拠点拡張とコンビニへの道
第9話です。よろしくお願いします。
それから数日が経った。
世界が終わったことに変わりはない。
外を見れば、相変わらず異形のモンスターが徘徊しているし、夜になれば住宅街は死んだように静まり返る。
遠くで何かが壊れる音や、聞こえた気がするだけの悲鳴に、もう驚くことも少なくなった。
——慣れたわけじゃない。
ただ、いちいち心を揺らしていたら、今の世界じゃ生きていけないだけだ。
でも。
この家の中だけは、少しずつ“生活”の形を取り戻し始めていた。
「右、電柱の陰。少し離れてもう一体」
窓際で双眼鏡を覗きながら、俺は短く言う。
「見えました」
陸斗がすぐに返す。
最初に会った時みたいな震えた声じゃない。
まだ子供っぽさは残っているが、もう“ただ守られるだけの側”ではなかった。
「一体に集中でいけるか?」
「はい。いけます」
「なら任せる」
俺がそう言うと、陸斗は小さく息を吸い込んで、窓際の少し後ろに立った。
両手を胸の前に寄せる。
準備スキル。
淡い光が、その手の間に集まり始める。
最初に見た時より、明らかに速い。
数日前までは、溜めること自体に精一杯だった。
今は違う。
どれくらいでどれだけ威力が乗るのか、本人なりに感覚を掴み始めている。
「……まだいけるか?」
「はい、もう少し……!」
額に汗を浮かべながらも、陸斗は集中を切らさない。
その様子を見て、美咲が少し離れた位置から不安そうに、でも誇らしそうに見守っていた。
「お兄ちゃん、がんばって……」
小さな声。
それを聞いて、陸斗の肩に入った力がわずかに強くなる。
「——今です!」
「撃て」
次の瞬間、二本の光線が窓の外へと走った。
ドンッ、と低い衝撃音。
一本目が先頭の犬型異形の胴体を貫き、二本目がその奥にいた個体の頭部を吹き飛ばす。
少し遅れて、二体がほぼ同時に崩れ落ちた。
「……ナイス」
「はぁ……っ、ありがとうございます……」
陸斗が呼吸を整えながら言う。
以前なら、一本を撃つだけでも精一杯だった。
今は、二本の光線を分けて別々の対象へ当てられる。
精度も威力も、確実に上がっていた。
視界の端に表示が浮かぶ。
【モンスターを討伐しました】
スキルポイントを獲得しました
+2
「また入ったな」
「はい」
陸斗がうなずく。
この数日で、俺たちは何度も似たような流れを繰り返していた。
双眼鏡や監視システムで周囲の様子を確認する。
危険が少なく、狙いやすい個体を見つけたら、家の中から攻撃する。
必要なら警備も使う。
無理はしない。
深追いはしない。
それを何度か積み重ねるうちに、ポイントは少しずつ溜まり、そのたびに俺たちはスキルへ振り分けてきた。
つまり——
今の俺たちは、最初に出会った頃とはもう少しだけ違う。
「ちょうどいいな」
俺は双眼鏡を置いて、陸斗の方を見る。
「……何がですか?」
「今の状態、ちゃんと確認しとく」
数日でどれだけ変わったか。
それを、俺たち自身が把握しておく必要がある。
「ステータス、開けるか?」
「はい」
陸斗が意識を集中させる。
次の瞬間、視界に半透明の画面が浮かび上がった。
【ステータス】
名前:瀬川陸斗
年齢:14
種族:超人族
Lv:1
スキルポイント:0
【メインスキル】
《手遊び Lv4》
【サブスキル】
なし
「……Lv4まで来たか」
陸斗も画面を見ながら、小さく息を呑む。
《手遊び》の項目が展開される。
《手遊び Lv4》
・準備 Lv4
・バリア Lv4
・光線 Lv4
さらに詳細。
【準備 Lv4】
・攻撃の溜めを行う
・溜め効率上昇
・1秒ごとの威力倍率:1.5倍 → 2.5倍
・最大蓄積:100秒相当
・最大到達時間:約40秒
・発動中は無防備
・発動中はバリア、光線を使用不可
【バリア Lv4】
・自分または対象を物理攻撃から完全防御
・持続時間:40秒 → 70秒
・クールタイム:20秒 → 10秒
・発動中は準備、光線を使用不可
【光線 Lv4】
・対象へ強力な光線を放つ
・威力、持続時間は準備量に依存
・光線数:2本 → 4本
・分散、集中が可能
・発動中はバリア、準備を使用不可
「……すご」
美咲が素直に声を漏らす。
陸斗本人も、少し呆然としていた。
「……こんなに、変わってたんですね」
「変わってる」
俺も率直に答える。
準備はもう“溜めに時間がかかるスキル”ではなくなり始めていた。
40秒で最大火力相当まで届くなら、実戦でもかなり扱いやすい。
バリアも70秒持ってクールタイム10秒なら、防御としてかなり安定する。
光線に至っては四本。
集中させれば高火力、散らせば制圧にも使える。
「今なら、あの時みたいに最後の一体相手に苦戦することも減るかもな」
俺がそう言うと、陸斗は少しだけ苦笑した。
「……でも、まだ怖いです」
「それでいい」
俺は即答した。
「怖いって思えなくなった時の方が危ない」
「……はい」
真面目にうなずく。
やっぱりこいつは扱いやすいな、と思った。
言葉をちゃんと受け止めるし、変に調子に乗らない。
「じゃあ次は俺だ」
自分のステータスを開く。
【ステータス】
名前:黒瀬悠真
年齢:22
種族:超人族
Lv:1
スキルポイント:0
【メインスキル】
《日常生活 Lv4》
【サブスキル】
《警備 Lv3》
そこから内訳を開く。
《テリトリー修復 Lv4》
・登録されたテリトリーを自動修復する
・同時登録数:1
・修復時間:約45秒 → 15秒
・内装変更:完全解放
・外装変更:拡張
・材質変更:一部解放
《環境維持 Lv4》
・温度調整
・有害物質の遮断
・インフラ維持
・生活者補正:解放
詳細項目
・室温最適化 Lv4
・菌・ウイルス遮断 Lv4
・電気維持 Lv4
・水道維持 Lv4
・ガス維持 Lv4
《商品生成 Lv4》
・テリトリー内の物品を複製可能
・生成速度:高速
▼ネットショッピング Lv2
・1日使用回数:2回
・取得した商品は以降《商品生成》で複製可能
《警備 Lv3》
・警備隊召喚人数:4人
・活動時間:3分
・発動条件:侵入危険度 小
・監視システム:解放
そして、その下に新しく増えている項目。
《日常生活 Lv4》
※解放条件
・テリトリー修復 Lv4
・環境維持 Lv4
・商品生成 Lv4
▼追加効果
・登録可能テリトリー:1 → 2
▼新機能
《テリトリー置換》
・登録したテリトリーを隣接配置できる
・建物が存在しない場合は土地を生成する
「……やっぱり条件付きだったか」
小さく呟く。
「日常生活って、勝手に上がったわけじゃないんですね」
陸斗が言う。
「ああ。修復、環境維持、商品生成。この三つの最低レベルが揃わないと上がらないらしい」
そういう意味では、かなり理にかなっている。
どれか一つだけ強くしても、“日常生活”としては不完全だということなんだろう。
「……でも、そのおかげで」
陸斗が画面を見ながら言う。
「テリトリー、二つ持てるんですね」
「そういうことだ」
そこが今日の本題だった。
俺は双眼鏡を取り、窓際へ移動する。
数日前から何度も見て、距離も位置も確認済みの建物がある。
「……あそこだな」
約一キロ先。
幹線道路沿いの、小さなコンビニ。
駐車場は荒れているが、建物自体はまだ残っている。
「コンビニ……」
陸斗が呟く。
「そうだ。あそこをテリトリー化する」
陸斗も、美咲も、意味を理解した瞬間に表情が変わった。
「それって……」
「あそこにある物が、こっちでも出せるようになる」
今、俺の家で生成できるのは、この家に元々あったものか、ネットショッピングで取り寄せたものだけだ。
カップ麺、飲み物、簡単な日用品、武器になりそうな物、医療キット、車、サバイバルナイフ。
かなり助かってはいる。
でも限界もある。
まともな弁当もない。
冷蔵食品もない。
調味料も少ない。
日用品の幅にも限界がある。
だがコンビニには、それがある。
「……でも」
美咲が小さく言った。
「それ、取ってきていいの……?」
「……」
その一言に、俺は少し黙った。
子供でも分かるんだよな、そういうのは。
本来、店の商品は誰かのものだ。
勝手に持っていいわけじゃない。
世界が崩壊したからって、その感覚まで全部吹き飛ぶわけじゃない。
「……分かってる」
俺は静かに言った。
「本当なら、やっちゃ駄目なことだ」
でも、と続ける。
「今は、生きる方が先だ」
電気も人も物流も死んでいる今、あのコンビニを“店”として扱う奴はもういないかもしれない。
だからいい、とは言わない。
でも、躊躇って餓える方が馬鹿らしいのも事実だった。
「俺一人なら、まだ我慢できたかもしれない」
そう言ってから、自分で少しだけ苦笑した。
「でも三人だ。食える物の幅は増やしたい」
陸斗が真剣な顔でうなずく。
「……僕も、そう思います」
美咲はまだ少し不安そうだったが、兄の方を見てから小さく頷いた。
よし、と心の中で決める。
「行く」
俺は立ち上がる。
「車使うぞ」
「え、車……?」
「ネットショッピングで取った」
「……そんなのまで……」
陸斗が呆然とする。
そりゃそうだろう。俺も最初に取った時はちょっと引いた。
だが使えるものは使う。
ガソリンも確保済みだ。
医療キットも積んである。
サバイバルナイフもある。
外に出る準備としては、数日前よりだいぶマシになっていた。
「美咲はここに残る」
「えっ」
美咲が不安そうな顔になる。
「コンビニ登録したら、家をあっちの隣に持ってくる」
「……おうちを?」
「そうだ。そしたらすぐ合流できる」
《テリトリー置換》。
まだ試してない機能だが、うまくいけば家そのものを新拠点の隣に置ける。
つまり、移動の危険を一気に減らせる。
「監視システムもある。家の中にいる限り、前より安全だ」
「……うん」
美咲は少し迷ってから頷いた。
不安なのは当然だ。
でも、連れていくよりは絶対にこっちの方が安全だ。
俺は車のキーを取り、玄関へ向かう。
陸斗もすぐ後ろにつく。
扉の前で、一度振り返る。
「すぐ戻る」
「……気をつけてね」
美咲が小さく言った。
「ああ」
短く返して、俺は玄関を開ける。
外の空気が流れ込む。
やっぱり重い。
家の中とは全然違う。
でも、前みたいにただ怖いだけじゃない。
やることが決まってる時の方が、人はまだ動けるらしい。
外には、ネットショッピングで手に入れた軽自動車が停めてある。
綺麗すぎる車体が、逆にこの終わった世界では浮いて見えた。
「行くぞ」
「はい」
俺たちは車に乗り込む。
エンジンをかける。
低い振動が座席越しに伝わってきた。
ハンドルを握り、前を見る。
一キロ先のコンビニ。
そこが、次の拠点になる。
アクセルを踏む。
車はゆっくりと動き出した。
家を離れ、コンビニへ向かって。
新しい生活圏を、手に入れるために。
今更ですが、登場人物の読み方載せておきます。
黒瀬悠真
瀬川陸斗
瀬川美咲




