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 舞踏会は王城の大広間にて開始される。


 王都では毎日のように、どこかしらの貴族家がパーティを開いている。社交に熱心な方は、そうしたパーティに出席し情報を集め、派閥の連帯を強める。とは言っても、対立派閥から招待状が着てもお断りするのが普通だ。そのようにして自分の立ち位置を明確にするのである。ちなみに我がヒューストン侯爵家――というか、今社交に出ているのはジェフリーだけだが、スケジュールが空いていれば特に派閥に関係なくパーティに出て情報を集めているらしい。まあこのスケジュールというのが中々空かないらしいが。


 王家が主催するこの舞踏会もそうしたパーティの一つだ。基本、王家からの招待を断るクソ度胸の持ち主はあまりいらっしゃらない。だからこの舞踏会は他派閥の人間を自派閥に引き込んだり、情報を引き出したりする駆け引きの場となっている。


 四季折々の花に飾られた風光明媚な外観で知られる王城は、内部も――とりわけ来客を招くような大広間は豪奢だ。恐らく光魔法の魔道具であろう、色とりどりのシャンデリアが天井を飾り、壁面には精緻な壁画が描かれている。床には海を越えた東国から取り寄せたという絨毯が敷き詰められている。迂闊にワインも零せない。


 カチュア殿下の家庭教師として王城に来ることはあったが、この王広間を訪れるのは十五歳のデビュタント以来だ。両親はさすがに顔を出していたらしいが、国王陛下にご挨拶をしたらさっさと切り上げて帰るのが常であったらしい。


 そんなことを考えていると、風魔法で広間全体に響くよう拡大された声が、わたくしの耳を打つ。


「グリトグラ王国第一王子、セオフィラス・ディオール・グリトグラ殿下、並びにウィリアムズ公爵家ご息女、ヴァネッサ・ウィリアムズ様、ご入場!」


 ジュリアス殿下と共に現れたわたくしを見て、ヴァネッサは随分驚いたようだった。けれどわたくしたちが友人同士であってもジュリアス殿下とセオフィラス殿下は不仲で、王太子の座を巡って対立する間柄だ。詳しい事情を詮索されることはなかった。


 ヴァネッサとセオフィラス殿下の不仲は、よほど中央の情勢に疎い貴族でない限り誰もが知っていることだ。それでも腕を組み、仲睦まじい振りをして衆目の元に身を晒さなければならないヴァネッサの心中はいかほどのものか。


 公爵家の息女に生まれれば政略結婚は仕方のないこととは言え、あまりにもあまりだ。しかも姑がエイプリル王妃殿下では、例え金銭的に恵まれていても、ヴァネッサのこれからの人生が幸福であるとは思えない。


「どうかしたか、ブリジット嬢」


 わたくしの表情が曇ったのを察して、ジュリアス殿下が気遣わしげに声をかけてくださる。


「いえ——ヴァネッサのことを考えていましたの」


「ヴァネッサ嬢か……幸せな結婚生活を送れるとは——確かに思えないな。兄上が魔法の研究を続けさせてやるとも思えない」


「ええ。それを思うと……少し悲しくなりますわ」


「——それでも今は、こうして腕を組んでいる俺のことだけを考えて欲しい。そう思うのは傲慢かな?」


「そんな口説き文句、どこで覚えてきますの?」


「ジェフリー愛読の恋愛小説」


 ジュリアス殿下の言葉に、わたくしは思わず噴き出した。


「緊張はほぐれたか?」


「ええ」


 わたくしは悠然と微笑む。


 思えば——。


 ジェフリーもシェリーも美しい容姿で、長女のわたくしだけが平均やや上の容姿。それをどこかで自分の瑕疵として受け止めていたのかも知れない。


 弟妹に見劣りする自分は幸福な結婚など望まず、自分で身を立てて行かなければならないと、どこかで決めつけていた。


 それがどうしてこうなったのか、誰もが羨むであろう、この国の王子の隣に立っている。


 王子様とわたくしをつないでくれたのは、外ならぬ可愛い弟だ。


「さあ、俺たちの番だ。準備は良いか?」


「ええ」


 ジュリアス殿下の言葉に、わたくしは力強く頷いた。


「グリトグラ王国第二王子、ジュリアス・クリスティアン・グリトグラ殿下、並びにヒューストン侯爵家ご息女、ブリジット・ヒューストン様、ご入場!」


 会場に響きわたったわたくしの名に、来場者たちがにわかにざわついた。


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