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世界崩壊後、日常生活スキルで俺が最強拠点を作ってしまった件  作者: ナマケモノ


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33/167

裁きの口

第33話です。宜しくお願いいたします。


「……俺をあの時に刺した、亮太だな」

 ルドルフのその一言で、場の空気が一気に凍りついた。

 さっきまで“助かった”“住めるかもしれない”って空気だった避難民たちも、何が起こったのか理解できずに固まっている。

 俺も、思わず息を止めた。

 帽子が落ちて露わになった男の顔は、確かに他の避難民たちとは違う意味で血の気が引いていた。

 逃げ場を失った顔。

 誤魔化しきれないと悟った顔。

(……最悪だな)

 助ける側として来たはずなのに、ここでルドルフの過去そのものをぶつけられるとは思わなかった。

 亮太と呼ばれた男は、口を半開きにしたままルドルフを見ていた。

「な……」

 声にならない声が漏れる。

 だが、ルドルフの目は笑っていなかった。

 さっきまで住民たちを見ていた時の理性的な目じゃない。

 もっと冷たくて、もっと深い場所から怒りが滲んでいる目だ。

 俺は横目で未来と陸斗を見る。

 二人とも、状況を飲み込んだらしく表情が硬い。

 浮田も口を挟まず、ただじっとルドルフを見ていた。

 避難民たちの間でざわめきが広がる。

「え……?」

「知り合い……?」

「刺したって……何の話だ……?」

 誰も事情が分からない。

 けど、それでいい。

 今は下手に余計な言葉を足すべきじゃない。


 ◇


 ルドルフが一歩前に出る。


 亮太が一歩下がろうとした、その瞬間――


「……そのまま動くな」

 低く、押し殺した声だった。

 そして。


「――真実の口」


 もがいても無駄だ。

 逃げられない。

 昨日、俺も体験したから分かる。

 あの場に立った時点で、もう相手の土俵なんだ。

 亮太の手が、真実の口の中へと無理やり押し込まれる。

 亮太の顔がみるみる青ざめていく。

 ルドルフはしばらく何も言わなかった。

 ただ、亮太を見下ろしている。

 その沈黙が、余計に怖い。

 周りの避難民たちも完全に黙り込んでいた。

 俺も何も言わない。

 今は、下手に止めるべきじゃない。

 ……少なくとも、ルドルフの中でまだ整理がついていないのは明らかだった。

 ようやくルドルフが口を開く。

「……他のやつらはどうしたんだ」

 声は静かだった。

 怒鳴っているわけでもない。

 なのに、妙に重い。

 亮太は喉を鳴らしながら、震えた声で答えた。

「……モンスターに食べられて死んだ……」

 一拍。

「……俺は、その間に逃げて助かった……」

 真実の口は反応しない。


 つまり――本当だ。


 その瞬間、ルドルフが小さく呟いた。

「……そうか」

 そして、ほとんど独り言みたいに続ける。

「お前は、そうやって誰かを犠牲にしないと生き残れないんだな……」

 その声に、俺は少しだけ眉をひそめた。

 怒鳴りたいわけじゃないんだろう。

 でも、怒りは消えてない。

 むしろ、静かだからこそ余計に重い。


 ◇


 亮太は、怯えたままルドルフを見上げていた。

 だが、次の瞬間。

「……何で」

 掠れた声が漏れる。

「何で、お前が生きてるんだ……」

 その一言で、ルドルフの表情が変わった。

 亮太はなおも続ける。

「しっかり……深く刺したつもりだった……」


「なのに、なんで生きて――」


「俺はお前に答える義務はない!!」

 ルドルフの声が、初めて強く響いた。

 空気が震えた気がした。

 避難民たちがびくっと肩を揺らす。

 亮太も完全に竦み上がる。

「これは俺の質問の場だ!!」

 いつもの理性的なルドルフとは違う。

 完全に感情が出ていた。

 当然だ。

 刺された本人なんだから。

 ここまで抑えていた方がすごい。


 でも、だからこそ――


「ルドルフ」

 俺は声をかけた。

 ルドルフが、わずかにこっちを見る。

「もう、質問しなくていい」

 亮太がどういうやつかなんて、もう十分分かった。

 俺はそう判断した。

 だが、ルドルフは数秒だけ黙った後、ゆっくり息を吐いた。

「……大丈夫です」

 声は、もうさっきより落ち着いていた。

「しっかり質問した上で判断します」

 そして、ほんの少しだけこちらに頭を下げる。

「すいません、脱線してしまって……」

 その一言で、俺は少しだけ安心した。

 感情に飲まれてはいない。

 ちゃんと、自分を戻してる。

 それが分かったからだ。


 ◇


 ルドルフは亮太を見据えたまま、改めて言った。

「では、質問を再開します」

 その声は冷静だった。

 さっきまでの怒りを、無理やり押し込めたような冷たさがある。

「貴方は、住民になった際」

「しっかりと与えられた役職を全うしますか?」

 亮太の顔がひきつる。

 手はまだ真実の口の中だ。

 逃げられない。

 答えるしかない。

「……は、い」

 その瞬間だった。


 真実の口の目が――赤く光った。


 ぞわっとした。

 次の瞬間。

「ぎゃあああああああああああ!!!!」

 亮太が絶叫した。

 聞いたことのないくらい大きな叫び声だった。

 その場にいた全員がビクッとする。

「う、うわっ……!」

 亮太は膝から崩れ落ちそうになりながら、腕を必死に引こうとしている。

「やめろ!! やめてくれ!!」

 だが無理だ。

 真実の口からは抜けない。

 あいつには今、“手を食いちぎられている幻覚”が見えてる。

 しかも、痛みまで本物同然。

 ……やっぱり、えげつない能力だ。

 亮太の顔は涙と汗でぐしゃぐしゃだった。

「頼む!! もうやめてくれ!!」

「もういい!! 俺はいい!!」

「そこには住まなくていいから!!」

 完全に本音が出た。

 つまり、最初の“はい”は嘘だったってことだ。

 避難民たちの空気が変わる。

 恐怖だけじゃない。

 “あいつは嘘をついていた”という理解が、全員に広がっていった。

 ルドルフは亮太を見下ろしたまま、静かに言った。

「いや」

「最後まで、俺は質問する」

 その言葉は、あまりにも冷たかった。

 まるで合法の枠の中で、きっちり裁きを下しているみたいだった。

 亮太は涙を流しながら首を振る。

「もう嫌だ!!」

「答えたくない!!」

 だが、ルドルフは一切表情を変えない。

「俺の質問には、必ず答えなければならない」

 一歩、近づく。

「答えなければ、自動的にもう一度噛みちぎられるぞ……?」

 亮太の顔面が、一気に真っ白になった。

 目が見開かれ、呼吸が浅くなる。

 唇が震える。


 そして――そのまま、白目を剥いて倒れた。 


 気絶だ。

 真実の口が、ゆっくりと消えていく。

 張りつめていた空気も、少しずつ元に戻っていく。

 ルドルフがぽつりと呟いた。

「……情けない」


 ◇


 誰も何も言えなかった。

 誰も、すぐには動かなかった。

 亮太が気絶して倒れている。

 さっきまであれだけ響いていた叫び声の余韻だけが、まだ耳の奥に残っていた。

 避難民たちは、完全に言葉を失っている。

 無理もない。

 あんなものを目の前で見せられたら、誰だって固まる。

 助かると思っていた場所が、ただ優しいだけの場所じゃないと理解したはずだ。

 ……それでも。

 逃げる者はいなかった。

 むしろ、全員が静かにその場に立ち尽くしている。

 覚悟を決めた顔もあれば、恐怖に押し潰されそうな顔もある。


 だが、共通しているのは――


 “ここで生きるなら、ルールに従うしかない”と理解した顔だ。

 ルドルフがゆっくりと顔を上げた。

 少しだけ、息が荒い。

 だが、声は落ち着いていた。

「……審査は、終了です」

 その一言で、全員の視線が集まる。

「亮太以外は……全員、嘘をついていませんでした」

 静かに告げる。

 事務的な報告。

 そこにさっきまでの感情はほとんど残っていない。

 それが逆に、この場の重さを際立たせていた。

「……分かった」

 俺は短く答えた。

 一度、避難民たちを見渡す。

 さっきまでの浮かれた空気は完全に消えていた。


 だが――


 それでも、目は死んでいない。

 恐怖の中でも、まだ希望を捨てていない目だ。

(……いい)

 この状態なら、問題ない。

 甘いだけの集団じゃない。

 現実を理解した上で、それでも来ると決めている。


 それなら――受け入れられる。


 ◇


 視線をルドルフに戻す。

「ルドルフ」

「はい」

「……大丈夫か?」

 一応、聞いておく。

 あれだけのことをやった直後だ。

 何もないわけがない。

 ルドルフは少しだけ目を伏せてから、ゆっくりと顔を上げた。

「……えぇ」

 短く答える。

「個人的に、色々すみませんでした」

 少しだけ苦笑する。

「でも、もう大丈夫です」

 その言葉に嘘はない。

 少なくとも、さっきみたいに感情が暴れる状態ではない。


 ただ――


 少しだけ、疲れている顔をしていた。

(……まあ、当然か)

 完全に割り切れるような話じゃない。

 それでも、自分で制御した。

 それだけでも十分すごい。

「そうか」

 俺はそれ以上は言わなかった。

「一度戻る」

 俺が言うと、避難民たちがざわつく。

「え……?」

「戻る……?」

 不安そうな声。

 それに対して、俺はすぐに続けた。

「この人数を一度に運ぶのは無理だ」

「車が足りない」

 現実的な理由だ。

 こればっかりはどうしようもない。

「だから、一度拠点に戻る」

「ミニバンを用意して、迎えに来る」

 代表者の男が、一歩前に出た。

「……本当に、来てくれるんだな?」

 その問いに、俺は迷わず答える。

「あぁ」

「約束する」

 一言でいい。

 余計な言葉はいらない。

 男はそれを聞いて、ゆっくりと頷いた。

「……分かった」

「待ってる」

 その声には、もうさっきまでの疑いはなかった。

 完全に信じたわけじゃないだろう。


 でも――信じるしかないと決めた声だった。


 俺はそれで十分だと思った。

「じゃあ、少し待っててくれ」

 それだけ言って、俺たちは車に戻った。

 亮太はそのままにしておく。

 ……少なくとも、今はそれでいい。


 ◇


 車に乗り込む。

 エンジンをかける。

 発進する。


 いつもと同じはずの動作なのに――


 車内の空気は、まるで別物だった。

 誰も、喋らない。

 未来も。

 陸斗も。

 浮田も。

 ルドルフも。

 ただ、エンジン音だけが静かに響いている。

 窓の外の景色が、ゆっくりと流れていく。

 壊れた街。

 人のいない道路。

 変わらない世界。

 なのに、さっきまでとは見え方が少し違った。

(……これが現実か)

 助ける。

 守る。

 そう簡単な話じゃない。

 人を集めれば、問題も集まる。

 綺麗事だけじゃやっていけない。


 それでも――


(それでも、やるしかない)

 俺はハンドルを握る手に、少しだけ力を込めた。

 隣を見る。

 ルドルフは、静かに前を見ていた。

 その横顔は、どこか疲れていて。


 でも――逃げてはいなかった。


(……いい顔だ)

 そう思った。

 車はそのまま、拠点へと向かって走り続ける。

 誰も言葉を発しないまま。


 ただ、それぞれが何かを考えながら――

久し振りに少し緊迫した回になりました。


読んで頂きありがとうございます!!

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― 新着の感想 ―
怖いもの見た直後に少人数だけ離れるのは、どっちも心配だよね。 こんな時だからこそ、生き残っている人たちは仲間意識も強いだろうし。
どうせなら、少しでも載せられるだけ載せて帰るべきでしょう。
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