114 クリスティーヌ流時短
順調に攻撃を始め、四方から湧き出たキメラを倒して行くかと思ったデニス達の部隊は、違和感に気付き始める。
「デニス団長。このキメラ達、再生していますわ」
クリスティーヌが驚く事を言い出したのだ。
先程から、手応えのある攻撃を何度も何度もしているのに、暫くすると元に戻っているのだ。
「このキメラは、再生するぞ‼ 内面からの攻撃をしないとこちら側の攻撃は全て無になってしまう‼ 」
アレクシスはデニスに叫ぶと、自身はキメラの足元に魔法陣を展開させ、魔法陣を発動させ、内部から爆発を行う。
だが、再び元に戻りアレクシスの攻撃は無になってしまったのだ。
「ルギ! 尻尾の付け根に光る物があった‼ そこを上手く切り離してみてくれ! 俺が援護する」
「承知致しました‼ 」
アレクシスは素早い戦闘技術を持つルギに指示をし、ルギが尻尾を切り離しやすいようにとキメラに麻痺魔法をかける。
ルギは風を切るように走る。キメラの尻尾の付け根まで瞬時に辿り着き、尻尾の付け根から剣を振りかざす。
切り落とした尻尾の付け根には、黒い魔石が埋め込められていた。
ルギが剣先に、魔力を込め、浄化魔法と共に黒い魔石へと突き刺し粉々に砕いたのだ。
「ルギ‼ 浄化魔法が使えるのか?! 」
「はい。ジラン司教の事件以来、クリス嬢に教えて頂きました。この話はまたあとで致します。先にこのキメラ討伐を」
アレクシスは剣に炎を纏わせ、そのままキメラへと斬りつけていく。
魔法剣は火力を損なわず、キメラの脚を切り落とす。切り口は燃え、再生はせず切り落とされた脚は腐敗し、異臭を放つ物体へと変化したのだ。
「よし! 行けるぞ! 」
アレクシスの言葉に、ルギも剣に魔法をかけ炎を纏わせキメラへと斬りつける。
クリスティーヌ達は、変わらず魔法陣を展開させキメラの自由を奪う事に徹していたのだ。
「キメラは全て焼き払え‼ 」
デニスは叫び、己も炎を纏った剣でキメラを切り裂く。
"デニス団長、魔法使えるようになったのね"
"元々簡単な物は使えたみたいだぞ? ただルギさんみたいに魔力が強い訳じゃないから余り使わなかったらしい"
"こら! 余所見していないで後方が苦戦しているから、援護‼ "
ジュイナに言われ、エスイアは魔法陣を展開させキメラに麻痺をかける。
他の騎士団員がキメラを切り落とす。
魔法師達は直ぐに火炎魔法で燃やし灰にしていく。
何度か繰り返し、キメラを全て討伐し、塔になってしまったメンドラ王国の宮殿の入り口へとやってきた。
「この増えた階層は間違いなく何かがいるな」
「ここは一階から最上階まで打破するのが無難でしょう」
「それ迄何も起きなければ良いが……」
アレクシスはサドス王が何か企んでいるとしか思えなかったのだ。
勿論、デニスも懸念はしているがまずはサドス王を倒さなければならないと考えている。
先ずは一階から最上階へ一つ一つ打破していく作戦へと決まった。
そこへクリスティーヌが言い放つ。
「こんな事してたら、ニズカザン帝国に奇襲をかけられたら意味ないですわよね? 」
「おい。クリスティーヌ。静かにしろ」
エスイアとジュイナが慌てて、クリスティーヌの発言を辞めさせようとする。
「この最上階のサドス王を引き擦り出せば宜しいのですよね? 」
にやりと口角を上げ、不敵な笑みを浮かべたクリスティーヌに、エスイアとジュイナは危険を察知する。
「絶対だめだ‼ 」
「クリスさん、落ち着いて‼ 」
「そうだ。ジュイナも俺も同じ意見だ」
「先ずは周りに合わせましょう」
「手っ取り早い方法で行きましょう」
クリスティーヌは手に魔力を込め、塔に巨大な魔法陣を展開させる。
エスイアとジュイナの説得も虚しく、強行突破に走るクリスティーヌを止められる者はもう居ない。
自分達にできる事は、味方の避難‼ 、とばかりに二人は大声で叫ぶ。
「離れろ‼ 」
「防御結界できる方は味方に防御結界を‼ 」
「早く‼ 」
デニスとアレクシスは何が起きたか分からないが、エスイアとジュイナが叫んでいる姿を見て顔面蒼白になったのだ。
エスイアとジュイナがこちらへ叫びながら走る後ろでは、クリスティーヌが全身から魔力を込めている姿がある。
「皆‼ 一度撤退‼ 」
「早くしろ‼ 」
ニズカザン帝国軍の全てができるだけ塔から離れた場所へと走り出した。
その様子を見ていたサドス王は高らかに笑う。
「軍事帝国と言われた者が尻尾を巻いて逃げて行くぞ‼ ハッハッハッ‼ 」
クリスティーヌは、サドス王の言葉など耳に入らず、ブツブツと詠唱を行い、空中に紋様を描く。
塔に浮かんだ魔法陣が赤く光り、炎と雷を纏い出した。
「さぁ、これからが始まりですわ」
クリスティーヌは、手に力を込め魔法陣に向け魔力を解き放ち、塔の中央部分へと攻撃を開始する。
無数の炎と雷が塔に当たり、爆音と熱風が吹き荒れ、建物の石が周囲へと飛び散る。
塔の中央部分に巨大な穴が開き、塔が傾き始めたのだ。
「少し威力が足りませんでしたわね。もう少しやりましょうか」
クリスティーヌは容赦なく魔力を込め、また塔に炎と雷の攻撃をする。周辺は爆風と炎が燃え盛っている。
すると轟音が響き、塔が半分に折れ地面へと落下し始めたのだ。
「な、何が起きている?! 」
サドス王は自身の視界がゆっくり傾き始めたと思ったら、身体が宙に浮き、逆さまになっている。
直ぐに轟音が響き、土埃が舞い散った。
塔が地面へと叩きつけられたのだ。
「まぁ。こんなものでしょう」
クリスティーヌは後ろを振り返り、味方軍がいるであろう場所に向かい、仁王立ちでVサインを送ったのである。