29 しょーかん
「これから、三年五組のA教室で、オカルト部による悪魔召喚術を行います。興味のある方、一年生でも二、三年生でも大歓迎です。ぜひ来てください」
誠先輩、もっと盛り上げて言うモンじゃねぇのか、宣伝は。
岳だ。
悪魔召喚術とやらをするために、えっちゃん先輩がチョークで魔法陣を置き、辰吾先輩がその中心の文字の上にロウソクを置いて……と準備をしてる。
俺は椅子に座ってそれを見ながら、英語の教科書をパラパラ……。ぜんっぜん分かんね。最初の方しか習ってねぇし。
あー、いいな、その辺でうろうろしてる奴。A教室の前にも女子一人うろついてる。俺も好きなとこ見学、体験行きてぇよ。吹奏楽の体験楽しそうじゃん。楽器の音聞こえてきた。
さて、と。どこまで出来てんのか、教科書を片づけて床を見てみた。
…………11×11の121マス。『61』のマスのど真ん中にロウソク。えっちゃん先輩は、斜めに並んだまだ空欄のマスをどんどん埋めていく。
魔方陣て、こっちけ?
円に細かい文字がずらーりと並んでたり、複雑な模様が描かれてるんじゃねぇのかよ!?
「驚いてるようだな」
誠先輩、背後に立つな。なんか不気味だ。
「いや、だってコレ……」
「魔方陣だが?」
「や、そうですけど、…………魔法発動しなさそうな魔方陣ですね」
「俺も始めはそう思った」
「はーい、俺は今でも思ってまーす」
辰吾先輩、正直だな。まあ、そらそうだよなぁ。
「えっ!? これ以外の魔方陣ってあるんですか!?」
『えっちゃんせんぱぁーい!』
それ以外知らねぇのかよ!?
つーか、これ以外の魔方陣はオカルト部内で書かれたことねぇのかよ!?
「……あのー」
あれ、コイツ……さっきからずっと教室の外うろついてた奴。
「はーい、おっ! まさか……」
「悪魔召喚術、やってるんですか?」
「キター!」
まさかの一年来た!? 制服ぶかぶかの女子。物好きな奴も居たもんだなー。物好きイコール酔狂……よし、コイツのあだ名は酔狂のスイだ。
「ええ! じきに魔方陣できますから。すぐに始めます。座っててくださいね」
「えと……」
「座っとけよ。遠慮しても損だぜ。ここでは」
椅子引いてやったら、素直に座った。おい、なんで目ぇ合わせねぇんだ。礼くらい言えよ、礼儀だぜー。
「岳、一年生に妙な事を吹き込むな」
「事実を教えてるだけですが?」
一瞬睨まれた気がする。兄ちゃんや姉ちゃんのに比べりゃ全く怖くねぇな。
「あの、もしかして高山岳くん……?」
「あん? そうだけど」
何で知ってるんだー……ってのはあれか、翔が言ってた噂か?
「こういうの、興味あるの?」
「いや。全然ねぇよ。オカルトオタクに連行されて来ただけ」
「人聞きが悪い! オカルト部に連れてきてもらったー、だろ!」
「……よく言えましたね」
マジで。
「んだとぉ?」
「喧嘩をするな」
違うな。辰吾先輩が勝手に突っかかって来ただけだ。
「あの、取り敢えず……、始めますよ」
「ああ。えっちゃん、頼むぞ」
「私ですか!?」
誠先輩が頷いたら、ちょっと困った顔をしてからロウソクの前に立つ、マッチを出して火を点ける。ちょっと待て。
「そのロウソクはどっから?」
「理科室。マッチもそうだ」
理科室にロウソクあんのか!?
「始まるぞ。静かに」
はいはい……分かりました。
「我が名はエナ。齢十四、水ヶ丘中学校三年一組在籍」
……後半必要なのか。
「今日の夕餉はハンバーグの予定。少しばかり焦げるかも」
は?
「昨日の夕餉はミートパイ、味が濃かった。一昨日の夕餉はビーフシチュー。美味しかった」
意味あんのかコレ!? なんで今日と昨日と一昨日の晩飯、感想付きで言わなきゃなんねぇんだよ!?
最後にバッと腕を広げて、
「現れよ!」
無理だろ!
「我が名はニスロク」
えぇえええ。何か出た!?
「枝奈です。ニスロク様」
「この、愚か者ぉおおお!」
「キャッ!」
えっちゃん先輩がぶたれた!?
「もっと健康的な食事をせんか!」
えぇえええ。コイツほんとに悪魔か?
「なんだ、毎日毎日肉ばかり! 魚も食べろ! 味が濃いと言うのもいただけん。副菜は? ん? 副菜は何だ?」
「え、えっと……昨日はキャベツの千切りとレタスのサラダです……」
「ふむ」
「あのー、ちょっと、ニスロクさん? なんでそんな事……」
勇気あるな辰吾先輩。ぎろっと睨むと、ニスロクは怒鳴った。
「我は地獄の料理長だ! 栄養士も兼任」
……………そっすか。
「わぁっ! 私、料理人が夢なんです! 何が得意なんですか!?」
スイー! 戻って来い! そいつ悪魔……っつか、堕天使だったような気が。とにかく人外だぜ!
「禁断の実を使った料理だな」
「わぁ~っ」
スイー! 戻ってぉーい!
「あっ、あっ、ニスロクさんて、やっぱ、戦ったら強いんスか?」
辰吾先輩は何を期待してんだ!?
「あ、いや、その……それはちょっと……あの……」
急に弱気になったな!
「帰る」
「あぁっ! ちょっと、待ってくださ……あぁー」
ドロン。きっと効果音を付けるならこれだな。消えちまった。
スイはスイで膝と手、床に付いてるし……大丈夫かー。




