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聖獣達の鎮魂歌外伝~精霊の世界の物語~  作者: 悠介
四章 向かうべき場所

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三十三話 それぞれの想い

「んー、良い部屋だわー?研究所と違って、こういう所が快適なのよねー。」

「そうなんだ?研究所って、どういう感じだったの?」

「そうねー。研究に特化してるって言えば聞こえはいいけど、寝る場所も狭いしー、ベッドは固いしー、生活の場としては不都合が多かったわよー?それに、ご飯を食べるにもいちいち下に降りなきゃならなかったしねー。」

「そうなんだ、じゃあ、ここは確かに快適な場所だね。お布団はふかふかだし、こうしてルームサービス?って言うご飯を持ってきてくれるのもあるし、全然違うのかな。」

 ホテルに泊まった翌朝、ルームサービスという、部屋で飲食を食べられるというサービスをディンが頼んでいて、今日の朝はアリナとソーラの二人で朝食だ。

 バゲットにバター、サラダにスープ、そして軽くステーキがあり、朝食としては豪華だが、質素な朝食だ。

「美味しー、ここって、最上級のホテルだって言う話は聞いた事があったけどー、泊った事は無いから、知らなかったわー?」

「そうだね、美味しい。このお肉は何のお肉だろう?」

「なんでしょうねー?でも、美味しいから良いじゃないー!」

「うん。」

 朝食を食べながら、これからの事を考えるアリナ。

 今日は、ギルドに顔を出して、トップレベルの勇者と組み手をしてもらう事になるだろう、とディンが言っていた、ならば、そのトップレベルの勇者は、どれだけの実力を持っていて、そして自分達はどこまでついて行けるのか、と。

 不安が無いわけがない、コルドはまだ、都市のはずれで顔をでかくしているだけだとディンが言っていた、勇者としては中位か、下の上程度だろう、と言っていた、だから、それとは比較にならない程に、トップレベルの勇者というのは強いのだろう。

 そんな人間を相手に、自分達がどこまで喰らい付けるか、どこまで戦えるか、それを見極めなければならない、それを見極めて強くならなければならない、それは緊張どころの騒ぎではないのだろう。

「ソーラは不安じゃないの?」

「んー?そうねー、不安って言ったら、私だってグランの座にいるわけじゃないからー、魔王相手に勝てるのかなー、とは思うわよー?ただ、魔導士に負けてる様じゃ、ウィッチ失格だからねー。大概の人間相手には勝てる位じゃないと、やっていけないと思うわよー?」

「そうだね、確かにそうだね。私達は守護者、人間相手に負けてる様じゃ、魔王になんて勝てないよね。」

 バゲットを食べながら、ソーラは当然でしょう?という顔をする。

 それもそうだ、ソーラは元々ウィッチという、魔法使いの中でも精鋭に位置する立場だった、そこを離れて久しいとしても、腕が衰えた訳ではない。

 だから、ではないが、大概の人間には勝てる自信があるのだろう、そして、今のグラン達の魔力を感じ取って、自分はそれに負けないレベルの魔力を持っている、と確証しているのだろう。

 そんなソーラが、魔導士レベルの人間に負ける、それはありえない事であると同時に、そのレベルの人間に勝てないという事は、魔王に勝つ事など不可能だ、と理解している、という話にもなってくる。

 それだけ修行、鍛錬、研究は続けてきた、ウィザルで人間の相手をするのと同時に、ウィッチとしての研究は続けてきたのだ、という自負もあるだろう。

「アリナは不安ー?」

「うん、不安だよ。今の私達が、何処まで出来て、何処までが出来ないのか、それに、これから組み手をする人達は、トップクラスの勇者達なんでしょう?そんな凄い人達と、渡り合えるのかなって。」

「大丈夫よー、きっと大丈夫。アリナはもっと、自信を持っていいと思うのよー。だって、アリナだって、ディンに修行をしてもらってるのよー?伝説の竜神の、その長である竜神王に修行をしてもらってて、弱いって事は無いと思うなー。」

 それは希望的観測でもある、アリナの魔力は、他者とは明確に違う魔力だ、ソーラは感じ取った事が無い、人生の中で、沢山の人間を見てきて、その中でも見た事がない魔力の持ち主だ。

 だから、ではないが、勇者の魔力と比較した時に、それに匹敵するか、それとも劣るのか、という判断が出来ない、それがソーラの所感だった。

 アリナは強い、それは理解出来るのだが、比較対象として一番近いであろう勇者と比較した場合、と言っても、比較対象として成り立っていない、というのが正しい所だろう、というのがソーラの考えだった。

 それだけアリナの魔力は異質で、特異的な存在なのだ、それは理解しているが、ソーラは、底知れないアリナの魔力、それに興味すらあった。

 ウィッチとして研究がしたいのか、と問われると違うと断言出来るが、仲間として、アリナの実力を正しく知っておきたい、それがソーラの感情だった。

「アリナは強いわよー?ただ、わからない事が多いからー、私も、どっちが勝ってるのか?って言われると難しいけどねー。でも、アリナは強いと思うわよー?」

「そう、かな。ソーラがそう言ってくれるのなら、それは信じてみようかな。」

 朝食を食べ終わって、ロビーでディン達と合流だ。

 今日の事があって、何が変わって、何が変わらないのか。

 ソーラは、人間としてアリナがどう成長していくか、それが楽しみだ、と考えていた。


「うめぇな!」

「そうだね、美味しいよ。ここのホテルは本当に一流のホテルだから、こういうルームサービスも良いんだろうね。」

 アリナ達が朝食を取っている時間帯、丁度二人で朝食を食べていたジンとモート、ジンは、大将の料理が一番美味い、と言って憚らないタイプだったが、ここの食事はそれにも劣らない、と感じていた。

 馴染みのある味ではない、新しい食事なのだが、それはそれで美味しい、そう言った旅情緒を感じられるのも、また良いのだろう、と。

「そんでさ、モートの見てたじゃ、俺達は勇者に勝てると思うか?」

「うーん……。僕はソーラやディンみたいに魔力を感じとる力が強いわけでもないし、勇者の事は話には聞いた事が沢山あるけれど、実際に戦っている所を見たのは、人生で数回だからね。わからない、が正しいかな。僕も、ジンが魔力を持っている事には気付けなかったし、アリナがあそこまで戦える事も、僕自身がそこまで支援が出来るとも知らなかったから。だから、どうなっていくのか、皆がどう成長していくのか、年長者としては、それが楽しみかな。」

「そか、忘れちまうけど、モートってもう五十歳超えてんだっけ。」

「五十二歳になるかな。一番の年長者としてはディンがいるけれど、僕達のパーティの中では、僕が最年長って事になるからね。皆がどう成長して、どうやって戦っていくのか。戦うのは怖い、僕は後方支援しか出来ないから、直接戦う皆と同じ恐怖を体感するのか、って言われたら違うのかもしれない。ただ、仲間として、皆が何処まで成長するのか、それは楽しみだね。」

 モートは、精霊としてはまだまだ若輩者も良い所だが、人間としては年長者の類になる、それを実感していた。

 モートが湖畔を出たのが、アリサがアリナを身ごもった頃、その頃、モートは精霊の在り方に見限りをつけて、人間の街に降りてきた。

 当時は騒がしかった、ウィザルに辿りついて、定住するまでは、腫れもの扱いをされる日々だった、精霊とは、それだけ上位世界の存在であると同時に、人間の社会に降りてくると、面倒だと思われる、それを痛感していた。

 ただ、それに屈さずにモートに家を遺してくれた老婆、もう亡くなってから十年ほど経っただろうか、その老婆がいてくれなかったら、今でも腫れもの扱いを受けながら、旅をしていたかもしれない、とモートは心のどこかで感じていた。

「俺もまだまだガキだけどよ、人間として扱われなかった、って言うのはなんとなくわかるわ。俺も、魔力がねぇっていう理由で、家無しになったわけだしな。でも、モートが拾ってくれてよ、大将のとこに紹介してくれて、今でも感謝してるんだぜ?モートがいなかったら、今頃俺ものたれ死んでただろうから。」

「たまたま出会った、って言う言い方をすると、少し詩的すぎるかな。でも、ディンの言葉が正しいのであれば、僕達の出会いも運命だったんだろうね。……。ジンは、後悔してないのかい?育った街を離れて、戻れるかどうかもわからない、戻れたとしても、守護者の扱いって言うのは、悪辣な事が多い、って言う話を聞いた事があるよ。それでも、良かったのかい?」

「……。良かったのかどうか、それはわかんねぇ。ただ、俺に出来る事があるなら、してぇって思っただけだから、どういう未来があって、とかってのはわかんねぇんだ。守護者の扱いが悪いって言ってもよ、そうじゃねぇ未来もあるかもしんねぇだろ?なら、俺はそれに賭けてみてぇ。人ってさ、モートからしたら悪い事ばっかしてんのかもしれねぇけど、俺からしたら、大切なんだよ。誰に何を言われたとしても、人の為に生きていきてぇんだ。」

「……。それは、間違った感情かも知れない、過ちなのかもしれない。でも、そう考えられるジンは、素敵だと思うな。親御さんを恨むんでも無くて、人間を疎むんでも無くて、守りたいと願う、その感情、その想い、その願い、それは素敵なものだと思う。大切にするんだよ?僕は、そう言った感情を失ってしまった後だけれど、でも、今からでも取り戻せるのかな、とも思っているんだ。この旅の中で、大切な人達を思い出して、そしてそれを守りたいと願う、それが、僕が旅に加わった理由だと思っているから。」

 モートは、精霊の在り方に見切りをつけて、かといって人間に馴染んで生きるでもなく、中途半端だと自分自身を評価していた。

 何処にも入れないはぐれもの、それが自分であり、そして、そうなってしまった人間を保護して、育てるのが自分の役割なのだ、と。

 ただ、守護者の仲間だ、と言われて、それが変わろうとしている、何かが変わろうとしている、それが何なのかまではわからない、ただ、何かが変わろうとしている、それは感じていた。

 ジンとソーラ、アリナが持っていて、自分が持っていない事柄、人間を愛するという事、世界を愛するという感情、それを取り戻そうとしているのかもしれない、と。

「モートは優しいからよ、ダイジョブだと思うぜ?」

「ありがとう、ジン。君がそう言ってくれるのであれば、そうなのかもしれないね。」

 モートは微笑む、それは、ジンが素直に育ってくれた、それが嬉しいからだった。

 家族に追い出され、ひねくれても良かっただろうに、人間を愛して、人間を信じて、そうやって進んでいく、ジンの在り方にホッとした、という意味合いでもあった。


「さて……。」

 ディンは一人、朝食を食べ終えて、ベランダで煙草を吸っていた。

 今日から、都市の中でもトップクラスの勇者との組み手が始まる、それ自体にはさほど懸念はなかった、ディンは、その程度の人間であれば、相手を出来るだけの実力をアリナ達に与えたつもりだった、だから、そこに関して心配はしていなかった。

 ただ、懸念点は一つ、魔王デモスの在り方の問題だ。

 魔王デモスは、そもそもが闇としての在り方を持っていた、しかし、その在り方はこの世界における闇の在り方であって、世界群にとっての闇の在り方ではなかった。

 それが、世界群全体にある、大いなる闇の力を得ようとしている、それがディンの考察で、ディンは、それに対する守護者なのだろうと感じてたが、前回はそうなる前にアリナ達がデモスを討伐して終わった為、今回はそう簡単にいくか、と疑問を浮かべていた。

 最終的に、世界を守って貰わない事には、ディン自身世界群を守れない、それが竜神の在り方であり、竜神として世界を守護する、というのは、守護者を育て、そして闇と対峙させる、それが竜神としての在り方だ。

 ディンは竜神王、それには当てはまらないのかもしれないが、それを守らないと世界が滅ぶ可能性がある、と言われてしまっては、それに従うしかない。

 今のディンには、世界の法則を変えるだけの力は無い、世界の法則を書き換えて、新しい世界を生み出すだけの力が残されていない。

 万が一それを出来たとしても、それはディンの命と引き換えに、だろう、ディンは竜となって、世界を見守るだけの存在となってしまった結果だろう、それをしたくないから、こうして今、竜神達に代わって世界を守って回っているのだ。

「……。」

 もしも、以前の時間軸と同じ結末を辿るのだとしたら。

 ディンは、人間の営みには干渉を許されていない、それをしてしまったら、人間を意図的に狂わせてしまう事すら可能だ。

 それを是としない人生を生きてきた、人間を変える事は無く、家族を守りたい、その一心でやってきたのだ、家族に後ろめたい事をしたくはない、ともとれるだろう。

「ふー……。」

 同じ結末を迎えるのだとしたら。

 アリナは何を想って、何を考えるのだろうか。

 世界を恨む事はしなかった、そんなアリナの事を知っているからこそ、ディンはそうなってほしくない、と願っていた。

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