第9節
彼女には悪いが、私も子犬の彼の勇気にそって戦おうと倉庫に戻った。
子犬の彼が青年の手に噛みついた。
「クソッ!」
拍子にハサミが落ちた。
私はそこへ追撃を放とうとする。
だが、青年は真後ろにあった裁ちバサミを掴んだ。
そのことに気付いたときには、その裁ちバサミの切っ先が私に振り下ろされるところだった。
次第に鋭利な先端が近づき、私の頭部へ突き刺さろうとしたときだった。
青年に犬の彼女が体当たりをした。
ハサミの軌道がずれる。
そして彼女がそれと同時に私を倉庫の外へ吹っ飛ばした。
続いて子犬の彼にも同じことをした。
私の隣に転がる彼はすぐに起き上がって、倉庫に戻ろうとした。
私は彼の尻尾をくわえて制止させた。
「もうこれ以上は……彼女のためにも外へ出るんだ。責めるなら私を責めてくれ」
すると、立ち上がった青年が倉庫の扉を閉めようとしていた。
子犬の彼の力が増す。
私は必死で食い止める。
僅かな隙間を残して、扉がしまりかけたそのとき、子犬の彼が振り返った。
閉じられた目で私を捉え、小さな声を絞り出した。
「ぼくは、おかあさんを愛してるんだ。ぼくが守るんだ」
彼はいつのまにか私からすり抜け、駆けだしていた。
そしてその小さな後ろ姿は扉が閉まると同時に奥に渦巻く闇の中に消えていった。
それから何日経ったのかはわからない。
冷たい風は気にならなかった。
空腹も感じなかった。




