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聖獣達の鎮魂歌外伝~精霊の世界の物語~  作者: 悠介
四章 向かうべき場所

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三十一話 アリナの意思

「すげぇ景色だな……。」

「ね、凄いね。」

 夕方になって、まだ馬車に乗っていた五人だったが、そろそろ中心部のギルド前には突着する、夜がふけた頃になるだろう、今日はいかずに宿を取るのが正解か、とディン達は考えていた。

 街並みはどんどんと活気づいて行って、夕暮れの中に魔力の街灯がある、それ自体はみなれている物だったが、質が違うとでも言えば良いのだろうか、煌めきの違いと言うのに、感動していた。

 様々な色の街灯が煌めいていて、夕暮れから夜に変わっていく空の中光を灯している、それが美しい、と。

「グラン達は気付いてるのかしらねー?」

「さあ、どうだろうな?気付いたたとしても、何かアクションを掛けてくるとは思っていないからな。」

「それもそうねー。あの人達は研究が出来ればそれで良い人達だからー。私達が何をした所で、興味も持たないかもねー。」

 ソーラは、都市の中心部に向かうにつれて、懐かしい魔力を感じていた。

 それは父や母、十人いると言われているグランウィザードやグランウィッチ達の魔力で、相変わらずそれを隠すでもなく、配慮するでもなく、研究に没頭しているのだろう、という事を考えていた。

 魔力酔い、という言葉がこの世界にはある、ある程度以上の魔力を持っている人間の傍にいると、それを抑えないと周囲の人間が体調を崩す、という現象で、ソーラはそれを避ける為に、普段は魔力を抑えていた。

 それはディンの行っている限定封印とは少し違う形だったが、他人に影響を与えない様にする、という意味合いでは、似ているだろう。

 グランの座にいる者達は、そんな事はお構いなしだろう、だから、必然的に都市の中心部にいられる人間と言うのは、その魔力に対する耐性が高い人間に限られる。

「本当に、やんなっちゃうわー。あの人達の魔力って、ざらついてるのよねー。」

「ざらついている、というのはどういう意味だい?確かに強い魔力を感じれるけれど。」

「なんていうのかしらねー。人間の事なんてどうでも良い、他人なんてどうでも良い、って言うのが伝わってくるって言うのかしらねー?そう言うのがわかっちゃうと、あの人達の魔力って、嫌なのよー。まあ、魔力酔いするかって言われたらー、しないけどねー。」

「魔力酔い、強い魔力によって、感覚が過敏になって体調を崩す症状だったか。症状は多岐にわたる、その人それぞれがかかる症状が変わってくる、だったな。ソーラは普段魔力抑えてるから、そう言う風に周りの人間はならないんだろうけど、確かに強い魔力である事に変わりはないな。」

 では、アリナ達は魔力酔いをしないのか、と問われると、しないだろう、というのがディンの回答だった。

 アリナ達には、竜神の加護という名前の、守護の魔法を掛けてある、だから、ある程度のバッドステータスに関しては、抵抗値がある。

 というのもあるが、元来守護者は高い魔力を持つ、ある程度の魔力に対してであれば、魔力酔いをする事もない、それだけ高い魔力をもって生まれた存在、それが守護者だ、という話だ。

 精霊であるモートは勿論の事、アリナとジンも、その身に宿している魔力の量は高い、だから、他者の魔力に負けて魔力酔いを起こす、という事が無い。

「魔力酔い、精霊はかからない病だけれど、人間は大変だ、とは聞いていたね。僕はなんともないけれど、アリナ達は大丈夫なのかい?」

「うーん、今の所体調が悪くなってる感じはしないかな?」

「俺もだな。具合悪くなったら、すぐわかる方だけどよ、別に具合悪いとも思わないぜ?」

 アリナとジンは、何も感じていない、それは、ソーラが感じ取っている様な、過敏とも言える魔力探知能力がないから、であって、魔物に関する探知とは話が変わってくる。

 アリナとジンの探知能力は、魔物に特化したもの、であるからして、魔力の探知は現在出来ない。

 それでも支障がない、という事は、魔物とモンスターは明確に違う、モンスターは魔力によって生み出される存在であり、魔物はその闇から生まれてくるものだ、という事になる。

 モンスターは魔力をもって、その身を生み出す、それは、魂が云々ではなく、魔法によって人工的に生み出されている存在であり、自然的には生まれない存在だ、という事であり、逆に魔物は、元来自然的に発現する存在であって、人為的には生み出せない。

 それを出来る存在、それがディンにとっての敵であり、竜神王が何百万年も戦い続けてきた、大いなる闇という存在だ。

 魔物を配合、つまり自然的に生まれる存在である魔物と、人為的に生み出されるモンスターを配合する事は出来ても、それ自体を生み出す事は出来ない、それがこの世界群の摂理だ。

「……。魔物は、魔力を持っている訳ではなかった、それは正しい認識だね?」

「そうだな。魔物は闇であって、魔力を持っている訳じゃない。だから、正しく人間である勇者には、討伐する事が出来ない。ただ、デモスが魔物とモンスターの配合をしているのだとしたら、魔力を持った魔物、って言う存在が出来上がる、それも間違いじゃないな。そうなってきた場合、俺も対処が必要になってくるかもしれない、大いなる闇が関係しているんだとしたら、それに対処出来るのは俺だけだからな。」

「大いなる闇、って結局はなんなのー?五千年前に世界を滅ぼそうとした存在、って言うのは聞いた事があるけどー。でも、詳細な部分に関しては、文献も何も残ってないんだよねー。」

「……。詳しい事は、俺自身聞かされてないんだ。大いなる闇、それと竜神王はずっと戦い続けてきた、って言う話を聞いた程度でな。先代が何かを伝える暇がなかった、って言うのが正しいのかもしれないけど、そうだな……。一つの世界じゃなくて、世界群全体を滅ぼそうとしてる存在、ではあると思う。歴代の竜神王が戦っていた相手、そして、先代が世界を分けるに至ったきっかけ、それが、大いなる闇の事だと思う。」

 大いなる闇、とディンが呼称しているそれは、ディン自身正体を知らない、知らされていない。

 歴代の竜神王がそれと戦ってきた事は知っている、それは竜神の中で語り継がれている事だ、だから知っている、ただ、竜神の誰も、その正体に関しては知らされていなかった。

 先代の妻であり、ディンの祖母に当たる竜神、ライラでさえ、その正体を知らないと言っていた、先代の娘であり、ディンの母であるレイラも、それを知らされていないと言っていた、だから、竜神達に聞いたところで、大いなる闇、という情報以上の事はわからない。

 敵を知らずに戦っている、それは危うい事だ、とディンは守護者達に伝えているが、そのディン自身が、敵の正体を知らずに戦っている、だからこそ、敵の本質を知る事は大切だ、と伝えているのだ。

「大いなる闇、お母さんが……。何だっけ、世界を闇の底に引きずり込もうとした存在、だって言ってたかなぁ。でも、それはおとぎ話だ、って言ってたよ?」

「アリナのお母さんは精霊だったから、その事を知っていてもおかしくはない。この世界では、世界分割の事に関しては知ってたんだろう。ただ、アリナを怖がらせない様に、おとぎ話だ、って言う事にしてた、ってところかな。さ、教鞭も良いけど、そろそろ到着するぞ?」

「そっか、お母さんは知ってたんだ……。なら、もっとお話を聞いておけば良かったな。子供の頃、そのお話が怖くて、お母さんが隣にいてくれないと、眠れなかったんだ。」

 アリナの幼少の頃の話、アリナは、母から色々な話を聞くのが大好きで、しかし怖がりだったアリナは、怖い話を聞くと、決まって母のベッドに潜り込んで、背中を叩いてもらって寝ていた。

 懐かしい、今となっては懐かしい、まだ十歳にもなっていなかった頃の話、守護者の冒険譚や、世界の事を教えてくれていた母、それを、もっと詳しく聞いておけば、何かが変わったのかもしれない、今とは違う未来があったのかもしれない、と。

 ただ、それは叶わない願い、今はもう、それは出来ない。

「……。ねぇディン、守護者の刃になった精霊は、元の姿に戻る事はあるの?たとえば、世界を守った後、とか。」

「そうだな……。歴代の守護者、その刃となって魂を変質させた精霊が、元あった姿に戻った前例は、今まで無い。……。アリナのお母さんがその前例を覆す事が出来るのか、それとも出来ないのか、それはわからない。それが出来るとしたら、何か代償が必要だろうな。」

「……。そっか。」

 アリナは、もう一度だけで良い、母と逢いたいと願っていた。

 ただ、それは叶わない願い、求めてはいけない想い、それを願うという事は、武器となって世界を守る事を選んだアリサを、侮辱してしまう事になる。

 だから、この話はここでお終いなのだ、とアリナは感じていた。

 ただ、逢いたいと願う事は止められなかった、会いたい、もう一度だけで良い、もう一言だけで良い、せめて最期に、別れの言葉を告げたかった。

 アリナは、それすら許されなかった、別れの言葉を告げる事も許されず、一方的に別れを告げられ、戸惑っている間に別れの時間が来てしまった。

 だから、最後にもう一言で良い、感謝を告げたかった、と。

「お母さんは、何を思って武器になったんだろう。私が世界を守って見せる事を信じてる、って言っていたけど、それ以外は何も言ってくれなかったな。」

「きっと、アリサはアリナを愛しているよ。ずっと、それは変わらないと思うな。デュオの事を愛していたアリサだから、きっとアリナの事を愛している、僕はそう思うよ。……。確かに、武器になった精霊が元に戻った前例はない、それはそうだね。アリサも言っていた、アリナのおばあさまは、ドーガンの為に武器になって、還って来る事はなかったって。……。でもね、アリナ。アリサはこうも言ってたんだ、武器になったとしても、お母さんは父さんの隣にずっといた、私の傍にいてくれた、っていう風にね。最初は何を言っているのかはわからなかった、僕も、その時に初めて、精霊が武器へと変質する事を聞かされた、そして、それを目の前で見た事があったわけでもないからね。ただ、今ならわかる。アリサは、ずっとアリナの傍にいてくれているよ。感じるんだ、アリサの魔力を、想いを。」

「モート……。うん、きっと、お母さんは傍にいてくれる、ずっと、ずっと、それは変わらない。私は、世界を守る道を選んだ、きっとそれは、私の魂がそうだった、って言う事なんだと思う、でも、私の意思は、ここにある。お母さんの願い、想い、それを捨てたくない、握りつぶしたくない、だから、私は戦う。勿論、皆の事を守りたいし、世界だって好きだよ?でも、それもあるけど、お母さんが傍にいてくれるから、きっと出来るって思うんだ。」

 アリナは、寂しそうに夕暮れから夜景へと変わっていく景色を眺めながら、そう言った。

 選ばれた運命、それはどうしようもない、前世の自分が、それを選んだという事になる、ディンの話が正しいのであれば、それを選択したのは過去のアリナ自身だ。

 ただ、その想い、決意、意志は、誰かに強制されたものではない、これは、アリナが自分自身で持っている気持ちだ、と。

 それは間違いではない、どの世界でも、守護者達は、自分達の意思で、世界を守ると決めていた、それが、守護者を守護者たらしめる事なのだ、とディンは聞いた事があった。

 世界を守る運命だった、それは変わらない事実だ、だが、それを選択するのは、何時だって守護者自身なのだ、と。

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