっただろうねー」
切手貼ってまで送るか? それとも手紙を郵便局で買うとか?
「んたっ」
ん? 急に忍ちゃんが悲鳴あげた。パチッて音がしたから、ゴム鉄砲か?
次に俺、純くん、ヒア、光、岳、シル、とゴム鉄砲が、ちょうど服の薄くなってるところか肌が出てるところを狙って飛んで来た。全部命中。
「そら、狙われた」
ジン……。いつ帰って来た?
左手の指に大量に持ってるゴムは何だ?
「いつの間にノーコンでなくなった!?」
……純くん、驚くトコはそこじゃねぇ。
「手で直接投げるんじゃ無きゃ、そこまで酷いノーコンじゃねぇんだよ」
投げるときはノーコンって認めたな。しかも『酷い』って付けたな。
「じゃあ、この手紙はジンが持ってきたの~?」
「正確には俺の友達が。この話をしたらハマりやがってな。今霊界は手紙ブーム」
「……狙いの?」
「それは全く流行らなかった。代わりに、何故か文通が流行り出した」
『なんでだ!?』
「俺に聞くな」
七人の突っ込みもどこ吹く風。
そりゃ、ジンが知ってるわけねぇよなぁ。
「お陰で、郵便班は大忙し。でも給料は普段と変わんねぇんだってさ。哀れだな」
全然そう思ってなさそうな口調だけどな。
「この手紙……」
「ん? あぁ、捨てとけ。鉛筆書きだから、消して再利用するも良し」
「そうする」
あれ、忍ちゃんって意外と……ケチ?




