74 高校生のお客様
「タラッド、どこ行くんだ?」
「霊界。そういやさ、お前霊見えるよな。今更だけど」
「テメェ等のせいでな!」
「そう怒んなよ。お化け優しいだろ?」
「あーそーだな」
全然そう思ってない口調だな。これでもかってくらいに棒読みだ。事実だってのに。お菊さんとかさ
「ま、行って来る。ジン居るかなー。それともどっか旅出てんのかな」
「知るかっ!」
「誰がお前に聞いたよ」
黙った。ふて腐れたな、これは。
……ん? インターホン鳴った。丁度出るところだったし、このまま玄関から出るか。
あれ? 霊体になったら壁すり抜けられるじゃん。……今度からそうしよう。
「はい」
「つの?」
あ。まぁいいや。うん。学校じゃもう皆慣れたし!
だからってな、門の向こう側に立ってる女の子がそう簡単に慣れるとも思えねぇけどなぁ……。
「あ、弟くんね。なんだか、ちょっと変わったわね? その角どうしたの? 髪はブリーチ?」
ちげぇよ。
……あれ? そこに立ってる、制服姿の女の子ってゆうちゃんじゃん。
ゆうちゃん、本名は知らね。あだ名しか聞いた事無いから。忍だった時のシルの友達で、純だった時のジンの元カノ。
『……はい』
………………純くん、インターホンに出てきたし。
「俺、出たから。ゆうちゃんだったよ」
あ、黙った。受話器を置いたらしく、切れた。
「で、どしたんだ?」
「久しぶりに忍達に会おうと思って」
えー……と、シルとジンの方でいいよな。いいのかな。
「ちょっと待ってて」
「入っちゃいけないの?」
あー、えー。まっ、いいか、何とかなる。
「いいよ。入りなよ」
「ありがと」
……純くんがゆうちゃんに会ったらどんな反応すんのかなぁ。気まずいのかなぁ? 卒業したら分かれる前提で付き合ってたらしいけど……。
「あれ? 霊界行くんじゃなかったのかよ」
「やめた」
「……弟くん?」
「ゆうちゃん?」
ゆうちゃんが俺と岳とを見比べて、怪訝な表情をした。そりゃそうだよなー。と、思ったら今度はにっこり笑うし。あー、この人はこういう人だった。姉ちゃん並に行動がよく分かんねぇ。
一方岳は困惑した様子。やっぱこいつは普通の反応だな。
「ふふっ、やっぱり高山家って面白いわ。何が起こったの?」
「ゆうちゃんってそういうの聞くとき躊躇ねぇよな」
「嫌われる恐怖よりも好奇心の方が上よ」
さっすがー。変人中の変人。褒めてねぇな、これ。
「どうした?」
「あら、純。久しぶりね」
回れ右。下りて来た階段を上って行った。意気地なし。
「純じゃないみたいだわ」
「ゆうちゃんの行ってる純はジンだろ?」
「だから、何が起こったの? 説明してくれるわよね」
…………難しいな。非常に難しいな説明。取り敢えず分離したことだけ言ったら分かるかな。
という訳で、そう言った。
なんと納得してくれた。
「マジで? これで納得すんのか?」
「納得しなかったら長くなりそうじゃない」
……流石。分かってる。
「それで、忍は?」
「忍ちゃんは部活だけど。シルはどこ行ってんのかな。上かな?」
忍ちゃん、意外な事に演劇部続けてるんだよなー。
っと、俺がそんな事を考えてるうちにゆうちゃんは大声を出した。
「シルー!」
「はーい?」
……もっとも簡単な方法で見つけたな。台所の方に居たらしい。
「あれっ!? ゆうちゃん!? なんでまた!」
「へぇ、本当にシルなのね。シヴィル、なのよね」
「あぁ、タドから聞いたの。どしたの?」
「なんとなく。久しぶりね」
「久しぶりー。二か月半くらいだけど」
結構長くね、それ?
「純、じゃなくてジンは?」
「仕事中だよ、多分」
「多分?」
「サボってるかも」
「ふふっ、中三の時は授業もサボってたものね」
マジか。学校じゃそれなりに真面目だと思ってた。
「あ、ねぇねぇ、純くんには会った?」
「えぇ。黙って階段を上がって行ったわ」
「あはは。純くんの意気地なしー」
「誰が意気地なしだ?」
……あ。純くん。
堅物そうなしかめっ面が真後ろに。
「あっはっはー。聞かれてた」
「ふふっ」
「気付いてたでしょ、ゆうちゃん!」
「えぇ。久しぶりね。初めましての方が正しいのかしら、純?」
純くんの表情が困惑してる。意外に分かりやすいな純くん。全部顔に出てるぞ?
「どっちでもいい」
「あら、こっちの純はつれないのね」
「つれなくていいんだ」
「純くん、元カノにそれは無くない? どう言うモンなのか知らないけど」
「アレはジンがっ……!」
あ、今の表情すげぇ岳に似てた。
「ん、俺がどうした?」
ジン、帰って来たのか。
……ところで、ジンの角を見たらいっつも思うんだ。太くて、その直系より高さがすこし長い程度の、円錐型した角。
あれ、額近くで頭突きしたら最強だよな。
オチはねぇから流しといてくれ。
「ん? ゆうじゃねぇか。久しぶりだな、どうした?」
「久しぶり。ちょっと忍に会いたくなって」
「そうか」
「自分に会いに来たんじゃないのかってショック受けてくれないの?」
「それくらいでショック受けるわけねぇだろ。俺だぜ?」
「俺様だものね」
「そうだ」
俺様については否定しねぇのな。めんどくせぇだけか? 違うような気がする。
「ジン、ゆうちゃんの元とは言え彼氏だろ。何かねぇのかよ」
「元と現の差はかなりデカいと思うが」
そーだな。言ってから思ったよ、俺だって。
「あら、何かしてくれるの?」
「ジン、何するの?」
「知るかよ。何しろって言うんだ」
「私に聞かれても分かるわけないでしょう?」
「そりゃそうだ」
純くんは完全に蚊帳の外だな。黙って二階に戻って行った。たまには運動しねぇと太るぞ? よし、これ今度言っておいてやろう。
「中三の時に戻るとか?」
ゆうちゃんが言ったそれに、ジンがそっちを見た。
「ん? 戻りたいのか?」
「あら、いいの?」
「死んでないことが判明したから、別にいいけど」
「じゃあそれで」
……わー、再びカップル誕生って奴け? それに戻った場合は何て言うんだ?
にしても、ドキドキだのふわふわだのロマンチック? だの全然ねぇなこの二人。完全遊び感覚だ。
「でも俺、仕事仕事で忙しいぞ?」
嘘吐け。仕事:遊び:旅=2:3:5だろ。
「いいわよ、別に。霊ならどこにでも来れるでしょ? 私の学校、私服だから学校に出ても大丈夫よ」
「へぇ。有芸って私服だったのか? 公立だよな」
有山芸術高校、らしい。前にシルから聞いた。
「公立でも私服よ。制服もあるから、ほとんどの子が制服着てるけど」
私服の意味あるのか、それ。
「ふぅん。じゃあ暇があったら行くかもな」
「かもって何よ?」
「迷子になったら行けるわけねぇだろ?」
……言ってる事、何気に格好悪ぃぞ? 迷子になる可能性あるって事じゃねぇかよ。
「あら、案内して差し上げましょうか?」
「結構です。何だよその口調」
「ふふっ。ちょっとやってみたかったの」
「あっそ」
あれ、ジンどこ行くんだよ……何か食って来るそうだ。昼飯食ってなかったのかよ。
「ねぇ、忍。学校どう?」
「楽しかったよ」
「……過去形?」
「今、忍はあたしじゃないからさ。忍は多分、楽しんでると思うけど」
「あぁ、そうそう。それよ!」
「へ?」
ゆうちゃんがぐいっとシルに近づく。
「そのこと、もっと詳しく教えてちょうだい?」
「…………タド、ヘルプ」
逃げとこう。背後から『裏切り者~』って聞こえて来るけど、気にするな。




