90 ハリウッドQ
「パステル!? ごめん……気がつかなかった」
男の視線の先にトレードマークのピンクのツインテール……ではなく、ポニーテールの女性が立っていた。
「あはは……お久しぶりー」
「あぁ、お久しぶり。ていうか、髪型変えたんだ」
「うん。Ⅿのコンサート後にポニーテールにしたんだけど、誕生会の時に変えた理由を聞かれるのが嫌だったから、あの時はツインテールにしたんだ。あくまで誕生日の主役は相棒な訳だし」
「気を使わせて悪かったな。似合ってるよ」
「やーめーろーよー。はーずーいー」
パステルは両手で頬を覆って照れていた。
「早速だが、本題に入ろう」
テュルーの言葉に、ゆきひととパステルは会話を止める。
「君達を呼んだのは……ハリウッド映画を撮る為だ!」
「ハリウッド映画!?」
元アイドルユニットの二人は息ピッタリで驚いた。
「で、でも大統領。今は実写映画なんて殆ど撮られないですよね。それに私、演技未経験者です……」
パステルは不安そうに言う。
「君達が演技下手でも問題は無い。レッスンを一週間ほど受けてもらうが……公開は前提としていない。映画を撮ること自体が目的だ」
「撮影しても公開されないんですか……」
大統領と元アイドルの会話中に扉が開く。
ヴィオラが妖艶な雰囲気を携えて入室し、ゆきひとの方を向いた。
「ゆきひとさんは今の映画業界の現状をご存知無いですよね。わたくしの方から説明、及びクイズを出題致します」
「お、お願いします」
「ここ数十年の間、ハリウッド映画はフルCGかアニメーションが殆どで、実写映画は一年の間に数本しか制作されませんでした。何故だかわかりますか?」
「……男優がいないからですかね」
「その通り。簡単でしたわね。一世を風靡するような男優、ハリウッドスターの代役はアンドロイドでは務まらなかったのです」
スターと呼べる男優、男の役者達が演劇業界を去って早五十年。一時期は男優をアンドロイドで代用していたものの業績は振るわず映画ドラマ業界は衰退の一途をたどった。その中で生き残ったのは、フルCG及びアニメーションコンテンツ。音声(男のボイス)は、往年のスターの残したボイスデータをそのまま使うか加工して代用。もしくは女性声優の声を加工して男性声優の代わりにした。声の演技は加工しても違和感が薄く、観客や視聴者に受け入れられたのである。
「アンドロイドはセリフを間違えませんが、演技に感情が宿らない。アンドロイドの演技を見たいと思う人が少なかったのです」
「アンドロイドはコストも嵩むし観客動員も見込めない。男の役者がいなくなった事で、実写映画は衰退していったのだ。……そ・こ・で・だ。私はこれから唯一無二の男優になるであろう「君」と映画を撮りたいと思ったんだ」
「俺が……俳優に?」
ヴィオラとテュルーの説明で一通り納得したゆきひと。
一方、男の元相方パステルは釈然としなかった。ゆきひとは男で「男優」が必要だから呼ばれたのはわかる。しかし女の自分を呼んだ理由がわからなかった。「女優」の代わりはいくらでもいるのだから。
「あの……男優の件はわかりましたが、何で私……呼ばれたんですか?」
「それはヒール……ヴィランを演じたいという、彼女達の一人と君が因縁を持っているからだよ」
「因縁ですか……」
「右のスクリーンを見たまえ」
一同は部屋の側面に設置されている巨大スクリーンの方を向いた。




