↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【Monster編開始】世界崩壊後、日常生活スキルで俺が最強拠点を作ってしまった件  作者: ナマケモノ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
203/204

美容鍼ですわぁ!

第203話です。宜しくお願い致します。



一方、悠真とセイコも教会の通路を歩いていた。

 真ん中の道。

 左右に分かれた陸斗と夏山の気配は、もう近くにはない。

 静かな廊下に響くのは、悠真とセイコの足音だけだった。

 外では近藤達や警備隊達が《Monster》の隊員達を相手にしているはずだ。

 だが、この通路まで来ると、その喧騒も遠く感じる。

 磨かれた床。

 壁に施された装飾。

 等間隔に並ぶ灯り。

 外の関西の街が荒れ果て、住民達が破れた服を着て祈りに来ていたことを思えば、この教会内部の綺麗さはあまりにも不自然だった。

 悠真はその光景に眉をひそめながら進んでいた。

 そして、ふと隣を歩くセイコへ視線を向ける。

「そう言えば、ちゃんと謝れてなかったな……!」

 セイコは不思議そうに首を傾げた。

「……?」

 悠真は少し足を止める。

 そして、真剣な表情でセイコを見た。

「本当にあの時はすまなかった……」

 セイコの表情が、わずかに変わる。

 悠真は続けた。

「俺が油断して不甲斐なかったが為に、1度はお前達を失ってしまった……!」

 それは、山梨での出来事だった。

 神崎幸子達が開発した、超人族を一時的に人間へ戻す薬。

 その薬を受けた悠真は、《日常生活》を失った。

 そして、それに伴ってセイコ達も一時的に姿を消した。

 セイコにアルやソックス、チャン爺や一葉、二葉、三葉。

 それに、ガドラーや警備隊達。

 悠真を支えてくれていた存在が、一瞬でいなくなった。

 あの時の無力感は、今でもはっきり覚えている。

 自分の油断が招いた結果だと、悠真はずっと悔やんでいた。

 だが、セイコは穏やかに微笑んだ。

「その事ならわたくし、悠真様に怒ってなどいませんわ!」

 悠真が顔を上げる。

 セイコは、いつもの華やかな笑みではなく、少しだけ優しい表情をしていた。

「寧ろ、無事で居てくれて本当にありがとうございますわ……」

「セイコ……」

 悠真が小さく呟く。

 セイコは胸元に手を当て、静かに言葉を続けた。

「わたくし達はあの時、悠真様の中で全てを見ておりました」

 悠真は目を見開く。

「無くなったとはいえ、一時的だった為、ずっと悠真様の中に居たのです……」

 完全に消えていたわけではない。

 表へ出ることができなかっただけ。

 悠真の中で、セイコ達は全てを見ていた。

 悠真が追い詰められていく姿を。

 苦しむ姿を。

 それでも必死に立とうとする姿を。

 セイコの表情が、少しだけ曇る。

「わたくし達は悠真様の事を助ける事が出来ない歯がゆさ、そして悠真様が腕を失い、殺されそうになる瞬間、わたくし達は生きた心地がしませんでしたわ……」

 その声には、普段の陽気さはなかった。

 セイコ達は見ていた。

 悠真が腕を失った瞬間を。

 命を奪われかけた瞬間を。

 だが、何もできなかった。

 声も届かない。

 手も伸ばせない。

 ただ、悠真の中で見ていることしかできなかった。

 それは、セイコ達にとっても苦痛だった。

 悠真は言葉を失う。

 自分だけが失ったと思っていた。

 自分だけが無力だったと思っていた。

 だが、セイコ達も同じように、苦しんでいたのだ。

 セイコは、そこでふっと表情を和らげた。

「でも、悠真様はこうやって生きてらっしゃいます……」

 そして、いつものように優雅に微笑む。

「悠真様が生きている事に感謝はすれど、怒る警備隊達なんて誰一人として居ませんことよ!」

 セイコは悠真へウインクした。

 その仕草は、いつものセイコらしかった。

 明るくて、誇らしげで、どこか大げさ。

 けれど、その言葉は本物だった。

 悠真は胸の奥が少し軽くなるのを感じた。

「セイコ……」

 そして、心から言う。

「ありがとう……」


 ◇


 その瞬間、セイコの目がわずかに鋭くなった。

 空気が変わる。

 セイコは前方へ視線を向けた。

「感謝は後回しですわ……」

 悠真もすぐに前を見る。

 通路の先。

 そこには、金髪でスタイルのいい女性が立っていた。

 長い足に少し濃い化粧と整った顔立ち。

 しかし、その表情には退屈そうな苛立ちが浮かんでいる。

 女性は大きくあくびをした。

「ハァ〜!」

 そして、悠真達を見て面倒くさそうに肩をすくめる。

「待ちくたびれたわ……ったく!」

 悠真は警戒しながら問いかけた。

「お前はMonsterだな?」

 女性は口元を吊り上げる。

「えぇ、そうよ」

 そして、堂々と名乗った。

「アタシの名前はルーシー・タークス」

 ルーシーは首を鳴らすように軽く動かし、ニヤリと笑う。

「さぁ、自己紹介はこのくらいにして早くやりましょうよ」

 戦う気は十分。

 むしろ、待たされていたことに苛立っているようだった。

 悠真は一瞬だけルーシーを見据えた後、隣のセイコへ声をかける。

「セイコ頼んだぞっ!」

 セイコは優雅に一歩前へ出る。

「お任せ下さいですわ!」

 そして、その場でくるりと一回転し、美しくお辞儀をした。

 それを見たルーシーが鼻で笑う。

「ふん!」

 腕を組み、セイコを上から下まで見る。

「ふざけたポーズなんて取っちゃって!」

 そして、挑発するように言った。

「如何にもお嬢ちゃんって感じね」

 セイコは口元に手を添え、穏やかに笑う。

「淑女の嗜みが分かっていないようだから、教えて差し上げますわ!」

 ルーシーの眉がぴくりと動く。

「あぁ、そうですか!」

 そして、背中をわずかに反らせる。

「これでも、そんな事言ってられるかしら?」

 ルーシーが叫んだ。

「スキル、《タイプBランク》で《ニードルハリネズミ》!」

 その瞬間、ルーシーの背中が不気味に膨らんだ。

 服の背中側が盛り上がり、そこから無数の針が生えてくる。

 鋭く、太く、硬そうな針。

 まるでハリネズミの背中を、そのまま巨大化させたようだった。

 悠真はその能力に見覚えがあった。

 以前、東京を襲撃してきた飯島茶々が使っていた、Bランクモンスター能力。

 《ニードルハリネズミ》。

 ルーシーは背中の針を広げるようにして笑った。

「発射!」

 次の瞬間、無数の針が一斉に飛び出す。

 空気を裂きながら、セイコへ襲いかかった。

「ハハハハハっ!!」

 ルーシーが高笑いする。

「針山になりなさい!」

 しかし、セイコはまったく慌てなかった。

 両手に、いつもの魔法のステッキを召喚する。

 そして、軽やかに足を動かした。

 まるで舞踏会で踊るようなステップ。

 だが、その動きはただ優雅なだけではない。

 飛んでくる針を、左右のステッキで次々と弾き返していく。

 キンッ。

 カンッ。

 鋭い金属音が通路に響く。

 セイコの身体は、針の雨の中を舞うように動いていた。

「淑女はこうやって優雅な舞踊を身に着けますのよぉ〜!」

 悠真はその光景を見ながら、静かに状況を整理していた。

 あれは、凛堂の話にも出ていた銀武が付与したというBランクモンスターの能力。

 ハリネズミのような細く鋭い針を飛ばす。

 厄介な能力だ。

 だが。

 悠真は、華麗に針を捌くセイコを見た。

 やっかいだが、うちのセイコの敵ではない……!

 ルーシーの顔に苛立ちが浮かぶ。

「クソがっ!」

 さらに針を放ちながら叫ぶ。

「ふざけるんじゃないわよ!」

 セイコは手を口に添え、目を丸くした。

「まぁ、汚い言葉!」

 そして、少し呆れたように言う。

「淑女が使う言葉ではありませんわ!」

 セイコはステッキで針を弾きながら、優雅に続ける。

「言葉遣いの調教も必要ですわね!」

 ルーシーのこめかみに青筋が浮かぶ。

「ごちゃごちゃうるさいわね!」

 ルーシーはセイコを睨みつけた。

 正面から針を撃っても弾かれる。

 ならば。

 ルーシーの視線が、セイコの後ろにいる悠真へ向く。

「なら、これはどうかしらね!」

 次の瞬間、ルーシーは背中の針を、すかさず悠真めがけて発射した。

「うわっ!」

 悠真は反射的に腕で顔を覆い、後ろに尻もちをつく。

 無数の針が迫ってくる。

 そう思った。

 だが、痛みは来なかった。

 代わりに、ルーシーの笑い声が通路に響く。

「ハハハハハッ!」

 悠真は恐る恐る腕を下ろし、目を開けた。

 目の前には、セイコが立っていた。

 悠真を庇うように。

 その全身に、ルーシーの針を受けた状態で。

「なぁ〜にが淑女よ!」

 ルーシーは勝ち誇ったように笑う。

「本当にチョロいわね!」

 さらに、悠真を見下すように言った。

「正義ぶってあんな草食男子庇うからそんな事になるのよ!」

 悠真の顔色が変わる。

「セイコォ゙ォ゙!!」

 通路に悠真の叫びが響く。

 だが。

 次の瞬間、セイコが高らかに笑い出した。

「オーッホッホッホ!」

 ルーシーの笑みが止まる。

「わたくしは毎日美容鍼を施術してるから全くもって平気ですわぁ!」

 ルーシーの表情が固まった。

「な……んだと……?」

 悠真は思わず叫ぶ。

「いや、美容鍼の針の量じゃねぇだろ!」

 セイコは顔中に針が刺さったまま、悠真の方を振り向いた。

 そして、いつものようにウインクする。

 その絵面は、助けられた悠真ですら少し引くほどだった。

 だが、セイコは本当に平然としている。

 ルーシーは信じられないという顔で叫んだ。

「あり得ないだろぉ!」

 背中の針を震わせながら、声を荒げる。

「この針はかなり太いんだぞ!」

 さらに、苛立ちを隠さず言う。

「注射針とかとは訳が違うんだ!」

 だが、セイコはルーシーの言葉など気にしていなかった。

 じっとルーシーの顔を見つめる。

 そして、真剣な声で言った。

「貴方は若いはずなのに、ほうれい線やおでこのシワが目立ちますわね!」

「はぁ……?」

 ルーシーの声が低くなる。

 セイコはさらに続けた。

「わたくしみたいにこうやって毎日美容鍼をやると、淑女に近づきますわよ!」

 通路に、妙な沈黙が落ちる。

 ルーシーは顔を引きつらせた。

「貴方は、一体何を言ってるのよ……」

 悠真もまったく同じ気持ちだった。

 だが、セイコは満足そうに微笑む。

 そして、その場で高速回転を始めた。

 優雅なバレエの回転。

 だが、速度は異常だった。

 風が巻き起こり、セイコの身体に刺さっていた針が次々と抜けていく。

 抜けた針は周囲へ弾き飛ばされ、床や壁へ突き刺さった。

 やがて、全ての針が抜け落ちる。

 セイコはぴたりと回転を止め、悠真へ振り向いた。

「悠真様、美容鍼でまた更に美しくなりましたか?」

 悠真はセイコを見た。

 針は抜けた。

 だが、どう見ても普通ではない。

「……いや身体中穴だらけに見えるが……」

「そんなぁ!」

 そして、悲しそうに眉を下げた。

「酷いですわ、悠真様っ!」

 悠真は思わず額に手を当てる。

「時々、俺はセイコが怖いよ……」

 だが、その表情はすぐに真剣なものへ変わった。

 セイコが自分を庇ってくれたのは事実だ。

 針を全身で受けても平然としていることには驚いたが、悠真を守ろうとしたことに変わりはない。

「でも、助けてくれてありがとう……!」

 セイコは胸を張った。

「当然ですわ!」

 その言葉に、悠真は小さく頷いた。


 ◇


 一方、ルーシーは怒りに肩を震わせていた。

 自分の針が通じなかった。

 それどころか、美容鍼扱いされた。

 さらには、顔のシワまで指摘された。

 ルーシーのプライドは、完全に傷つけられていた。

「こうなったら奥の手だ……」

 ルーシーの声が低くなる。

 次の瞬間、彼女の周囲にいくつもの影が浮かび上がった。

 それは、どこからともなく現れた人型の銅像だった。

 無機質な表情。

 硬そうな銅の身体。

 まるで何かを守るように、ルーシーの周囲へ並んでいく。

 悠真は警戒し、セイコの隣へ視線を向ける。

「……何だ?」

 ルーシーは歪んだ笑みを浮かべた。

 そして、はっきりと告げる。

「スキル、《自由の女神》!」

 悠真は目を見開いた。

「え……?」

 それは、先ほどの《タイプBランク》とは明らかに違う響きだった。

 悠真の背筋に、嫌な予感が走る。

「2つ目のスキル……?!」

 ルーシーは、勝ち誇るように笑っていた。

 教会の奥の通路で、セイコとルーシーの戦いは、さらに不穏な形へ進もうとしていた。



久しぶりのセイコのホラー回です……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。