02:変わった花嫁候補
だから反対だったのだ。
最後の花嫁候補を異世界から召喚するなど。それが、召喚長に泣き付かれて、仕方なしにやってみたらこれだ。
召喚された女は、きょとんとした顔でこちらを見ている。
おや、眼の色が両方とも違うではないか。右は茶色で左は碧か…。
左右の眼の色が違うのは、こちらの世界では酷く珍しく、大概その持ち主は全ての能力が高いとされている。事実、この国を創った初代王は左右の眼の色が違ったらしい。
眼を見て浮き足立ったのは、召喚長だ。どや顔をして余を見ている。
鬱陶し…いや、よくやってくれた。
女の髪は茶色。スラリとした長身の背中の中頃にかかるほどの髪は真っ直ぐで、少し濡れているのか、多少水滴が垂れている。
こちらを黙って見ている女の顔は、間違いなく美人だ。
ほぅ、これはこれは。大陸一の美女と言っても過言ではないな。他の候補より一歩も二歩も優れている容姿は、異世界から来たと言っても国民は諸手を上げて祝福するかもしれない。
だが、そんな前向きな事は女が口を開いた瞬間、脆くも崩れ落ちた。
一体何だ、この女!
「変な服」
第一声がこれだぞ!?
普通だったら、「ここどこ?」とか聞くだろう!しかも、第一級礼装をしている召喚長の服装を貶したばかりか、「体毛の濃い人、寄らないで。キモイから」だと!?
一体お前は何様なんだ!!
余も気になっていたが、流石に個人の身体的特徴に嫌悪を表すのは、王として…と言うか、人として間違っているだろう。
それなのに、それなのにだ!!お前は綺麗に跡形もなく召喚長の濃すぎる体毛問題を口にしたな!?
見ろ!繋がっている眉毛が見事な成層火山型を作ったではないか!
「この世界って魔法使えないの?召喚まで出来るんだから、魔法使えないなんてアホなこと言わないわよね?」
ひくっと宰相の口元が歪んだ。
そう、この世界は召喚は出来るのだが、肝心の魔法は存在しない。そこには些か自分も疑問を感じてはいるが、まぁ世の成り立ちだと思って深く考えたりはしなかった。
なのにだ!!あの女ときたら、不平不満を並べ立てた。仕方ないだろう!ないものはないのだから!!
魔獣は存在すると教えてやったら、わかりやすく機嫌が直った。なんとも現金な…。しかし、魔獣は決して人間と交わらない。孤高の生き物なのだ。なんだと!?乗ってみたいだと!?お前なんかが乗る前に食われて終わりだぞ!!王である余ですら、内心ヒヤヒヤしながら乗っているのに!
おい、宰相、お前今面倒くさいから丸投げにしたな?「乗れるなら乗って下さい」なんてどっちにも取れる言葉選びをするなよ。
「で?花嫁候補って何なのよ。まさかあたしが花嫁候補なわけじゃないわよね?あたしムーリ!こんな趣味悪い男の嫁なんて絶対無理!」
こっちのセリフだっ!
誰がお前なんかを王妃に選ぶか!!貴様なんぞ選んだ日には、歴代の王から草場の影で総ツッコミが来るに決まってる。
大体、お前の方が趣味悪いではないか!
何だ、その服装!ほとんど裸ではないかっ!お風呂入った後だったんだからしょうがないじゃないと言われればそれまでだが、脚はほとんど丸見え、上半身も薄い布切れで申し訳程度に覆われているだけだ。『しょーぱん』に『きゃみ』って言われても、 余には夜着よりも布が少なく見えるが?
見ろ、初な奴らは真っ赤で俯いているではないか。
「まさかあんた童貞なわけじゃないわよね?なわけないかぁー。そんな顔でハジメテなわけないわよね」
…絶対こいつは選ばない…。
早々に候補から外しても問題はないだろう。
だが、異世界から召喚した女だ。ぎゃーぎゃー騒いでるのもあるし、手厚く保護してやるか。
余から遠く離れた所で。
「じゃあ、あたしを激戦地に行かせて下さい!」
可哀想に…。
頭がおかしいらしい。




