14 運命の出会いですよ①
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草木の擦れる音、土を蹴り上げる音が森に響き、クリスティーヌはレオパンサーに跨り全力で森を駆け抜けている。身体は土で汚れ、無数の切り傷と血が滲んでいる。
背後からは牙を剥き出しにした凶暴なフェンリルが猛スピードで追いかけてくるのだ。
クリスティーヌが何故こんな状況になったのか……それは遡ること数時間前の事である。
「お嬢様! 沢山採れましたね! ターナさんも喜ばれますよ! 」
マリエルは、鈴蘭に似た花の部分が光るルース草を採りながら嬉しそうに話かける。
クリスティーヌはすぐそばの岩場に絡みつくように生えているムスビツルを切り落とし、慣れた手つきで輪っか状に巻いていく。
「そうね! この分だと後少しで終わりね! 早く戻って美味しい串肉とスイーツを食べて調合店に行きたいわ! 」
ヨダレをすするクリスティーヌに呆れ、苦笑いをしながらマリエルは黙々と袋にルース草を詰め込む。
クリスティーヌ達が黙々と作業をしていると、葉が擦れる音がし静寂な森がザワザワと騒ぎ出した。大人しいマヌラビットが一斉にこちらに走ってきており、慌ただしく逃げ回っているのだ。
クリスティーヌは森の異変に気付きマリエルをすぐに呼び出した。
「何かおかしいわ。マリエル、いつでも攻撃できる準備をしててちょうだい」
2人は急いで荷物をまとめ草袋を背負い、各々に身体強化の魔法をかけ直し、いつでも攻撃出来るように備えるのである。遠くから木の倒れる音が微かにクリスティーヌの耳に届いたのだ。
「マリエル‼ あちらから何か音がするわ! 」
クリスティーヌは音のする方に向かって走り出す。マリエルもクリスティーヌを追って走り出し、近づくにつれ小さな音が大きな音へと代わり聞こえてくる。
「アレク様! ここは私に任せて、早くお逃げ下さい」
一人の若い男が鋭い剣を持ち、背後に隠したアレクシスという男の子に向かって言い放つ。
「駄目だ! キースを置いて逃げる事なんてできない! 」
アレクシスはめいいっぱい首を横に振る。
2人の目の前には黒く黄色い目をギラつかせ牙を剥き出しにした大きなフェンリルがいた。
フェンリルが鋭い爪でアレクシスに飛び掛ろうとした。すると、どこからともなく赤い玊が数個飛んできた。
「フレイム‼ 」
激しい地響きと友に轟音が鳴り響く。
フェンリルに火の玊が数弾撃ち込まれ、辺りに風と土埃が舞い焦げた臭いが漂った。
「早く! こっちへ! 」
女の子の声がする方へキースとアレクシスは逃げた。
マリエルは彼等を迎えしゃがませると、一時的な結界を張り姿を同化させる魔法を使う。
「ありがとうございます。助かりました。私はキースでそちらはアレク様です」
キースは、クリスティーヌとマリエルに向かって額の汗を拭いながらホッとした表情で礼を言う。
「お礼を言うにはまだ早いわ。マリエルが施してくれた姿隠しは5分程で消えるの。それにここはあのフェンリルの縄張り内なの。これからは私の指示に従ってもらうわ。なぜここに居たのか、無事に帰れたら聞かせてちょうだい」
クリスティーヌは真剣な表情でこの状況をどう打開するか必死に頭で整理し考える。
「君は一体……なんなんだ……? 何故こうも……冷静なんだ? それに何故縄張り内だとわかる? 」
アレクシスは驚いた顔で尋ねる。
同じ歳頃の女の子が冷静に状況を把握し、自分達に指示を出すのだ。質素な服を着てもソレが上等な物だとすぐわかる。見た所どこかの令嬢と侍女だろう。令嬢なのに何故こんな森に?と疑問も湧き出る。
クリスティーヌはアレクシスをチラリと見て、他の2人に向き合い作戦を伝える。
「生きてここを抜けれたら質問に答えるわ。時間がないの。マリエル。リルリル草原へ行けるわね?私が囮になります。彼等を安全な場所まで移動させて頂戴」
「お嬢様! いけません‼ ならば、私が囮になりますのでお嬢様が先にお逃げになって下さいませ‼ 」
必死に止めるマリエルの顔見て、クリスティーヌはいたずらっ子のように笑い、話しを続ける。
「これは今の最善方法よ? この方達は強いかもしれないけれど、私にはまだどこまで強いのかわからないわ。忘れたの? この森は私の庭よ? 私一人であれば必ずフェンリルから逃げれるわ。ふふふ。マリエルには草原についたらアレを準備して待ってて欲しいわ」
アレクシスとキースは2人の会話を聞き、"ここは彼女達に従おう"と無言で頷き合う。
「さぁ。早く終わらせて串肉を食べに行きましょう。私が先に出るから、フェンリルが見えなくなったらすぐにリルリル草原に向かって頂戴。マリエル、任せたわよ」
クリスティーヌが幼いながらも真剣な顔つきに戻り、グレージュの髪をなびかせながら颯爽と結界の外に飛び出していった。
残された3人は、クリスティーヌの指示通りにフェンリルが見えなくなり辺りが静かになると結界を外し、走り出したのだ。
道中、マリエルはキースとアレクシスについて少し気になってた事を聞く。
「失礼を承知でお伺い致します。貴方は第2王子のアレクシス・オルテ・ニズカザン様ではございませんか?お付きの方はキース・ウィステリア様でございますよね? 」
キースはまさかと目を見開き走る足を止め、アレクシスを背後に隠そうとした。
その姿を見てマリエルは顔の前で手を振りながら、慌てて続ける。
「あ、違います! 違います! 私、グラッサ家の娘、マリエルです。兄のオーウェンは王都の騎士団に所属しているのでお目にかかれた事があるのです」
キースは慌てるマリエルの話を聞き納得したように頷いた。
「では、あちらの令嬢は……ふむ。そういうことですか。ならば尚更急がないといけませんね。後々厄介な事になりそうですしね」
3人は同時に頷き、クリスティーヌと落ち合うリルリル草原へと急いで向かうのである。
◇◇◇◇◇
【おまけ】
スペンサー著書 魔獣書ー序ー
(マヌラビット)
マヌマヌの森に生息する。大人しい白いうさぎ。肉質は柔らかい。たまに黒いうさぎもいてるが黒は肉質が硬い。ジャーキーにすると更に美味しくクリスティーヌも好き。
(フェンリル)
狼の魔獣。黒くて爪と牙が鋭く大型のものが多い。皮膚は硬い。縄張り意識が強く縄張りを荒らされたと捉えれば攻撃をしてくる。希少種は肉球がハートマーク、尻尾の先が白色をしている。クリスティーヌがダニエルを食べさそうと考えてる魔獣。
アレクシス王子登場です。




