30 『いしそつう』って難しい
「………………どういう状況?」
一人は片膝を付いて左手を胸に当て、顔を上げて右手は斜め上に差し出してる。
二人目は左手でその手を取って、手を腰に当てた格好で胸を張って立ってる。
ポーズはそのままで動かない。
「意思疎通の練習」
分かんねぇよ。
岳だ。
放課後、オカルト部を撃退して教室に戻ってきたら、教室の後ろで数人の女子がそんな事をやってた。机と椅子は前の方に固められてる。
椅子に座ってた三人の内一人がくるっとこっち向いた。……あ、酔狂のスイ。
「お姉ちゃんが演劇部でね、こういうのやってるんだって。楽しそうだから真似てるの」
ふぅん……。そういや、家の姉ちゃんも演劇部入ったとか言ってたな。びっくりした。
「いいよー、三人目」
窓から外を見てた二人の内一人が振り向いて、彫刻みてぇに固まってる二人の方を見た。
「えぇえー。これ以上人数要るんですか。完成してるじゃん。どうしよ」
……始めの一人がポーズを決めて、二人目はそのポーズの意味を考えて、次のポーズをとる。三人目以降も、見てどういう状況か考えてポーズをとる……って感じか。
確かにもう完成してるな。どう入れっつーんだ。
「よし」
決まったらしい。
なぜかそいつは、初めにロミジュリのロミオのような格好してた奴の隣で、花束か何か抱えるような格好を。顔は下がってる。……男その二?
「四人目ー」
「えぇええー」
「なるよねー。なるよねぇー」
なるよなぁー。
後ろに一列並んだ机の上に立って、木でも担ぐような格好。……照明か? カメラか?
「はい! 舞桜ちゃん、何に見える?」
スイが隣に座ってる舞桜ちゃんとやらに聞く。
「舞踏会の撮影?」
あぁ、上がカメラ。『踊ってください』の男と『喜んで』的な女。何かエラそう。で……『踊ってください』と言ったもののスルーされた男、か?
「はい」
スイが反対側の隣に座ってる女子に聞く。
「ドラマのプロポーズ、かな?」
あんなプロポーズする人居るか!? いや、まぁ、それっぽいっちゃそれっぽいけどなぁ。
「私はベ○ばらの撮影かなって」
いや、ベルばらにこんなシーンあったか? 原作読ん位しか知らねぇけど、こんな場面は無かったぜ?
「岳くんは?」
「俺もか? ……お嬢様と執事と可哀そうな奴、の撮影」
「可哀そうな奴!?」
違うか?
さっきからずっと固まってた奴等に順々に聞いていくと、
四人目は
「舞踏会かと思って。何処に行けばいいか分からなかったから照明を……」
三人目
「もうこれ以上増やしようがないから、モテる女の人って事にして、プロポーズする人その二を」
二人目
「ロミジュリかなーとは思ったけど、高い所に行けないからプロポーズ受けた」
で、最初の奴は
「ロミオとジュリエットのロミオ」
ぜんっぜん意思疎通できてねぇじゃん!
「あっはは、全然意思疎通できてなーい!」
「もっかいやる?」
「やろうやろう。ジャン、ケン、ポン!」
居た女子の内、五人でジャンケンをして、順番を決めた。
「あ、岳くんもやる?」
「いい。見てる」
面白かった。
『キャーッ!』
やかましい。
一人目。手の指を軽く曲げて右手を高く上げる。肘は少し曲げてあって、左手は横より少し下の方に伸びてる。
二人目。一人目の両手を軽く持って、舞踏会で踊る人っぽくなった。
三人目。まぁ、これも完成してるようなもんだから、少しとまどった後、少し離れたところで一人離れて踊るような格好に。視線はがっつり一人目、二人目の方に。高く掲げた手も丸まってる。
四人目。一人目と二人目のペアは、何かを投げようとしている人とそれを止める人に見えたのか、三人目の上げた左ひじあたりとスカートを掴んで片膝をつき、止めにかかった。
五人目。一、二人目ペアと三、四人目ペアを何回か見比べてから、二組よりも後ろに立って、片手を上げた。……審判か?
何とびっくり、舞踏会があっという間に決闘だ! えぇえええ!?
五人目はこう語る。
「や、もう、何か投げる人と止める人に見えたから決闘かなーって。で、審判を」
四人目はこう語る。
「何か、漫画にこんなシーンがあったんだよ。店主と奥さんがなんか投げ合いしてるようなさ」
三人目はこう語る。
「こっちのはま、舞踏会かなーって思って。で、こっちで一人寂しく踊ろうかなーって。一緒に踊りたかったって事で、視線はそっちに」
二人目はこう語る。
「舞踏会かと思ったから、とりあえず、こう、手を添えて……」
で、一人目! ある意味答えになるその人はこう語る。
「教師、だったんだけど……。チョーク持って黒板に何か書いてる……」
えぇえええ!?
結論、こいつ等に意思疎通は無理じゃね?




