41 何気なく人生最大の選択
「岳、いつまで寝てんだ」
「ん……後五分……」
「ベタだな」
眠いから、ついよく聞くフレーズを。
「今何時だよ……」
「お前の目の前に時計あんだろ。それ見ろよ」
あぁ、目の前にあった硬い物は時計だったのか……。
薄目を開けてみてみると、どうやらそれは五時を指しているようで。
「んだよ、早すぎるくらいじゃねぇかよ……」
「あぁ?」
手の中から時計が取られた。一泊置いて、呆れたような声。
「……岳。目覚まし時計くらい合わせとけ」
「常に合わせてるよ」
舐めんなよ。少しでもずれてる事に気付いたら即直してんぞ。
「二時間と少しずれてるけど?」
「じゃあ三時か……」
「馬鹿。七時と五分だ」
「マジで!?」
ずれまくってんじゃねぇか! 何があった!?
「マジだ」
「あ、お帰り兄ちゃん」
「ただいま。目覚ましの電池取り替えとけよ?」
……成程。電池が切れてたか……。どおりで、電源切ったわけでもねぇのに三日間目覚ましが鳴って無かった訳だ。休みだから気にしてなかったけど。
「思ってたより早かったな、帰ってくんの」
「昨日、溜まってた仕事全部終わらせたから」
「……兄ちゃんってコツコツタイプじゃなかったっけ」
「一晩で仕事は溜まるんだよ。今こうしてる間にも一つ、また一つ……」
何故か皿屋敷を思い出した。なんでだ。数数えてるからか?
「大抵すぐ終わるから、溜めてからやった方が効率的だしな」
ふぅん。そう言うモンなのか。
「で、死校の件だけど。ホントに入りてぇのか?」
「入りてぇよ?」
「中学の勉強は。義務教育なんだけど、一応」
一応って言うなよ。れっきとした義務教育だ。
「……ぶっちゃけ、授業暇だし?」
「そらそうだろうけど」
あっさり認めたし。
「成績は下がるぞ? 授業に出ねぇんだからな。当然と言えば当然だけど」
「テストで何とか……は、無理か?」
「んー……。出てない授業の間に習う、解き方だとか公式だとかを自分で学習しとかねぇとそれも無理だな。そもそも、テストが成績を占める割合も半分以下だし。良くて3かもな」
「そう言う兄ちゃんは成績どうだったんだよ」
「見てすらいない」
うわぁ。
「ちなみに、高校は? 行くつもりでいるか?」
「いや。あんまり行く気無い。兄ちゃんも言ってねぇじゃん」
「金は稼げる、遊ぶことができれば、旅も可能な時間まである」
「いいな死神」
金はあるけど時間がない、時間はあるけど金がない、のいいトコだけ取ったような職業じゃねぇか。
「ただし、当然それなりにキツイ。入学したが卒業できなかった奴は六割以上。酷い時には一緒に入学した奴が誰も居ない、なんてこともある。…………って、話を誰かが話してたのを偶然聞いたって奴が言ってたのを偶然聞いた」
「信頼出来ねぇ情報だなおい!」
「六割は事実だぞ? 俺と同時期に入学した奴等は……あぁ、まだ在学中だった」
…………卒業までの異常な速さを物語ってるな。兄ちゃんが死神になって二年くらいたってる筈なのに。
「それでも四割くらいはすでに脱落して冥界に逝ったぜ」
……どんだけキツいんだよ……。
「一日何時間あるんだ、それ」
「人それぞれだ。自分で何を学ぶかは決められるから。必修もあるけど、そんなに多くない。後は大量にある中から自分にあったのを選ぶんだ」
「兄ちゃんは?」
「必修と……言語いくつか、戦闘術、その他諸々」
「……それで、卒業まで何年?」
「四年半だな」
「何か微妙」
大学より長いじゃん。『半』ってなんだ。『半』って
「最短なんだけど」
「マジで!?」
「まぁ、教師が良かったからな」
「どんな教師? ……っつか、一人一人に付くもんなのか?」
「いや。教科別。奇跡ってすげぇよな」
えぇえええ。同意はするけど……。
「旅しながらの授業だよ。楽しかったな。戦争に巻き込まれたりダンジョンに落ちたり、半端なく危険だったけど」
「いや危険すぎるだろ!?」
「喧嘩に巻き込まれもした」
「急に危険度落ちたな!」
「ん……、犯罪に巻き込まれもした」
「確かにある意味危険だな!」
っつか、何だよ。いつの間にか兄ちゃんの危険だった昔話になってんじゃねぇか。一昔も前じゃねぇけど。
「まぁ、早く卒業しようとすればそうなるって事だな」
「……普通に授業受けてたらどうなるんだ」
「多少危険はあっても、死ぬほどじゃねぇな。一回一回がハードだけど」
うわぁー。
「で、どうする? 授業を除けば、普通にしてても楽しいけど」
「ふぅん? たとえば?」
「年に何回か祭りがある。死校の敷地も解放されて、行きたくないって奴以外は皆参加する。まぁ、コレは言ってみなきゃ分かんねぇだろうけど」
ふぅん……祭りか。
「海もあるな。門を出て少しの所に。年中雪の積もった山もある」
あぁー、海なんかほとんど言った事ねぇな。
「何にもない荒地もある。死校に背ぇ向けとけば、視界に入るのは空と地面だけ」
「うっわ! すげぇ!」
「当然星もきれい」
「うわー。いいなそれ。……っつか、霊界に星とかあったんだ」
「死んだ星達だ。冥界に行くと無くなる」
へぇ……。星も死んだら冥界に行くのか。
「で、どうする? 死校行くか行かねぇか。……と言うか、試験を受けるか受けねぇか」
「…………考えるってのはあり?」
「もちろん。九月まで猶予はあるし、別に次に来るのを受けなくても、半年後にはまた受けられる。好きに考えな」
「そうする」
……今はとにかく、腹に何か入れることを考えよう。朝飯ー。




