第5節
結局そのあと、私も手伝ってどんぐりを探したがせいぜい一つか二つの収穫に終わった。
彼は木に戻って、穴にどんぐりをつめ終わると、木の幹をサンドバックに見立てたのか、くちばしで幾度もつつき始めた。
「早く見つけないといけないのに!」
疲れたようで彼は動作を止めた。
「また探しにいくよ」
鬱憤がたまって以前のような元気はなかったが、前向きな思考は健在だった。
「いつまで続けるんだい。彼女は帰ってこないかもしれないんだよ」
私はいった。
「いいや、帰ってくるさ。この穴をどんぐりで埋めればね。あなたのいうことなんて聞かないぞ」
「君はそれが幸せなのかい? 彼女のために自分が傷つくことが。それがいったい何になろうか」
「黙っててくれ! 僕を助けてくれたのは感謝しているけれど……でも、彼女が、喜ぶから。好きなんだよ、玉を転がすあの声含めて何もかも」
まったく彼は変わらない。
「食べ物は大切だよ。私たちは生きるために食べるんだ。君も冬を過ごす自分たちのために、どんぐりを探していた。でも、あれだけでも十分だった。君の苦労を知ろうともしない彼女のことは忘れるべきなんだよ。怪我までして彼女のご機嫌に振り回されながら冬を過ごす為に、どんぐりを集めているわけじゃないだろう」
「……でも」
私はしばらくの間、彼が飛び立つのを待っていた。
だが、彼は再び木の幹にくちばしを叩きつけた。
それから彼女が飛び出していった方角を見据えると、私の傍へ降りたった。
私は彼の背中を軽く叩いた。