第8節
「わたしは闘います」
そして走り出した。
子犬の彼を口でくわえ、庭の奥へ駆けだした。
子犬をとられた青年は拳を握りしめると、彼女が走り去った方向を睨んだ。
すぐに走り出す。
私もあとを追った。
彼女は倉庫の中に逃げ込んでいた。
庭を手入れするためのあらゆる道具が収められた場所に、彼女は身を潜めた。
「どこにいった」
青年が倉庫の中を歩み始めたときだった。
壁に立てかけられていた脚立が落ちてきた。
青年の腕に直撃する。
だが彼は怯みきらない。
次々に道具を落下させたりする彼女に、私も協力しようとすると、青年が急にターゲットを私に変えてきた。
再び私は捕まってしまった。
ハサミを向けられたが、母親の彼女が青年の腕にかみついた。
ふいの出来事に青年は私を離した。
「逃げてください! その子と一緒に柵の外へ! わたしが食い止めます!」
彼女は叫んだ。
私は逡巡したが頷いた。
子犬の彼がよろめきながら立ち上がったところ、私は彼を支えながら倉庫の外に出た。
彼女は最後の力を振り絞って青年と格闘していた。
私が急ごうとしたとき、子犬の彼は立ち止まった。
「早くしないと奴が追ってくる。お母さんは大丈夫だ。あとから来る」
だが彼は首を横に振った。
彼女が柵を通れないこと、あの青年には敵わないことをわかっているのだ。
私は母親のところへ駆け戻る彼を押さえとどめることができなかった。