灯りの再生
第28話です。宜しくお願いいたします。
ミニバンがゆっくりと停止する。
目の前には——十五階建ての高層マンション。
外壁には亀裂が入り、所々ガラスが割れているが、それでもこの世界では“まだ形を保っている建物”だった。
「……ここか」
悠真が静かに呟いた、その時——
ガラガラと瓦礫が崩れる音。
低い唸り声が複数重なる。
「来るぞ」
浮田の声と同時に、影の中から数体のモンスターが姿を現した。
Cランクモンスターシャドウウルフ。
素早く、獰猛な動きでこちらへ飛び込んでくる。
だが——
「陸斗」
「はい!」
悠真の一言で、陸斗は一歩前へ出た。
その瞬間。
陸斗の体を淡い光が包む。
「準備」
静かに呟く。
ほんの一瞬、足を止める。
だが、それは“隙”ではない。
——溜め。
わずか数秒で、莫大なエネルギーが蓄積される。
その間——
「バリア」
透明な壁が展開される。
飛びかかってきたモンスターの爪が、それに弾かれる。
ガンッ!!という鈍い音が響いた。
完全防御。
その間にも、準備は続く。
そして——
「……いけます!」
次の瞬間。
バリアが消えた。
同時に、陸斗の背後に複数の光が収束する。
「光線——分散!」
放たれたのは、6本の光線。
それぞれが別々の軌道を描きながら、モンスターへと襲いかかる。
——ドンッ!!ドドドドッ!!
一瞬で、複数の個体を貫く。
さらに——
「追尾」
逃げようとした個体に、光線が曲がりながら追いすがる。
そして——
貫通。
残っていたモンスターの体を一気に撃ち抜いた。
数秒。
それだけで、半数以上が沈黙する。
「残りは任せて」
未来が前に出る。
指先を軽く上げる。
すると——
動植物図鑑のスキル発動。
シャドウウルフを召喚。
「操作」
6体同時に動き出す。
まるで一つの意思のように。
さらに——
「強化」
その瞬間、動物たちの動きが一段階鋭くなる。
身体能力が底上げされる。
同じシャドウウルフでも身体能力が大幅に上がったシャドウウルフでは強さが一目瞭然。
あっという間に残りのシャドウウルフを撃破。
完全な連携。
まるで部隊のような動きだった。
だが——
悠真はまだ動いていない。
「いや、まだだ」
その一言と同時に——
影に隠れていたシャドウウルフが1対出てくる。
悠真の足元に光が浮かぶ。
「警備、派遣」
空間が歪む。
そこから現れたのは——
「呼ばれて飛び出て——アルであります!!」
「……ソックスです」
テンションMAXのアルと、相変わらず低テンションのソックス。
「敵、発見しましたぁぁ!!」
「いや、もうほぼ終わってるぞアル」
「えっ!?嘘でしょ!?」
その瞬間——
出てきた一体が飛びかかる。
「……来てますよ」
ソックスが冷静に構える。
次の瞬間。
——ガシャッ
二人の手元に武器が召喚される。
リボルバー式機関銃。
「主人の前で失態は見せられません」
「ラストは我らが頂くぅぅ!!」
——ドドドドドドドド!!!
「ヒャッハァァァー!!」
圧倒的な連射。
一瞬で蜂の巣にされ、モンスターは完全に沈黙した。
「任務完了致しました」
「主人!どうでしたか我らの活躍は!!」
キラキラした目で見てくるアル。
その横でソックスは一歩下がる。
「……今回は、ぎりぎり間に合いましたね」
悠真は少しだけ笑う。
「お疲れ、助かった」
「やったぁぁぁ!!褒められたぁぁ!!」
「……だから言ったでしょう、すぐ調子に乗ると」
静寂が戻る。
だが、その空気は先程とは違っていた。
完全な“制圧”。
誰も傷つくことなく、戦闘は終わっていた。
「……ほんと、強くなったな」
悠真がぽつりと呟く。
それは、全員に対しての言葉だった。
悠真はマンションを見上げた。
静かに佇むその建物。
だが、その中に“何があるか”は分からない。
「……もしかしたら」
ぽつりと呟く。
「まだ生き残ってる人がいるかもしれない」
その言葉に、空気が少しだけ変わる。
浮田が腕を組みながら言う。
「可能性はあるな」
「この規模の建物だ。籠城してる奴がいてもおかしくはない」
悠真は小さく頷いた。
「……だよな」
少しだけ、視線を落とす。
脳裏に浮かぶのは、浮田と出会った時のこと。
あの時も——
“元々そこにいた人間”がいた。
「勝手に奪うのは違う」
はっきりと、そう言った。
その声には迷いがなかった。
誰かの居場所を、自分の都合で上書きする。
それは——やりたくない。
「実はさ」
悠真がふと口を開く。
「さっきの戦闘でポイントが入って、レベルが上がったんだ」
未来がすぐに反応する。
「また何か増えたの?」
「あぁ」
悠真は頷く。
「新しい機能が、2つ追加された」
その場でステータス画面を開く。
目の前に、半透明の画面が浮かび上がる。
全員の視線がそこに集まる。
■テリトリー登録/解除
まず目に入るのは——
“登録”の隣に追加された項目。
「テリトリーの解除」
悠真が説明する。
「今までは登録するだけだったけど、これで解除もできる」
未来が軽く頷く。
「……つまり?」
「もし、このマンションに生存者がいて」
「俺達の提案を断られた場合——」
少しだけ間を置く。
「登録を解除して、別の場所を探す」
その言葉に、空気が少しだけ柔らぐ。
“強制しない”という選択肢。
それは、この場にいる全員にとっても納得のいくものだった。
■テリトリー掌握
「で、もう一つが——」
悠真が画面を操作する。
「テリトリー掌握」
その名を見て、未来が少しだけ眉を上げる。
「……嫌な予感しかしない名前ね」
悠真は苦笑いする。
「まぁ聞けって」
「このスキルは、テリトリー内にいる人物の位置と行動を把握できる」
一瞬、沈黙。
「……は?」
未来が素で固まる。
「全部?」
「あぁ、全部」
「どこにいるかも、何してるかも分かる」
未来はため息をついた。
「……相変わらず、ご都合主義すぎるスキルね」
「俺もそう思う」
悠真は素直に同意した。
「じゃあ、始めるか」
悠真がマンションへと向き直る。
「まずは——登録」
その瞬間。
目に見えない何かが、建物全体を包み込んだ。
空気が一瞬だけ揺らぐ。
それと同時に——
「……来た」
悠真の視界が変わる。
立体的な構造図が、頭の中に展開される。
十五階建てのマンション。
各フロア、各部屋。
細部まで、はっきりと見える。
「これが……」
未来が小さく呟く。
「テリトリー掌握……」
悠真は、その情報の中から“違和感”を探す。
そして——見つけた。
「……いた」
低く、呟く。
「生き残りがいる」
画面の中に浮かぶのは、光るマーク。
全部で——八つ。
「……8人か」
その数字に、誰もすぐには言葉を発せなかった。
広いマンション。
何十、何百という部屋がある中で——たった8人。
それが、この世界の現実だった。
悠真はゆっくりと息を吐く。
「……行こう」
「まずは、会いに行く」
マンションのエントランスを抜ける。
自動ドアは既に壊れており、半開きのまま動かない。
中へ足を踏み入れた瞬間——
空気が変わった。
「……臭いな」
浮田が眉をひそめる。
血の匂い。
そして、長い間閉ざされていた空間特有の淀んだ空気。
ロビーには倒れた家具、散乱した荷物、壁には爪痕のような傷。
明らかに、ここでも戦いがあった。
「……大丈夫だ」
悠真が短く言う。
「生存反応はある」
その一言だけで、場の緊張が少しだけ和らぐ。
「……8人でしたよね」
陸斗が確認するように呟く。
「あぁ」
悠真は頷く。
「位置も把握できてる」
視線を上へ向ける。
各階に点在する“光”。
それが、生きている証だった。
「上から行くか?」
「いや」
悠真は首を横に振る。
「近いところからだ」
無理に急がない。
まずは一人ずつ。
慎重に。
数分後。
一つの部屋の前に立つ。
中に——光が一つ。
つまり、生存者がいる。
悠真はドアの前に立ち、軽くノックした。
——コンコン
反応は、すぐには返ってこない。
だが——
微かに、気配が動いた。
「……誰だ」
ドア越しに、低く掠れた声。
警戒心が滲み出ている。
「俺は——」
悠真が答えようとした瞬間。
「近づくな!」
鋭い声が飛んだ。
「それ以上近づいたら……殺すぞ」
その言葉に、陸斗が一瞬だけ身構える。
未来も静かに周囲を警戒する。
だが悠真は、動かなかった。
「……分かった」
一歩、下がる。
「俺達は敵じゃない」
「助けに来た」
短く、はっきりと伝える。
沈黙。
中の人物は、判断を迷っている。
「……信用できるかよ」
震えた声。
それが、この世界の現実だった。
結局、その部屋の住人はすぐには出てこなかった。
だが、完全に拒絶したわけでもない。
——少しだけ、扉が開いた。
隙間から覗く、痩せた顔。
目の下には濃い隈。
明らかに衰弱している。
「……食料、あるのか」
かすれた声でそう聞いてきた。
それが、すべてだった。
信頼でも、疑いでもない。
“生きるための問い”。
悠真は即答する。
「あぁ、ある」
「水もある」
その言葉に、男の喉が小さく鳴る。
——だが。
「……嘘かもしれない」
すぐに視線を逸らす。
「こんな世界で……そんな都合いい話——」
言い切れない。
信じたい。
でも、信じるのが怖い。
それが、今の人間だった。
他の部屋でも同じだった。
警戒、疑念、恐怖。
そして——
限界。
食料はほぼ尽き、水も残り僅か。
もう、長くは持たない。
だからこそ——
縋るしかない。
「……一度、全員で見てくれ」
悠真が言った。
「言葉で説明するより早い」
その提案に、住民たちは顔を見合わせる。
迷い。
恐怖。
だが——
選択肢は多くない。
「……分かった」
一人が頷いた。
「……行く」
それが連鎖する。
やがて、全員がロビーへと集まった。
8人。
どの顔も疲弊しきっている。
それでも、目だけは必死にこちらを見ていた。
「じゃあ、見ててくれ」
悠真が一歩前に出る。
そして——
「内装変更」
その瞬間。
空間が、変わった。
——ブワッ
光が広がる。
床が、壁が、形を変えていく。
何もなかったロビーが、一瞬で再構築される。
「な……」
誰かが声を漏らす。
そこに現れたのは——
整然と並ぶ売店スペース。
食料、飲料、日用品。
さらに、その一角には大きな倉庫。
積み上げられた物資。
そして——
トレーニングジム。
簡易的だが、しっかりと設備が整っている。
共有スペースも残され、生活の場として機能する構造。
わずか数秒。
それだけで、世界が変わった。
「……嘘だろ」
「こんな……」
住民たちは、ただ呆然と立ち尽くす。
理解が追いつかない。
だが——
確かにそこにある。
“希望”が。
若者の疑問(現実の声)
唖然とする空気の中——
一人の若者が、前に出た。
他の者よりも少しだけ体力が残っているのか、しっかりとした足取りだった。
だが、その目には警戒が残っている。
「……すげぇとは思う」
そう言いながら、周囲を見渡す。
売店、物資、整えられた空間。
明らかに“異常”。
そして——
悠真へ視線を向ける。
「でもさ」
一歩、近づく。
「こんな事して……お前らに何の得があるんだ?」
その一言で、空気が引き締まった。
誰もが思っていた疑問。
だが、口に出せなかった言葉。
それを、代弁した。
逃げ場のない問い。
悠真は、その問いを真っ直ぐ受け止めた。
逸らさない。
誤魔化さない。
「……いい質問だな」
小さく息を吐く。
「正直に言う」
ゆっくりと、言葉を紡ぐ。
「得なんて、特にない」
その言葉に、わずかなざわめき。
だが——
悠真は続ける。
「でもな」
一歩、前に出る。
「助けたいと思ったんだ」
その一言は、驚くほど真っ直ぐだった。
「こんな世界になって」
「突然モンスターが現れて」
「全部、奪っていった」
視線が、住民一人一人に向けられる。
「会社も」
「家も」
「学校も」
「家族も」
「恋人も」
「友達も」
静かに、しかし確実に刺さる言葉。
「何もかも、当たり前だったものが全部なくなった」
一瞬、間が落ちる。
「だから——」
拳を軽く握る。
「もう一度、取り戻したいと思ったんだ」
その声は、少しだけ熱を帯びていた。
「俺一人じゃない」
「俺達で」
振り返る。
仲間達がそこにいる。
「当たり前の日常を、もう一度作りたい」
そして——
再び前を向く。
「それだけだ」
少しの沈黙。
だが、悠真はそこで終わらない。
「……ただし」
空気が変わる。
「タダじゃない」
はっきりと言った。
住民達が息を呑む。
「さっき見ただろ」
「売店、倉庫、設備」
「これから、ここにもっと人が来る」
「そのために——」
指で周囲を示す。
「ここで働いてもらう」
「管理も、販売も、運営も」
「全部だ」
視線が若者へ向く。
「生きるための“普通の生活”をしてもらう」
「それが条件だ」
——静寂。
誰も動かない。
だが、その静けさは先程までとは違う。
次の瞬間——
「……はは」
誰かが、小さく笑った。
「なんだよ……それ」
肩の力が抜けたように、座り込む。
「普通……か」
ぽろりと、涙がこぼれる。
別の女性が、その場で崩れ落ちた。
「よかった……」
「もう……終わりだと思ってた……」
嗚咽が漏れる。
それが連鎖する。
笑う者。
泣く者。
顔を覆う者。
「ありがとう……」
「助けてくれて……」
その言葉が、何度も何度も繰り返される。
——心の底からの声だった。
悠真は、その光景を静かに見ていた。
胸の奥が、じんわりと熱くなる。
(……こんな顔)
今まで、見たことがなかった。
誰かに必要とされる。
誰かの“救い”になる。
それは、想像していたものよりも——ずっと重かった。
(……悪くないな)
小さく、そう思った。
悠真が一歩、前へ出る。
「これから、このマンションを——」
一度、言葉を区切る。
住民達の視線が集まる。
「俺達で、作っていこう」
その言葉に——
一人が立ち上がる。
「……あぁ」
続いて、もう一人。
そして——
全員が、顔を上げる。
「「「オー!!」」」
声が重なる。
それはまだ小さな声だった。
だが——
確かに、一つになっていた。
マンションの外。
崩壊した街の中で——
その建物の一角に、明かりが灯る。
ほんの小さな光。
だが、それは確かに——
“日常”の始まりだった。
悠真の性格が1話とか2話とは別人のようですね。
成長しましたよ。ホントに。




