第203話 変わらねぇ
「とりあえず、手数は増やしておいた方がいいかもだね」
オーデュ・スルスは大きな街だから、私一人で全体をカバーしてると、細かいところまで目が届かなくなっちゃうのです。
丁度良いタイミングで、ハナちゃん型のゴーレムがこっちに向かってきてくれてるし、力を借りちゃおうかな。
崩れかかってる建物の中には誰もいないね。
だったら、1件くらい建物の石材を借りちゃってもいいでしょう。
その石材でハナちゃんゴーレムを増やせば、街中を見回ってくれるはず。
可愛いから、目の保養にもなるしね。
「それじゃあハナちゃんたち、街中の見回りとけが人の回収、それから入り込んだ魔物の撃退をよろしくね! あ、崩れかかってる家の中に人がいたら、避難させることも忘れずに!」
よし、これで街の人たちはソレイユさんのもとに集まってくれるはずだよ。
お次は、一旦ネリネに向かいましょう。
レヴィアタンが振り撒いてる業火をかいくぐるように風の道を展開。
とはいえ、直接ネリネに乗り込むのは難しそうだね。
だって、振りまかれてる業火を吸収するために、サラマンダーは走りっぱなしみたいだもん。
今のネリネにカルミアさんが乗ってなくてよかったよ。
乗ってたら、絶対に気分悪くなってるよね。
「それじゃあソレイユさん! 私は行くから、ここをよろしくお願いします!」
屋根の上から告げた私に大きく手を振って返してくれるソレイユさん。
うんうん。
順調に街の人も集まってきてるみたいだし、任せてよさそうだね。
っと。
そろそろ行かなくちゃ。
躊躇ってる場合じゃないもんね。
風の道を通って、ネリネがいるあたりの上空にたどり着いた私は、すぐに風のバリアを張りました。
こんなところで万能薬を無駄にできないのです。
つづいて私は、業火を放ってる首に近づきながら、3本の風の道を展開したよ。
火を消すためには、やっぱり水だよね。
幸い、すぐそこに海があるんだから、活用しない手はないでしょ?
海の中で折り返して、街の上空に伸びてくる道。
こうしてあげることで、沢山の海水を引っ張ってこれるはず。
あれ?
単純に海水で火を打ち消そうとしただけなんだけどな。
思ってもなかったものを、引っ張ってきちゃったみたいだよ。
「ひゃっはぁ~~~~~!! これはすごく楽しいのデス!!」
「プル子ちゃん!?」
「やぁやぁリグレッタ! アタシが来ちゃったんデスよぉ!」
ニッコニコのプル子ちゃんが、海水に紛れて飛んできちゃった。
どうしよう。
このままじゃ、宙に放り出されたプル子ちゃんが街に落っこちちゃうよ。
そうだ。
風の道をループさせちゃえばいいんじゃない?
そうしたら、彼女と海水が落っこちなくて済むかもだよね。
思い付きだったけど、案外うまくいったみたいです。
プル子ちゃんも、ループしたまま浮かんでる海流を利用して、降り注いでくる炎を消してくれ始めたんだよ。
「火消しはアタシに任せてチョーだいデス!! それよりリグレッタはあっちの手助けをお願い!!」
あっち。
プル子ちゃんがそう言ったのは、レヴィアタンの尻尾みたいだね。
再び振り上げられた巨大な尻尾。
また振り下ろされちゃったら、地震と大波が来ちゃうよ。
今のところ、プル姉が操ってる氷の巨人が、止めに向かってくれてるみたいです。
でも、レヴィアタンがおとなしくしてる保証は無いワケで。
なにかしらの邪魔をしてくるのは目に見えてるよね。
「プル子ちゃん! ここはお願いね!」
「まかせるデス!! あと、お空の雲は、婆ちゃんに任せた方がいいデスよぉ!」
「そうなの? よくわかんないけど、分かったよ!」
プル子ちゃんのおかげで降り注ぐ業火はほとんど無視できるようになったよ。
それはつまり、ネリネとサラマンダーが走り回る必要がなくなったというわけです。
「みんな!! 大丈夫!?」
「リグレッタ!! やっぱり戻ってたのね!!」
急いでネリネのテラスに降りたら、真っ先にハリエットちゃんが駆け寄ってきたよ。
「それで、リグレッタ。兄さんたちは?」
「うん。無事だよ。今はここに連れてきてないけどね」
「よかった……」
ほっと胸をなでおろすハリエットちゃん。
そんな彼女の全身がずぶ濡れになってるのは、きっと炎から身を守るためみたいだね。
階段から外の様子を伺ってきてる盗賊団のみんなも、同じように濡れてるみたいだし。
テラスの端で空を見上げてるキルストンさん達も、ずぶ濡れなのです。
「あれがプルウェア……」
「想像の何倍もでかいですわね」
「あはは。あれは本体じゃなくて、プル姉が作った氷の像みたいなものだけどね」
「はぁ? そりゃ一体どういう意味だ?」
説明を求めるキルストンさんの圧に負けて、私は簡単にプルウェアさんたちのことを話したよ。
ホントはそんな余裕ないんだけどね。
「三人の神様? そんなことってあるんだ」
「うん。三人とも、イゼルって街と一緒に海底に閉じ込めれられてたんだよね。その原因が、いま街の上にいるレヴィアタンって魔神なんだって」
「兄さんが好みそうな話だわ」
「そりゃもう、好きそうにしてたけどね」
「……」
どこか嬉しそうな反応を見せてくれるハリエットちゃん。
だけど、一番説明を求めてたキルストンさんは、黙ったまま氷の巨人を見上げてるよ。
せっかく話したのに、なんかモヤモヤするじゃん。
そう思ってたら、キルストンさんの隣で同じように氷の巨人を見上げてたシルビアさんが、ぽつりと呟いたのです。
「閉じ込められていた……ですか」
「はっ。神だなんだといっても、その程度みたいだな」
「キルストン……」
なにか思うところがあるのかな?
実は、プルウェアさんたちは逃げ出そうと思えばできたけど、イゼルの街を守りたかったから仕方なく海底で待ち続けてただけなんて言ったら、怒るかもだね。
……違うね。
よく考えたら、キルストンさん達も同じ状況だったのかも?
詳しくは聞けてないけど、二人もきっと例の恩人さんのために、プルウェア聖教の兵士として働き続けてたんじゃないかな?
そんな二人にとって、プルウェアさんたちの存在はどう映ってるのでしょうか?
「……人間と変わらねぇじゃねぇか」
「そうですわね。あまり変わらないのかもしれませんわ」
「クソが」
短く呟くキルストンさんに寄り添うシルビアさん。
そんな二人の後姿を見て、私は良いなと思っちゃいました。
「ちょっと、リグレッタ!! あれ、マズいんじゃない!?」
ハリエットちゃんの言葉にハッとして、空を見上げた時。
つんざくような轟音が、雷光とともに街を覆ったのです。
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