侵入者と少女
第13話です。この話少し短いですが、宜しくお願いします。
ピ――――――――――――!!
突然、部屋中に甲高い警報音が鳴り響いた。
「な、なんだ!?」
陸斗が反射的に声を上げる。
ついさっきまで穏やかだった空間が、一瞬で緊張に包まれる。
《監視システム:侵入検知》
《対象:未登録存在》
《位置:玄関付近》
「侵入者……?」
美咲が不安そうに悠真の服を掴む。
だが、悠真はすでに表情を切り替えていた。
「……落ち着け」
低く、冷静な声。
「まだ“侵入された”わけじゃない。“検知した”だけだ」
そう言いながら、ゆっくりと玄関へ向かう。
「陸斗、いつでもバリア張れるようにしとけ」
「お、おう!」
「美咲は後ろにいろ」
「う、うん……!」
チャン爺も静かに美咲の前に立ち、守る姿勢を取る。
そして——
悠真は玄関のドアノブに手をかけた。
「……開けるぞ」
ゆっくりと、扉を開く。
外の空気が流れ込む。
そこにいたのは——
「……ヤモリ?」
電柱に張り付いた、一匹のヤモリ。
「なんだよ……ヤモリかよぉ〜」
陸斗が一気に力を抜く。
「びびらせやがって……」
だが。
「いや」
悠真は一歩も動かない。
視線は鋭く、周囲を見渡している。
「……どこかに隠れてる可能性がある」
「え?」
「警戒は解くな」
短く、はっきりと言い切る。
その言葉に、陸斗も再び気を引き締めた。
数秒。
沈黙。
風の音だけが流れる。
——何も、起こらない。
その時だった。
「あの……」
「!?」
全員の視線が、一斉に電柱へ向く。
ヤモリが——
喋っていた。
「侵入者というのは……私の事だと思う……」
「はぁ!?」
陸斗が素っ頓狂な声を上げる。
美咲も目を丸くする。
「ヤモリが……喋ってる……?」
ありえない光景。
だが、それは確かに現実だった。
悠真はゆっくりと一歩前に出る。
手にはバール。
いつでも振るえる距離。
陸斗も即座に構え、バリア展開の準備に入る。
「……お前、何者だ」
低く、鋭い問い。
ヤモリはわずかに体を揺らした。
「……私の名前は、黒川未来」
はっきりとした声。
「ヤモリじゃない……人間……」
一拍置いて——
「……貴方達と同じ、超人族」
「……!」
空気が一気に張り詰める。
陸斗が思わず悠真を見る。
美咲も息を呑む。
——超人族。
それは、悠真たち自身と同じ存在。
だが——
悠真の目は、まだ冷静だった。
「……なんで俺達が超人族だと分かる」
鋭く切り込む。
ヤモリは少しだけ間を置いてから答えた。
「……それは……全部、話さないといけない」
そして——
未来は語り始めた。
自分の過去。
施設のこと。
ゲートが開いた日。
モンスターに襲われたこと。
能力が目覚めたこと。
ヤモリで見ていたこと。
悠真たちの戦い。
生活。
全部。
何一つ隠さず、全てを。
声は震えていた。
でも、止まらなかった。
それは——
本気で助けてほしいから。
それだけだった。
そして。
「……お願い」
最後に、絞り出すように言った。
「……あの人達は、私の全てなの」
沈黙。
「……何でもする」
その言葉に、嘘はなかった。
「……だから、助けて……!」
空気が、止まる。
陸斗が、先に口を開いた。
「……悠真さん」
ちらりと視線を送る。
言葉にはしない。
でも、目が言っていた。
——助けよう。
そして。
「大丈夫だよ!!」
美咲が元気よく言った。
「うちのお兄ちゃんと、もう一人のお兄ちゃんはすごいから!」
「ちょっ、おい!」
悠真が慌てる。
「勝手に決めるなっての……!」
少しだけ頭をかく。
そして——
ため息をひとつ。
「……まぁ」
未来の方を見て言う。
「俺も同じ意見だ」
陸斗と美咲がぱっと顔を明るくする。
「ただし」
その一言で、空気が締まる。
「嘘だった場合……お前のことは許さない」
静かに、だが重く。
「……それでもいいなら」
一歩、前へ出る。
「助けてやる」
一瞬の静寂。
「……本当に……?」
震える声。
「……あぁ」
「……私、何でもするから……!」
その言葉に、悠真は軽く肩をすくめた。
「だったら——」
少しだけ口元を緩める。
「本体、近くにいるんだろ」
「……うん」
「出てこい」
少しの間。
「……ちょっと待ってて」
そう言って、ヤモリは動かなくなった。
——五分後。
遠くから、小さな足音が聞こえてくる。
全員がそちらを見る。
現れたのは——
一人の少女だった。
少し汚れた服。
疲れた表情。
でも、まっすぐにこちらへ歩いてくる。
黒川未来。
その本人だった。
悠真は軽く手を上げる。
「……来たか」
そして、何事もないように言った。
「とりあえず——家に入れ」
「え……?」
「まずは風呂だ」
「……え?」
「入ってこい」
「……お風呂……?」
信じられない、といった顔。
「入れるの……?」
「入れる」
あっさりと答える。
未来は目を見開いたまま固まる。
「……マジで……?」
そして——
こくりと、小さく頷いた。
数十分後。
風呂から上がった未来は、別人のようだった。
髪は濡れて整い、顔の汚れも落ちている。
それでも、まだどこか信じられないような表情のまま。
「……こっち座れ」
悠真が声をかける。
テーブルの上には——
料理が並んでいた。
「え……」
思わず立ち止まる。
「すごいでしょー!!」
美咲が得意げに言う。
「これ全部チャン爺が作ったんだよ!」
「ありがとうございます、美咲様」
チャン爺が丁寧に頭を下げる。
未来は、言葉を失った。
この世界で。
こんな光景があるなんて。
「ほら、座れ」
悠真が軽く促す。
未来はゆっくりと椅子に座った。
「「いただきます」」
全員の声が重なる。
未来は震える手で、料理を口に運ぶ。
一口。
「……っ」
その瞬間。
涙が、溢れた。
「……おいしい……!」
止まらなかった。
「おいしい……!」
泣きながら、食べる。
次々と。
まるで、失っていたものを取り戻すように。
陸斗が笑う。
「すげぇ食うじゃん」
「いいことだ」
悠真も小さく笑う。
美咲も嬉しそうに頷く。
温かい空気。
笑い声。
食事の匂い。
未来は思った。
——もう、ないと思っていた。
こんな時間は。
でも。
ここにあった。
確かに、あった。
「……ありがとう……」
小さく、呟く。
その声は、誰にも届かなかったかもしれない。
それでも——
彼女にとっては、確かな一歩だった。
実は悠真達も含めて初のちゃんとしたご飯になります。




