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24 モルテリリーの開花

 日の出と共に開花するモルテリリー。

 紫と黒のグラデーションの花びらの中心にある蕾が弾けるように開き、蕾に詰まっていた花粉が一斉に散らばる。

 日の光を受け、花粉はキラキラと黄金に輝く。

 時が止まったかのように皆動かない。


 とても美しく幻想的な光景だった。


「マスクをつけろ!」

「マスクだ!」

「つけていないやつは早くつけろ!」

「早くしろ!」

「早く撒け!時間との勝負だ」


 幻想的な光景を切り裂くような怒号が各方面から飛び交う。

 景色とは裏腹に人々は慌ただしく動き出す。

 エルノーワ領民達は何やら砂の粒より大きい石を急いで撒く。


「手の空いているものは手伝ってくれ!」


 騎士団達もエルノーワ領民達の指示に従い、必死にモルテリリーが生えている一面に撒く。


「こっちに調合薬を頼む。もう根の先が出てきやがる」

「こっちもだ!」

「根の成長が早すぎる!」


 慌しく動く人々の中、門兵の一人が足元がおぼつかないのか虚ろな目をしながら、ゆらりゆらりとこちらへやってくる。一瞬の事だった。剣を抜きエルノーワ領民に切りかかる。咄嗟にローウェンが領民を突き飛ばし地面に転がる。

 服と肉を切り裂く音が聞こえた。ローウェンのシャツが肩から真っ赤に染まりだす。


「やばい!こいつ感染している!」

「誰かそいつを気絶させて縛ってくれ!」

「お前、大丈夫か!」

「早くこっちにヒール草だ!」


 エルノーワ領民達が口々に叫び慌しく動く。ラネックはローウェンの傷を抑え指示を出す。


 モルテリリーの根が門兵目掛けて一斉に動きだし、身体を捉える。ゆっくりと全身に絡みつき根が口の中に入り紫色に発光しだした。


「だめだ、そいつはもうだめだ。養分にされちまった」


 ラネックはローウェンの傷を押さえながら唇をかみしめ話を続ける。


「モルテリリーは開花しちまったら、根を地上に出す。花粉に感染したやつを探して養分にするんだ。口の中に根を入れられたら残念だが、もう助けてやれねぇ」


「だからみんなマスクはきちんとつけて取れないようにしといてくれ」


 領民が今一度騎士団や仲間に忠告する。


「ラネック、ここは任せるぞ。アレクとキース、スペンサー、デニス殿。私達は王宮に行き親花を見つけ次第根絶するぞ。べニック殿はこちらの騎士の統一頼みます。クリスティーヌとマリエルはさっき言った通りだ。任せたぞ」


「わかりましたわ、お父様」


 皆、ガウスの指示に従いそれぞれの役割を全うすべく動き始めた。


 養分にされた門兵は直ぐ様、根を切り落とし特殊な粉と魔法をかけられ直ぐに何処かに運ばれた。


「ラネックさん、()()は撒き終わりましたか?」


「いや、まだ途中だ。急いで撒くからちょっと待ってくれ。おーい!何時ものやつを手分けして急いで撒いてくれ」


 領民達はラネックの言葉を聞くと、走りながら細かい石をまた撒き始めた。

 ローウェンは撒かれた石を触り、何か確認する。


 石を砕いた物と何かの植物の種か?


 ローウェンの様子を見たラネックが傷口を手当てしながら説明する。


「これは魔石を砕いた物とムスビツルの種だ。こうもモルテリリーが広範囲だと中々根絶やしするには難しい。だから撒いてこれ以上増やさないように、根絶やししやすいようにするんだ。ここからはお嬢の出番さ」


「お嬢!できたぞ。いっちょやってくれ」


 急いで巻き終えた領民達がクリスティーヌに報告してくれた。


「ありがとう。では」


 クリスティーヌは掌をモルテリリー全体にかざし、小さな声でブツブツと何か唱えだす。掌を青白い光が包み出す。

 両掌を地面につけ、魔力を地面に送り込むと先程領民や騎士団が撒いてくれた石と種が青白く光りムスビツルから細い芽が何本もでてきた。


 石とムスビツルとクリスティーヌの魔力が合わさり、一面ツルの絨毯のような唐草模様の網が張り巡らされた。


「ふぅ。上出来ですわ」


 額の汗を拭き、マリエルから緑色の液体の入った瓶を貰い一気に飲み干す。

 そうである。以前何度も苦しめられたスペンサー特製元気になるドリンクだ。見た目も味も飲みたくない、だが効能はバッチリなのでクリスティーヌはあれ以来何かある時は愛飲している。


 一連の光景を目の当たりにしたローウェンは驚きを隠せず、口をあんぐりとあける。


「ははは。驚くだろ?お嬢はそこらの貴族令嬢様と全く違うぞ。気さくだし、魔力も強いし、魔獣と魔草相手ならば百人力だぞ。俺らも何度も助けられたからな。お前も子供だから〜って舐めてたクチだろ?」


 ラネックは笑いながらクリスティーヌが普通の令嬢とはどこが違うか、どこが良いのか熱弁をする。


「手当はおわったぞ。あの兵隊には申し訳ない。対応が遅れたせいだ。すまない」


 頭を下げるラネックにローウェンは首を横に振る。


「仕方がない。私達の不甲斐なさだ。これからどうすれば良いのだ?」


 ローウェンがラネックに尋ねると彼はニヤリと口角をあげ、"まぁ見てな"と意味深な言葉を残し他の領民の元へいく。


「第一段階の準備は出来たわよ。あとはお父様達が上手くやってくれるかしら?念の為に皆防御結界を展開する事を忘れないで。騎士団の中で魔力が強い方はいらっしゃいますか?」


 クリスティーヌはローウェンに聞く。


「あ、俺は強い方だ!あと数名強いやつがいるぞ」


「では、あちらの男性とそちらの男性の間に入って下さい。これからは一発勝負になります。ラネックさん達は慣れてますが騎士団の方々は戸惑うかもしれません。何が起きても慌てず目の前にある事に集中して下されば大丈夫です」


 一気に緊張の糸が張り巡らされる。


「ラネックさん、お兄様からの調合薬は何本ありますか?」


「あと5本だな。この花の量だとギリギリ足りるかどうかだな」


「さて。どうしたものでしょうね」


 ラネックとクリスティーヌは今ある最善を考える。ガウスやアレクシス達が自分達を信じて事を起こしてくれるに違いない。それに繋げれるようにしなければならないのだ。


「お嬢。ルネの蜜はどうだ?」


「駄目だわ。キラービーを呼んじゃう」


「キラービーか…ポウマはどうだ?」


「ポウマ……ポウマなら使えるかもしれないわ!ねぇ。誰かポウマはどこかにあるかしら?!」


 クリスティーヌが叫ぶ。


「確か花屋にあったと思います!直ぐに取ってきます!」


 騎士の1人が答え、すぐに街へ走っていった。

 ラネックとクリスティーヌは騎士の背中を見送りポウマを待つのである。


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