元のコンセントを抜けば済む話ですわ!
第204話です。宜しくお願い致します。
「スキル、《自由の女神》!」
ルーシー・タークスが、2つ目のスキルを使用した。
その瞬間、彼女の背後に光が集まり始める。
淡い光は形を作り、やがて人間ほどの大きさの像となって姿を現した。
それは、自由の女神だった。
片手には松明。
もう片方の手には板のようなもの。
よく知られたその姿をした像が、ルーシーの背後に堂々と立っている。
さらに、その周囲には先ほど召喚された人型の銅像達が並んでいた。
無機質な顔。
硬そうな銅の体。
ただ立っているだけなのに、不気味な圧力がある。
ルーシーは口元を吊り上げた。
「お前等、アメリカ独立記念だ!」
そして、自由の女神の像を指差すように叫ぶ。
「自由に動けっ!」
その言葉に反応したように、自由の女神が手に持った松明を掲げた。
松明から放たれた光が、人型の銅像達を照らす。
次の瞬間、銅像達が一斉に光り出した。
悠真は眉をひそめる。
「何だ……?」
それまで動く気配のなかった銅像達が、ぎぎぎ、と音を立て始める。
腕が動く。
足が動く。
首が回る。
まるで命を吹き込まれた人間のように、銅像達が一歩ずつ歩き出した。
悠真は思わず呟く。
「動いた……」
目の前で起きている現象は、明らかに先ほどまでの《ニードルハリネズミ》とは違う。
ルーシーが最初に唱えていたのは、確かにBランクモンスターの能力だった。
身体中から針を生やし、それを飛ばすスキル。
凛堂達から聞いていた話と同じだった。
東京を襲撃した飯島茶々が使っていた能力とも一致している。
だから、あれが銀武によって付与されたBランクモンスター能力であることは、ほぼ間違いない。
それなのに。
今、ルーシーはもう1つのスキルを使っている。
一体、どういう事だ……?
悠真が警戒を強める中、ルーシーはその反応を楽しむように笑った。
「驚いているわねぇ〜」
その声は、明らかに得意げだった。
「アタシが、スキルを2つ使用できる事に!」
悠真はルーシーを睨む。
ルーシーは、隠すつもりなどないと言わんばかりに胸を張った。
「元々アタシのスキルはこの《自由の女神》だったのよ!」
そして、自分の背後に立つ女神像を親指で示す。
「そして、アタシはBランクモンスターの能力のスキルの適性もあったのよ!」
悠真の目が鋭くなる。
「何だと……?」
それは、今までの前提を崩す言葉だった。
「つまり、元々のスキルを持ちながら、銀武にも能力を与えられたって事か……?」
ルーシーは満足そうに笑う。
「フフフッ」
そして、はっきりと頷いた。
「その通りよっ!」
◇
悠真の胸に、嫌な重さが広がる。
銀武の《施し》。
モンスターの能力を人間へ与えるスキル。
それは十分に厄介な能力だと思っていた。
しかし、悠真達はどこかで思い込んでいた。
能力を与えられるのは、何も持たない人間なのだと。
スキルを持っていない者へ、モンスター能力を付与するのだと。
だが、それは違った。
適性さえあれば、元々スキルを持っている超人族にも、モンスター能力を上乗せできる。
その可能性を、目の前のルーシーが証明している。
ルーシーはさらに続けた。
「私はアメリカの血が入っているからね!」
悠真はその言葉に引っかかった。
「血……?」
ただの出自の話なのか。
それとも、スキルや適性に関わる何かがあるのか。
悠真の頭の中で、これまでの情報が一気に繋がり始める。
佐々木達Bランクモンスター適合者の幹部は捕らえた。
Cランク適合者部隊も、東京で大きく削った。
最も厄介だと思われたAランクモンスター適合者達は、四国で死んでいる。
さらに銀武が付与できるのは、現時点ではAランクモンスター能力まで。
だから、これ以上に目立った強さの者はそう多くない。
悠真は、どこかでそう考えていた。
しかし、それは完全な固定観念だった。
勝手に、無能力者へ付与するものだと思い込んでいた。
スキルを持っている者にも、条件さえ合えば付与できる。
その考えに至るべきだった。
さらに、ルーシーが口にした「アメリカの血」という言葉。
それが日本人ではない血を意味するのか。
海外の血が混ざっていることで、モンスター能力への適性が満たされやすいのか。
それとも、もっと別の意味があるのか。
今は分からない。
だが、血という言葉には覚えがある。
神崎幸子の研究者だった白井。
彼が、超人族を一時的に人間へ戻す薬を作った時も、血液が関係しているようなことを言っていた。
スキルという、現代ではありえない力。
モンスターに対抗するための贈り物。
それには、血が関係しているのではないか。
悠真はそう考えた。
だが、今は考え込んでいる場合ではない。
目の前には、2つのスキルを操る敵がいる。
◇
ルーシーは肩を鳴らすように軽く体を動かした。
「お喋りはこれくらいにして、さぁ行くぜっ!」
その声を合図に、人型の銅像達が一斉に武器を構えた。
剣。
槍。
棍棒。
銅でできているはずのそれらが、まるで本物の兵士のようにセイコへ向かってくる。
セイコは両手のステッキを軽く持ち直した。
「こんな人形、本物の人間相手にするよりも楽ですわぁ!」
銅像の1体が剣を振り下ろす。
セイコは半歩ずれ、ステッキで剣を弾いた。
そのまま優雅に回転し、もう片方のステッキで銅像の胴体を叩く。
硬い銅の体に、ひびが入った。
さらに、別の銅像が槍を突き出す。
セイコは軽やかに足を運び、槍の軌道を外す。
そして、ステッキの先端で銅像の腕を打ち抜いた。
銅像の腕が砕け、床に転がる。
その動きは、戦闘というより舞踊だった。
だが、結果として残るのは破壊された銅像達である。
ルーシーは舌打ちをした。
「スキル、《タイプBランク》で《ニードルハリネズミ》!」
再び、ルーシーの背中が不気味に膨らむ。
そこから無数の針が生えた。
セイコが銅像に対処している隙を狙い、ルーシーは針を連続で発射する。
「ほらほらほらぁ!」
針の雨が、銅像達の隙間を縫うようにセイコへ襲いかかる。
「いくらでも針はあるよ!」
銅像による近接攻撃。
針による遠距離攻撃。
2つのスキルを同時に使った攻撃は、普通なら十分すぎるほど脅威だった。
だが、相手はセイコだった。
セイコは銅像の攻撃を避けながら、飛んでくる針をステッキで弾く。
キンッ。
カンッ。
金属音が連続して響く。
セイコは一歩も乱れない。
銅像の足を払うようにステッキを振り、体勢を崩したところで胴体を砕く。
その直後に飛んできた針を、背中を見ることなく回転で弾いた。
さらに、弾いた針の一部が別の銅像へ刺さり、その動きを鈍らせる。
セイコはその一瞬を逃さず、ステッキを振り下ろして頭部を砕いた。
優雅。
華麗。
そして、異常に強い。
ルーシーの顔から、少しずつ余裕が消えていく。
「そんな……全部防ぐのなんて……絶対にあり得ないっ!!」
思わず叫んだルーシーに対し、セイコは微笑んだ。
「淑女たるもの、絶対になんて事はありませんわよぉ!」
セイコはステップを踏みながら、さらに銅像を1体砕く。
「何でも必ず可能性が隠れているものですわ!」
その姿はまるで、ルーシーに最強の淑女とは何かを身体で教え込んでいるようだった。
悠真は呆然としながらも、思わず感心する。
「流石、セイコ……」
そして、少し引いたように続けた。
「相変わらず、ぶっ飛んでいるが流石に最強すぎる……」
◇
しかし、ルーシーはまだ諦めていなかった。
いや、むしろそこで口元を歪める。
「ふんっ……どこまで持つかしらね!」
その言葉と同時に、異変が起きた。
セイコが破壊したはずの銅像達。
ひび割れた箇所が、ゆっくりと塞がっていく。
砕けた腕が元に戻る。
折れた脚が繋がる。
割れた胴体が修復される。
倒れていた銅像達が、再び立ち上がった。
ルーシーは得意げに笑う。
「針も無限に出せるけど、銅像も無限なのよね!」
銅像達は再び武器を構え、セイコへ向かってくる。
悠真はその様子を見ながら、すぐに思考を巡らせた。
銅像が永遠に復活するなんてことは、絶対にないはずだ。
何かしらの条件がある。
壊れた銅像を復活させている原因。
怪しいのは、やはりあの自由の女神だ。
最初に松明の光が銅像達を照らした。
その後、銅像達が動き出した。
ならば、あの自由の女神を壊せば、銅像の動きも再生も止まる可能性が高い。
悠真はすぐに声を上げた。
「セイコ、あの自由の女神を壊すんだ!」
それは合理的な判断だった。
しかし、セイコは銅像を捌きながら、悠真へ穏やかに返した。
「悠真様、ここはもっとシンプルに行きましょう?」
「えっ……?」
悠真が聞き返すより早く、セイコの足に力が入る。
次の瞬間、セイコの姿が消えたように見えた。
いや、消えたのではない。
速すぎたのだ。
銅像達の間をすり抜ける。
針の雨を、最低限の動きで弾く。
床を滑るように進み、一気にルーシーの懐へ飛び込んだ。
「……え?」
ルーシーは反応できなかった。
セイコはステッキを構える。
そして、優雅に微笑んだ。
「スイッチを切るんじゃなくて、元のコンセントを抜けば済む話ですわ!」
その言葉の直後、セイコはステッキを思い切り振りかざした。
ルーシーの体に、綺麗にクリーンヒットする。
「がっ……!」
ルーシーの体が宙を舞った。
そのまま勢いよく壁へ叩きつけられる。
重い衝撃音が通路に響き、壁にひびが入った。
ルーシーは壁にめり込みかけた状態で、ぐったりと動かなくなる。
完全に気絶していた。
同時に、動いていた銅像達がぴたりと止まる。
掲げられていた自由の女神の松明からも、光が消えた。
銅像達は武器を構えた姿勢のまま、ただの像へ戻ったように動かなくなる。
悠真はその光景を見て、思わず呟いた。
「嘘だろ……」
2つのスキル。
無限に飛ばせる針。
破壊しても再生する銅像。
厄介な要素はいくつもあった。
それなのに。
「こんなあっさり倒すなんて……」
悠真の視線の先で、セイコは何事もなかったかのように立っている。
彼女は自らのカールした髪を指でくるくると回しながら、不満そうに呟いた。
「淑女力が低すぎる相手でしたわ!」
悠真はその言葉を聞きながら、改めて思う。
セイコの強さは、やはり異常だ。
まだ底が知れない。
それどころか、今回は巨大化のスキルすら使っていない。
ただステッキと舞踊と、よく分からない淑女力だけで、2つのスキルを持つルーシーを圧倒してしまった。
悠真は小さく息を吐く。
頼もしい。
頼もしいのだが。
やはり、少し怖い。
こうして、セイコとルーシーの戦いは、セイコの圧倒で幕を閉じた。




