第13節
陽太は空乃を好きといいながら、自分が傷つかないような行動ばかりをとっていた。
だが、掃除のとき、空乃を連れ出したのは彼なりの愛情の示し方だったのだろう。
初めて周りの目を気にせずに、自分の意志に従ったのだ。
だが、私は自分を愛することも大事だと思う。
自分を愛せない人間は、誰かを愛することもできないのだから。
何はともあれ、あの陽太が少しだけ成長した。
それは今までの彼がしてきた愚行を水に流してやろうと私に思わせるには十分だった。
そしてそのまま時間が立ち、ふとした瞬間には教室中が儀式のように読書に耽りはじめた。
私はアマリリスに降ろしてくれと頼んだ。
だんだん下降して見えなくなる陽太と空乃の後ろ姿はとても小さかったけれども、不思議とクラスの誰よりも大人びて見えた。
帰る間中、興奮してしゃべりまくっていたアマリリスから解放された私は、結城の家に入ると彼はパソコンに向かって仕事をしているところだった。
私はまたニュートンを開き、プラズマの特集を読み始める。
やっといつもの日常がやってきた。
すると、焦ったように結城がいった。
「あの短編、陽太のヤツ親に見せてないだろうな。もし俺の母さんのところに話がいったら……」
陽太の母親と結城の母親は姉妹でとても仲が良い。
亡くなった祖父の家を借りて一人暮らしをしている結城の家から近いこともあり、時たま陽太の母親が、料理の余り物を持ってきてくれるのだ。
そのとき彼の生活を探って、姉である結城の母に報告し、すぐに電話がかかってきて心配されるといったサイクルが繰り返されている。
とたんに青ざめた顔になって、頭をかかえた。
「くそ。もしものために精神を安定させるしか……」
結城は哲学書をめくりはじめた。
参考になるのか疑問だったが、自分を成長させるには本を読むことが一番であるのは確かだ。
本は著者が苦労して身に着けたことを、たやすく手にいれさせてくれるのだから。
近いうち、私に対する陽太の悪戯も復活するだろう。
空乃が一緒にいるのならば、大目に見てやらないこともない。
私は悶々とする結城の横で呑気にあくびをすると、玄関が勢いよく開かれる音がした。
気が付けば時刻は5時。
小学校には長居してしまった。
私は近づいてくる足音から逃げるように、炬燵の中に潜り込んだ。
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