32 異世界人がお宅訪問
「ただいま」
……返事がねぇ。誰も居ねぇのか。
「妖怪の巣は上に大きいのか」
「妖怪じゃねぇっつってんだろ」
岳だ。
この蕾とか言う異世界人を何とかしてくれ。結局家にまで突いて来やがった。
「なんと、戸がこちら側に開く!? 横に動くものではないのか!」
……着物姿だからなー。きっとそういう文化の国に生まれて育ったんだな。
「戸をくぐって家に入るというのは新鮮だ……」
「は? 普段どうやって入ってるんだよ」
「秘密の入口から」
そういう文化ってどういう文化だ!? 忍者文化か!?
「ほう、こちらにも戸が」
勝手に入んな、勝手に開けるな!
「な、何だこれは! さては仲間の妖怪だな!」
椅子とテーブルだ! 何処が妖怪!?
「これは……板か? しかし何でできているんだ……」
パソコンのディスプレイ! べたべた触んな!
「同じものがこっちにも!? 今度は随分大きくなっているな」
テレビだ!
「これは……?」
ソファーだ! なに指でツンツンしてんだよ! かと思ったら今度はどさっと寝っ転がるし……。
「何だこれは……気持ちいい……ハッ!」
うっとりした次の瞬間、飛び上がってソファーから転げ落ちる。
「気持ちいい気分にさせて、食らうつもりだな!」
そんな恐ろしげなモン、家の中に置かねぇよ!
「ふっ。残念だったな」
残念なのはお前の頭だ。
「む、何だこれは!? 紙の中に子供が……!」
写真な!
「いや、髪の色からして妖怪か……。ひい、ふう、みい、四人も!」
「俺と妹と姉ちゃん兄ちゃんだよ」
「なっ……家族が居るのか!」
他人を勝手に天涯孤独にするな!
「そこには写ってねぇけど、父さんも母さんもちゃんと居るからな!」
「くっ、うかつに一人で乗り込んだのは間違いだったか……」
改めて写真を見る。なんか口元を綻ばせる。
「…………似てるな」
微笑ましいってか!
「妖怪でも子供は可愛いな。どれが誰だ?」
興味津々か! 子供好き!?
「この、木の下で振り返ってるのは?」
「妹」
「じゃあ、この、木にぶら下がってるのは?」
「姉ちゃん」
「木の枝に座ってるのは?」
「兄ちゃん」
「じゃあ、この木の上で立っているのがお前か」
もっかいじっと見て、
「可愛いー」
「返せ!」
「あぁっ!」
ひったくったら、すげぇ残念そうな表情された。
「子供好きなんだ。将来の夢は幼稚園の先生」
そーかよ、頑張れ。
ったく……大体コレ、何年前の写真だよ。引っ越す前だから……六年か、七年か? 結構古ぃじゃん。なんであるんだ。
「……はっ! 家族がいるということは、いつ帰ってきて襲いかかってくるか分からない!?」
襲うわけねぇだろ。むしろ、襲ってきそうなのお前。
「隠れねば!」
蕾はドアから廊下に出て、階段を駆け上がる。何でそっちに逃げるんだよ! 裏口あるからそっちから出てけ!
階段を登り終えたら、ドアが開いてた俺の部屋に駆け込む。
「な、何だこれは!? 木か? 変わった形だな……」
木製の勉強机な! 生えてんじゃねぇよ!
「こっちにも!」
それ兄ちゃんのな!
「なんだ!? この木、引っ張ると伸びるぞ!?」
引き出し開けただけだろ! っつーかお前、普段どういう家具使ってんだ!?
「中に何か入ってる……。む? これはなんだ? 紫に橙に赤に白に緑に黄? ……うぅん?」
ルービックキューブ! 兄ちゃんはパズルが好きだったんだよ! でもケチだからそれは百均の安物。
「おい、君。他人の引き出しは勝手に見るものじゃないだろう?」
「出たな妖怪!」
……それ、妖怪じゃなくて死神。見たこと無い男だけど。
「おや? そこの少年、もしや純か?」
「……の、弟です」
「そうか。奴がこんなところに居る訳が無いものな」
その『奴』の実家をこんなところ呼ばわりしたぞコイツ。
「……うん? 弟がここに居る、という事はここが純の家? その机、純のものか?」
「そうですけど」
「純の机を漁るとは……度胸あるな、君」
あ、俺じゃなくて蕾に言ってたか。今思わず反応しかけた。
「何者だ、その純というのは。妖怪の頭領か!?」
偉くなったな、兄ちゃん。
「いや、ナマガキだ」
…………大人から見たらそうなんのか。
「旨いよな」
それは生牡蠣だ! っつか、異世界なのに生牡蠣ってあんのか!? 牡蠣居んのか!?
「生牡蠣の事か? おぉ! 確かに旨い!」
この後、蕾と死神の誰かは生牡蠣談義をしながらどっかへ去ってった。
えぇえええ。




