Prologue:鋼鉄の姫
その女は"鋼鉄の姫"と呼ばれ、"島"中から恐れられていた。
ある時は居住区のマンションの外壁を素手で登り。
ある時は街に蔓延るチンピラ達をたった一人で一掃し。
またある時は『島』を囲う巨大な鉄壁に大穴を開けた。
それらの逸話と彼女の"能力"が合わさった結果、誰が呼んだか名付けられたのは"鋼鉄の姫"。
性格も姫というには程遠く好戦的。
売られた喧嘩は必ず買い、売った喧嘩には必ず勝つ。
噂によれば、彼女の通った道のガードレールは必ずひしゃげ、逆鱗に触れた彼女を見た者は肩を撃ち抜かれるという。
ただ、謎もいくつか残されている。
これだけの身体能力を持ちながら眼鏡を常用しており、しかも左目は医療用眼帯に覆われている。
これも噂だが、その眼帯の下には"能力"を制限するための"リミッター"が埋め込まれていて、それを隠す為に眼帯をしているとのこと。
だとすれば、彼女の"能力"レベルは8、または9。
レベル8以上の能力者の体には原則として"リミッター"を埋め込むことになっているため、そう考えれば彼女の途方もない怪力にも納得がいく。
さらに、彼女の"島"内の警戒ランクは最高のS。
誰もが恐れる危険人物と言われても差し支えないだろう。
そしてこの日。
"島"内に植えられた桜が満開を迎える季節。花と鉄と血と土の匂いが舞う地を駆け抜けた先で、僕、長谷川夏生は彼女──桐原千紗姫と出会った。
大人とは到底言えない、青い若人達の戦いが、始まろうとしていた。




