77 一人と一人で
「まいまいねじまきまいむめも!」
「言えてねぇ」
「まいまいねじまき、ま、み、む、め、も!」
「そこだけゆっくり言ってどうすんだよ」
タラッド‐タドだ。
今日は演劇部……っぽいモノのマネをしている女子集団の、スイだけしか居なかった。
スイ、覚えてるか?
オカルト部の悪魔召喚に惹かれてやって来た、料理人が夢の女子。物好き=酔狂、で酔狂のスイ。
ちなみに、本名は水橋美湖って言うらしい。……始め、巫女さんかと思ってしまった。
でもって、本当に『スイ』と呼べるところに驚いた。奇跡すげぇ。偶然すげぇ。
そのスイは、一人しか居ないから発声練習をしてる。見ても暇だけど、見るだけ見てる。口出しもしてるけどな。
「もっかい言ってみ。初めから」
「え。ええと、うん。あめんぼあきゃいなあい……」
「そこ、噛むか?」
「あめんぼあかいなあいうえお!」
怒るなよ。
「うきもにこえびもおよいでる」
言えんじゃねぇか。
「かきのきくりのききゃききゅけこ」
「噛みっ噛みだなおい」
きゃききゅけこって。逆に言いにくくね?
「きちゅつきこつこつかれけやき」
無視か。
「さ、さ、げ、に、す、を、か、け、さ、し、す、せ、そ」
「急に遅くなったな」
「言いにくいんだもん! 言ってみて」
「ささげにすをかけさしすせそ」
……なるほど『さしすせそ』って言いにくい。
「ね?」
「……あーそうだな」
「ねぇ、タラッドくんって言うんだよね? 下の名前は?」
「タラッドがすでに下の名前なんだけど」
「そうなの? 上の名前は?」
「ねぇよ」
「無いの!?」
「ねぇもんなんだよ」
姓が無いのは困るだろって、『タラッド』が名字みたいに扱われてるけど。
「名前言うときも『タラッドです』って言うの?」
「……その場合は『タラッド‐タド』って言うな」
「タド?」
「愛称。タラッドってのは君付けさん付けされてるようなモンだから」
そんな事より、発声どうした?
「じゃあ、私が『タラッドくん』って呼んでるのは」
「タメ語だとタラッドくんくん、てな感じになるかもな。敬語だったらそうはならねぇけど」
って、マーリさんとかベルとかに聞いた。
「じゃあ、タドくん?」
「別にどっちでもいいんだけど」
「タドくんって、何処から来たの?」
「埼玉」
「……ホントに?」
怪しまれてる。そりゃ怪しむよな。
ここに入った時、とっさに吐いた嘘なんだけど。
「何人間?」
「……と言うのは」
「鳥人間とか、半妖とか、何かあるでしょ?」
『○人間』は前者だけだけどな。
「鳥人間はかすかに入ってるなぁ。妖怪も混じってたと思う」
「何のハーフ?」
「ハーフとクォーターとが色々混ざった結果が俺等」
何だと思う。
「俺、等?」
「俺の兄ちゃんと姉ちゃんと妹。あぁー、父さんもそれでいいのか」
「へぇー。お母さんは?」
「これ」
って言って、よくあるお化けみたいに手を出してぶらーんと下げて見せる。
「いやぁ!」
「……お化けの幽霊のって、駄目な奴?」
おいおい、あんまり強くうなずくな。首が取れるぞ?
……俺がこの場で霊体になったらどうなるかな。
なってみた。
「きゃ――」
…………………………やばい。気絶した。
「え、おーい。おーい? 悪かった悪かった」
肩を叩いても何にも起こらない。
「おぉーい。俺が悪かったって」
揺さ振っても以下同文。
保健室連れてかなきゃなんねぇのかな。としたら俺、コイツ持ち上げて、この四階から一階まで下りなきゃなんねぇのかな。
……悪目立ちするな。ただでさえ目立ってんのに。
「起きないとシャーペン首に刺すぞ?」
いや、駄目だろ。自分で言っといてだけど。
「取り敢えず、スカートだけでも直してくれねぇかなぁと思うんだけど」
思いっきりまくれ上がってますよ。しっかりと体操服の青いズボンはいてるけど。
「……あ」
「あん? 起きたか?」
「あめんぼ、あかいな、あいうえおー……」
……練習熱心なのは認めてやるから、それより起きろ。




