第9節
それは自分が相手を愛していると思い込んでいるだけで、実は自分自身だけしか愛していないということだった。
主人公は香澄を好きだと思っているが、実際は自分が傷つくのを恐れている。
自分の精神が危険な目にあわないようにしているだけだったのではないか。
これは付き合っている者同士でもいえることだ。
私はふと、陽太の机の上に結城が渡した本である穴があったので、こっそりと鞄の中に入れておいてやった。
すると陽太が思案顔で戻ってきた。
いくらか私に文句をいったあと窓を開け、私は追い出されてしまった。
翌日、私は再び学校に行ってみた。
空乃を見つけた。
陽太はちらちらと彼女を見やるだけで、ただ自分の席に座っているだけだった。
私がしばらく見ていると、どうやら陽太が空乃を好きだということが広まっていることがわかった。
空乃が授業で当てられると、陽太の周囲の生徒が陽太をえんぴつでつつく。
はたまた昼休みになれば、陽太を押して空乃に衝突させるなどの行為が行われていた。
あの海次という悪ガキの仕業だと安易に予想ができた。
陽太は六年生で、教室は三階に設けられている。
だから掃除の時間のとき、私は今まで通り廊下にいるわけにもいかず、一旦に外に出ると、ちょうど良いタイミングで見かけたアマリリスに信号を送り、三階の窓まで掴んで持ち上げてもらった。
「高いところはダメじゃなかったのか」
「ただ嫌なだけさ。少しの我慢ならできる」
陽太は空乃と同じ班のようで、教室の床を掃いていた。
そのときも周囲のからかいは止まらなかった。
そして一人の男子が先生が来るのを見つけて真面目に取り掛かる。
男子が机をつろうと持ち上げる際、無駄に力が入って、引き出しの中の一部が床に落ちた。
「あっ」
陽太は声をあげた。
その机が陽太のものだったからだ。