57 地図を見つつ、再び
「シル、タド、ヒア。少し来い。……あー、ミリアンも居たほうがいいな」
「何~?」
そんなに大きい声で言ったわけでもねぇのに。恐るべき聴覚。
「で、何ー? 異世界旅行の?」
「そう」
「うあ、ホントに?」
シル……違うと思って言うなよ。
タドだー。じゃなかった、タラッドだ。
本名と相性がごちゃごちゃになってきた。だって愛称でしか呼ばれねぇし。
ジンに呼ばれて、リビングのテーブルの周りに五人が集まった。
父さん、ラディムは仕事。この世界は、盗もうとする方からすりゃ無駄に防犯対策スゲェし、追っかけて来る方もしつこいからだろうだ。ってことは、いっぺんやったのか?
……気にしちゃだめだ、俺。もしやってたとしたら、まだ時効になってねぇんだから。
「取り敢えず、ラディムとミリアンと俺とで行ったところを探してみた」
「あら、よく分かったわね~? 場所なんて、私達全く分からず行ったのに」
「あーそうだな。それでよく、行ったところもっかい回ってみようとか言ったな」
「だってジンなら分かるかと思ったから~」
「息子に頼んな」
「あら、悪い? 子は親を支えてなんぼじゃない。……って、どっかの本に書いてあったわよ~。多分」
「よし、分かった。言い直す。当時零歳だった息子に頼んな」
「だって、普通に歩くし、喋ってたし、走るのも速かったんだもの」
「関係あんのか?」
聞いてみたら、
「ねぇな」
ミリアンじゃなくてジンが答えた。
「話戻そ~?」
ヒアの声で話を戻す。……末っ子が一番大人じゃね? 十歳が一番大人じゃね?
「多分全部見つけられたと思うけど……。やったら多い」
「あら、そうかしら?」
「世界もバラバラ、なんたって世界と世界繋いでる扉の使い方知らずにやってんだからな。当然っちゃ当然なんだけど。まずこの世界」
紙の地図の一枚をトンと叩く。なんで大陸こんなに固まってんの? 大陸一個しかねぇじゃん。昔の地球か。
「……の、この地域」
大陸の真ん中あたりをぐるりとなぞるようにペンを動かして示す。色は付かない。ペン先出してねぇから。
「を、三日か四日で回った。細かい地図はこっちな。行った場所には赤の印が付いてる」
シルを真中に、開いた地図を兄弟三人で覗き込む。あれ、意外と少ねぇな、行った場所は。
「ねぇ、こっちの青い印は?」
「この黄色は~?」
「黄色は観光名所。青いのは一回俺が行って、知り合いが居る場所。その世界の奴等は結構フレンドリーだからタダで泊めてくれるかもしれない」
『それが目当てか』
非常に納得。ケチなだけある。
「いや、食事とかもタダで出してくれる可能性が高い。何か土産持っていけばなお良し」
「同じじゃん!」
「あぁそうだよ」
開き直んな。
「で、他にこの世界」
開き直った直後に話変えるな。
「島多っ!?」
「まんべんなく島があるな……」
「島と海しかないよ~」
例えるなら、田舎の星空! 分かりにくいか。分かりにくいな。
海があって、島が大量にあるんだ。太平洋や大西洋みたいなでっかい海は無くて、大きくても日本海くらいのスペースを開けて島がある。
「どうやったらこうなるんだ?」
「この世界の理屈は通用しない、納得したか?」
「した」
というか、ここでしないと永遠に納得できない気がする。
「この世界で行ったのはこのあたりだな」
と、示されたのは、地図の右端あたりにある群島。
「細かい地図がこれ。見方は同じ」
また三人で覗き込む。
……読みにくいんだよなぁ。日本語じゃねぇし。何故か、どう発音するのかは分かるけど。ジン曰く『魂ことば』って言うらしい。霊の言葉だそうだ。
「で、次がこれ」
「今度は大陸多いね」
大陸が七つ。オーストラリア大陸より少し大きいくらいのと、同じくらいの大きさのと。列島もあった。
「左側、よく見てみろ」
左側? …………あ、れ?
「魔女の帽子がある~!」
ヒルが指したのは三角のとんがり帽子みたい、というか、一旦見たらそうとしか見えない大陸。
「こっち箒みたいだよ」
シルの指したのは、左側が細くて右側は急に膨らんで、先はツンツン尖った竹ぼうきのような大陸。
「この大陸、笑ってんぞ」
俺が指したのは、一番小さくてすごく嫌な笑い方してる大陸。ニッカーって笑ってて、目は見開かれてる、ように見える。多分この目は海だな。
「この右上にある大陸」
『ん?』
ジンがその大陸にある国を一つずつ指しながら言う。
「この二つの国名はヤツとハシ」
『八つ橋』…………えぇー。
「で、その近くにあるこれは、ナマ、ヤキ」
さっきのに合わせると『生八つ橋』『焼き八つ橋』
こんどは別の、下の方にある大陸を指して、
「こっちは、プリン、タベ、タイ」
『プリン食べたい』誰だ、国名付けた奴!
「何、この遊び心たっぷりな世界。何処の世界?」
「魔界」
俺の中で魔界のイメージが音を立てて崩れていくんだけど!
「それっぽいとこもあるけどな。たとえばこの辺。ここはデス、こっちはダイ」
「物騒だな!」
死ばっかじゃねぇか!
「中心国はブラッド」
中心国の名前が『血』ってどうなんだよ!
「この世界では、デスは誕生、ダイは生まれる、ブラッドはただこの国だけを指すのだそうだ」
「ブラッドはともかく、デスとダイは真逆じゃねぇかよ!」
「俺に怒鳴ってどうする。魔界の言語を訳した誰かに言え」
そんな勇気が俺にあると思うなよ。
「はい、細かい地図。……とまぁ、こういう感じの国が数十ある」
マジか。どんだけ行ったんだよ。
っつか、どんだけ旅好きなんだよこの一族




