第1節
「そんなの眺めて楽しいか?」
友人が私にいった。
私は一つニャーといって返事をした。
彼は結城という。
私が居候している家の主だ。
私の視線の先にはニュートンが開かれ、彼はただ、私がアマゾン川の写真を傍観しているだけだと思っているようだった。
私はその写真の横や下にまで敷き詰められている文字を読んでいた。
これがいつもの光景だった。
だが今日は少し違っていた。
「わっ! やっぱ耳のデカさがちげぇ!」
耳障りな声を発した子どもが私を興味深そうに覗き込んでいた。
私はそっぽを向いたまま、結城が両足を潜らせている炬燵の隙間に入り込んだ。
「暗くならないうちに帰れよ」
「わかってるって」
結城が呟くと、奴は適当に頷いた。
奴は友人の従妹の小学生だった。
遊び盛りの男子であり、私は幾度もしっぽを引っ張られたり、耳のことをからかわれたりと、あまりいい印象を抱いていない。
私は、鬱陶しい好奇心を携える奴の対処に今日も明け暮れなくてはならないのだと辟易していたが、しかし奴は、途端に憂鬱そうな雰囲気を纏って、結城の隣に座った。
どういう風の吹き回しか、私に対してちょっかいをかけるつもりはもうないらしい。
「それで何なんだ陽太。話って」
「うん。まぁ」
陽太は結城のことを実の兄のように慕っている。
私はひょっこり炬燵から顔を出して、ひそかに陽太の声を聞いていた。
どうやら陽太には好きな子がいるらしい。
名前はかすみあきの。
「うん、それで空乃ちゃんになんて言われたの」
結城が訊いた。